フィルムの絵は濡れている。だから好き。
デジタルの絵は乾いている。だから嫌い。
ようやくじぶんのことばになったので、
メモしておく。
テレビがHDになってからこっち、
デジタル撮影ばかりで退屈だ。
僕はフィルムの絵を愛していて、
フィルムが回せるからドラマよりCMをやっていた。
いまや映画でもフィルムは滅多にない。
主な原因はフィルムより安いコストだ。
(ランニングコストと、照明費、人件費)
でもそのせいで絵が安くなった。
日本の映画の絵が安いのは、
カメラと照明と人件費と時間を削っているからだ。
一番でかいのは時間かな。
ハリウッド映画は1日ワンシーンかツーシーン。
(3ページ程度か)
アクションシーンなら一週間とかかける。
日本映画は1日4、5シーンくらいは撮るかも。
角川映画でやったときは、1日5ページのペースだった。
それぐらいやるとなると、
撮影部隊はコンパクトにしないと動きが悪くなる。
照明は少なくせざるを得ない。
ハリウッドがリッチなのは、照明が多いから。
あとマルチキャメラなので、
照明を一発決めればそれで終わりだから。
シングルカメラで切り返す日本方式は、
カットが変わるたびに照明を組み直す。
全部置きっ放しにできる金はない。
ちなみに風魔ドラマは、1日8ページのペースで、
アクションシーンなら半日かけられた。
CMの現場がいいのは、
大抵1シーン撮影なので、
1日1シーンという、
ハリウッド並みに秒単価がかけられること。
しかしそれもフィルム時代までで、
デジタル化されてからは、
そこまで現場に金がかけられていない。
デジタルコストダウンした以上に、
原価が下がっているからだ。
つまり、絵に金をかける余裕は、
今日本のどこの現場にもない。
よほどもうかってる上級企業だけだね。
色空間はデジタルの方がもはや広いし、
粒子はフィルムのほうがざらついてるし、
デジタルカラコレの破綻もだいぶマシになった。
にも関わらず、
ハリウッドのデジタルの絵より、
フィルムのほうが僕は好きなんだよね。
なんでだろう。
ノスタルジーはある。
最新のガラスと金属の建物より、
ヨーロッパの街並みのほうが好きだ。
それがノスタルジーかどうかはわからん。
で。
フィルムとデジタルの絵の違いが、
ぼくのことばになった。
フィルムは濡れている。
デジタルは乾いている。
人間の濃厚さは、濡れていることに起因している。
涙、汗、血、愛液、紅潮、息、手を繋ぐ湿気。
人と人の距離の空気感。
それがドラマを生んだ。
デジタルの絵は、それが抜けている気がする。
デジタルの絵は乾いていて、
乾いたドラマしか描けない気がする。
濃厚なドラマは、デジタルの絵だと滑る。
だから、濃厚なドラマをデジタルの絵で撮るとき、
手持ちで振り回して撮ることが多い。
フィックスで撮ると寒いんだよねなんか。
ちょっと技術的に考えると、
フィルムの絵は常に揺れてるからいいんじゃないか?
それはフレームが揺れてるパーフォレーションの問題じゃなくて、
ピクセルの話。
デジタルの絵って、カメラ固定して照明条件が変わらなければ、
どの(x,y)ピクセルもtに関して同一だ。
たとえば(30,30)のピクセルを拾って、
カット頭からカット尻まで見ると、
全く同一のRGBカラーがあるだろう。
センサの揺れはあるにせよ、
ほぼ同一の色がそこにあり続けるはずだ。
しかしフィルムはそうじゃない。
たとえば(30,30)の(120,80,205)の色は、
120近辺、80近辺、205近辺でそれぞれ揺れていて、
たとえば105-125,77-83,200-209みたいな、
平均して120,80,205に収まるような、
カット頭からカット尻になっているだろう。
それが私たちの目に、濡れを引き起こしてるのではないか?
デジタルの絵に粒子ノイズを足してもそうならない。
デジタル粒子ノイズは、
ピクセル化されたグレーノイズを足すだけで、
カラーの揺れは再現できても、
フィルムの粒子揺れ(センサ自体のt軸揺れ)まで乗せることは出来ないからだ、
つまり、撮影時にCMOSを微細に揺らさないと、
その変動は再現できないかも知れない。
実際、4K8Kのセンサは、
もう人間の肉眼の分解能を超えていて、
我々の知覚なんかどうでもいい段階に来ている。
デジタルの絵が正確かも知れないが、
それは人のドラマを撮るのに最適か?
という問題が、まだ残っている気がする。
つまり、
フィルムの絵は正確じゃないからこそ、
濡れた感じになり、
デジタルの絵は正確だからこそ、
無味乾燥な乾いた絵になるのだと、
今のところ考えている。
さあ、私たちの求める人間ドラマは、
乾いたものだろうか。
濃厚に濡れたものだろうか。
僕はフィルムで撮りたいな。
ドラマってのは、揺れが本質で、安定が本質じゃない。
役者の気持ちの揺れを、フィルムが増幅してたんだ。
2017年12月10日
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