さて9話。
麗羅回だなんて言ってるやつはにわかだぜ。
これは陽炎回だ。
さて、聖剣登場とともに、
このドラマは原作を離れました。
そもそも武蔵の長刀の中から黄金剣が現れる、
そのシーンをやめた決断をしたわけです。
(で、うまいこと武蔵の手の中で黄金剣が脱皮するように、
12話で接続するわけです。
ここは原作ファンもうなるはずだと、改心の出来)
壬生と陽炎。大きなふたつの乱数が、物語をかきまぜます。
運命の大きな流れは敵によって起こり、
主人公サイドはその大きなうねりを、
越えていかなければならない。
それがヒーローものの宿命です。
7話以降、すべてオリジナルで来ました。
もはや原作風魔を離れ、
我々のオリジナルストーリーといえます。
オリジナルってことは、作家性が出るということ。
それが車田正美と異なり、かつそれと比肩しなければ、
オリジナル展開イラネ、となった筈。
しかし原作を超えるほど面白ければ、
「うまく融合した、独自の面白さ」になる筈。
市野さんの作家性は、食卓コントに集約されます。
複数のキャラクターをさばくのがとてもうまい。
11話の焼き芋コントとかも上手。
家庭を描くのが得意なのかもしれません。
僕の作家性はなんだろう。
「緻密なプロット」と「人の心の奥底に触れる」というあたりかな。
それぞれ、9話と10話のことです。
作家性が出るってことは、それに責任が伴うということ。
楽しんでいただけるか、ずっと2ちゃんの実況を見ていた記憶があります。
とにかく壬生が人気でよかった。
9話の位置づけは、「吸収回」という計画でした。
ラストに突っ走ることは分かっていて、
最初に劉鵬まで各キャラ回をやることは決まっていて、
8話で壬生の確変があることまでは決まっていたので、
クッションのようにして次へ渡す回であると。
CGの予算の吸収も考えていたんですけど、
今回もわりと出ます。
(白羽陣を仕込む隙=予算はもうないぞと)
意図的に今回は、イケメンたちを活躍させる、
という露骨な回を狙いました。
水着回みたいなやつ。
兜丸さん、劉鵬さんごめんなさい。
「人気の出るやつをだしとけ」パックでございます。
劉鵬や兜丸に、キャラソンあればよかったのにねえ。
そういう露骨な人気商売はねえ。
まあ予算の関係で全員分のキャラソン作れないのはありますが。
人気コンテンツとなり、
オリジナルストーリー舞台が続くような回転があれば、
そういうことも出来たのかなあ。
しかし風魔は次々死んでゆく話。
「萌えたら死ぬ」と言われたドラマでございます。
小龍、霧風、麗羅、出撃。
リアルタイムでは麗羅がこれで死ぬのか、と言われていて、
してやったり。
小次郎に重いバトンが渡されました。
それは責任という重責です。
小次郎は、今まで無意識にあんちゃんたちがいることに甘えていたのかもしれない。
それは末っ子なら当たり前というか、
生れてきた環境だったから。
でも、「外を知る」ということは、
生れた環境を捨てて、
一人で生きていく、という意味です。
一人で、風林火山をつかえなくてはならない。
竜魔は倒れた。
次に俺はどうすればいいか。
物理的に重い風林火山ですが、
それは人生の重みと等価です。
「お前は何者になるのか?」という問いだからです。
前回の戦闘を踏まえ、
小次郎は風林火山に一番近い人間です。
じゃあ目的はひとつ。
風林火山を、使えるようになること。
風魔烈風を強化してもよかったのかもしれないけどね。
原作において、
聖剣は強化アイテム扱いです。
当時の80年代はそういうものが重宝されました。
すごいモノをゲットすれば最強になれる幻想。
前作リンかけのカイザーナックルも含め、
そういう時代でした。
しかし現代はそうではないと、僕は考えています。
結局自分が最強でない限り意味がない、
というのが現代だと考えます。
このことは監督メモに詳しく書いたので、
ここではあまり繰り返しません。
アイテムゲットだぜ、と安易にレベルアップするのではなく、
どうなるのが成長か、というもがきがドラマになると考えました。
だから、このドラマ版には、
「正統継承者だからすぐ使える」というのはありません。
それにふさわしい者でないと使えない、
ということにしてあります。
ふさわしくなろうと懸命になることすら、
コスモの運命なのかもしれませんが。
オープニングが変わりましたね。
オープニングが変わるのが、僕大好きなので。
でも新オープニング用の素材を撮れるスケジュールはなかったので、
これまでのダイジェストや、9話10話までの撮影素材から編集しています。
ほんとは最終回の雪とか、絵里奈が倒れるところとか、
そういうのをいれたかったんだけど、
その時点で撮影合成できていないものはない。残念。
オープニングが変わったということは、
ストーリーが別物になっていったことの象徴です。
「駄作みいいえええたあああ」
のところからシンクロを取るのかどうかでなやんだことを思い出します。
蘭子さんのこれは恋でしょうか。
まだ恋に恋しているのかもしれません。
まあそれが恋の面白さだよね。
とだいぶオッサンになってしまった僕は思います。
人間、中身を丸裸にするのはこわいものです。
相手のそれにふれるのもこわいものです。
そのことについては、次回。
姫子の「警察に相談したほうがよいのでしょうか」
は、なかなかの名台詞だと考えています。
警察だって? なにを言っているんだ?
と、全員が思うところ。
忍びというフィクション的な、聖剣というフィクション的な、
漫画というフィクション的な、
あくまで架空の世界なんだけど、
現実世界のここと繋がっている、
そういう感覚が、
我々の平衡感覚を保ちます。
渋谷のスクランブルに立たせたのも、
実はそういうこと。
忍びがケータイ持ってるのも、そういうこと。
当時はケータイ持ってたり、コンビニ行くのでも、
「すげえ!」と言われていました。
今は慣れたのでそうでもないけど、
当時としては画期的なアイデアだと思います。
警察は全くなにをやっているのだ。
監視カメラはどうしているのだろうかね。
ちなみに忍びに姓はない、というのは、
戸籍登録されていないことの証です。
死んでも器物損壊ですな。
忍びはただの刃じゃない、心を持った刃だ、
という姫子の考え方は、正しくもあり、間違ってもいますね。
兵士や社畜に人権を認めていたら、戦は成功しないこともある。
恒久に人権を認めないのではなく、
たとえばアメリカ軍は給料や名誉という点で人権を認めさせている。
なにが正しいのか、自分で答えを出さないといけない。
それが青春というものです。
氷川と西脇のような、
誠士館に引き抜かれた人間との再会は、
最初に設定されていた「誠士館の汚いやり口」があったとしたら、
必ずやるべきドラマだと考えていました。
原作ではそんなのなかったかのように夜叉との闘いにいっちゃったからね。
ほんとは3話でやりたかったんだけど、
その暇がなかったので、
吸収回役割のここでやることにしました。
ただバトル回ではドラマとは言えないので。
なぜ白凰を捨てて誠士館にいったのか?
それは原作でも語られないことです。
特待生的な、金か? レギュラーになれるから?
色々なドラマがあることでしょう。
今回は「家族が人質に取られている」というベタな悪を用意しました。
一回でやるには分りやすいからね。
そして「監視がついている」を陽炎が利用する。
この二重プロットが今回の目玉です。
そのためには霧風が必要だったので、今回は色々なことを、
一気に実現する回になります。
そもそも風魔をドラマ化するときに僕が考えたコンセプトは、
「表で試合、裏で死合い」というものでした。
表では部活の試合をやり、
その裏で気づかれないように忍びが闘っているという構図。
予算の関係でうまく表現できたものは少ないですが
(シンクロのプールはあれで面白い絵面にはなったけど)、
この将棋部に関していえば、
やりたいことがようやく出来た、という感じ。
表と裏。一見関係がないようでありながら、密接に関係している。
そういうことが、僕のやりたかった忍びの闘いです。
たぶん、司馬遼太郎の「梟の城」に影響を受けています。
あの中で、
闇の中で忍び同士が戦う時は「一切声を出さない」という習慣が語られます。
(おそらく創作でしょう)
それくらい、秘密裏に命のやり取りが行われている。それが面白くて。
それとマトリックスにも影響を受けているかな。
「今ある不思議現象は、マトリックスのバグで説明できる」というやつ。
超能力はマトリックスへのアクセスだし、
デジャブはデータ符号の誤り、みたいなやつ。
水道が突然止まるシーンは、まさにそんな感じをやりたかったのです。
表の何気ない異変みたいのものは、
裏で起こる何かの現れである、みたいなこと。
それを知る観客だけが、両方をハラハラしながら見守っている。
そういう構図がやりたかった。
しかも、その状況を利用して陽炎が一発かます。
二重三重に組まれたプロットですよと。
というのをやりながら、
じつは麗羅のデビュー戦がメインイベントになるように作っている、
さらに四重構造が今回の華でしょうかね。
「やっべ!美容院いかなくちゃ!」は名台詞。
未熟な現代っ子をうまく表しておりますな。
あと、「燃えちゃえ」は、とても考えた末の決め台詞です。
今後麗羅といえば「燃えちゃえ」になる、
そういう計算です。
いつもニコニコしていながら、いざというときは残忍になる、
子供っぽいところを残している、
そういう感じのキャラクターです。
(「燃えちゃえーぼーっ」というニュアンスと、あえてギャップをつくった)
こういうステレオタイプは、
原作の時代にはなかった類型ですよね。
だからちょっと原作に対してやりすぎたかなあとは思っていました。
でもいいや。面白かったから。
さて、9話を語るうえで、
霧風の事故について避けるわけにはいかない。
屋上の戦闘中、
陽炎の変則的な技の組み立てを考えているときに、
木刀の間合いなのにハイキックを出すと面白いぞ、
と現場で思いついてしまったのが運の尽き。
役者に役者の顔めがけて蹴らせるべきではないな、
と深く反省しました。
やるんなら、スタントマン相手(たとえば背中を向けた霧風として)
に、豪快に蹴らせるべきでした。
さいわい怪我は深くなく、今でも古川は奇麗な顔で舞台に立てています。
しかしこの瞬間から11話のラストまで離脱となるのは痛手だった。
(11話のラストはケガしていない方向から撮っている。
肌色の絆創膏のような小さなものを貼っているので、
以後アップを撮るときは常にそっちからしか撮らなかったわけで)
アクションは危険。だから魅力的。
アクション俳優はそのためにいるのに、
アクション俳優を使う算段を立てられなかった僕の責任です。
すまぬ古川。
僕は見舞いにいきたいという、
プロデューサーは現場を止めるなという。
どっちも正しかったけど、現場を止めずに、
その日は古川無しで屋上の麗羅デビューを撮り終えるのが、
責任を果たすことでした。
事故とは関係なく、ドラマは面白くなくてはならない。
(ちなみに後日古川に、
当たったテイクと当たってないテイクのどっちを使って欲しいか聞いて、
当たってない方のテイクを採用。
霧風はハイキックごとき当たる筈がないという、
役作りを優先した使い方)
踊るような陽炎の殺陣とは対比的に、
妖水のヨーヨーは冴える!
僕は現場でずっと面白すぎる絵面に笑っていたなあ。
このために妖水を川田に選んだようなもの。
原作のワッパも好きなんだけど。
二挺ヨーヨーもとても面白かった。
「八将軍最強の妖水さまを尊敬しろ!」
このドラマはそれぞれのキャラクターに名台詞があって、
とても楽しい。
白羽陣を仕込む予算はありません。
「心づけ」で言おうとした内容ってなんだろう。
御挨拶? 戦場作法で言うと「名乗り」なんだろうけど、
忍びは奇襲が旨だしなあ。まあ色々ずれてるのが狙いなんだけど。
ということで、
ヨーヨーは必ず手元に戻る性質があることを利用しての、
頭脳プレイで妖水破れたり。
朱麗炎は派手なやつにしておきました。
奥のマンション、大丈夫だろうか。
蘭子さんが「目立たぬように」と注意出来ないのも、
その場にいなかったからかもね。
(その後、「夜叉八将軍、全滅です!」って姫子に麗羅が
報告するシーンを撮影したけど、本編ではカット。
その分氷川と西脇のドラマを厚めに使っている。
メイキングで鈴木が「全滅です!」って言っている台詞はそれのこと)
陽炎霧風戦の再戦は、12話撮影のさなかに行われました。
もう最終の最終の撮影の最中。
やっと撮れて、二人の胸のつかえがとれてよかった。
当てたほうが気を使うからね。
実は腹チラには気づいてて、撮り直そうかと思ったけど、
もう一回撮るのももったいないと思ってOKにしました。
そのおかげで古川ファンは大喜びかもしれないと。
ちなみに陽炎分身と霧幻陣の分身対決は、
AVIDの簡易合成で作り、合成費を稼いでいます。
ただフィックスの絵を増やすんじゃなくて、
カメラが動いたようにそれぞれのレイヤーを動かしているだけだったりして。
安い合成だけど効果的。
そして陽炎が忍者的な布から出て来るのもアナログ合成です。
ふつうに布から出てくる芝居のあと、空舞台を撮って、
OLで重ねるだけ。
以後、陽炎のめらめら(ガスコンロをカメラの手前に置くだけ)
ワープにも使っています。
アナログ特撮大好き。
デジタルで全部やるよりよっぽど面白い効果が作れるし。
一端陽炎に×がつき、また復活するやつは、
編集室で思いついたアイデア。
いつものアレをやってそれをひっくり返すという、
トリックスター陽炎ならでは。
一種デッドプール的な、
第四の壁を越えたキャラクターともいえるでしょうかね。
静かで熱い友情のドラマ、
麗羅デビュー戦とぶっ飛んだ妖水の対比、
陽炎の離反、
そして小次郎の責任。
色々と盛りだくさんな9話でした。
壬生はどこへ。
そして次回、大一番の「告白」でございます。
これをやるために俺はこの仕事を受けたのだ。
(今思えば、10話の予告は、姫子と蘭子に読ませたかった……!)
2017年11月30日
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