少し人生を生きてみれば分かるけど、
たいていのことはやってみてもうまくいかない。
たいていのことは途中で投げ出され、
計画は途中でねじられる。
時間の矢というのは残酷で、
物事はカオスに向かうように出来ている(エントロピー増大則)」。
だからこそ、うまく達成する、
という物語があるんだと思う。
現実はたいていカオスに終わる。
それに失望したり絶望した人が、
フィクションでカオスにならない終わり方を見て、
気持ちが立ち直れる。
ひょっとしたら現実でも、
うまい落とし所へいけるのではないかと。
フィクションの究極の目的は、
僕はそのように人々を元気づけることではないかと考えている。
だから、フィクションでは、
現実はそううまくいかないよ、
と突っ込まれたら負けだと思う。
それは、「これはフィクションだから、
御都合主義は大目に見てください」
と言い訳をすることではなく、
「こんなことが起こったらどんなに素敵だろうか」
と思わせないと負けだということである。
それは偶然でもよいし、
人が起こすことでもよい。
そして、偶然に頼るものならば、
フィクションでやる意味なんてなくて、
人が起こす必然を見せることが、
現実はカオスではないと思わせることだと思う。
だから、ストーリーには必然が必要なんだ。
無理や矛盾はストーリーの敵だ、
というのは、
単に面白くないから、
という以上に、
フィクションの役割をほんとうには分かってない、
という上位の理由によって却下なのだ。
ぼくは、タナダユキが、
「百万円と苦虫女」のラストを、
ビターエンドで締めたことに納得がいっていない。
タナダユキは、
「リアルはこうでしょ」と、
ラストをハッピーエンドにすることを好まなかったらしい。
僕はそれは間違っていると思う。
リアルはそうだからこそ、
僕はフィクションで納得するハッピーエンドを見たいのだ。
それがリアルに負けるなら、
そのフィクションは、力が弱いフィクションなのだ。
つまりそれは、リアル以上の素晴らしいフィクションを用意出来なかった、
実力不足の吐露でしかない。
もっとも、
お花畑みたいなスイーツなフィクションなんてクソだ、
と批評することは素晴らしい。
だけど、リアルに負けたら、
結局フィクションの敗北なんだよな。
お花畑みたいなスイーツなハッピーエンドでなく、
リアルなビターエンドでもない、
それを凌駕する素晴らしいハッピーエンドを作るのが、
フィクションを作るものの仕事だと思うんだ。
だってリアルに負けるんなら、
フィクションなんかなくてもいいからだ。
じゃあドキュメントを見るか、
見るなんて行為はやめて、
リアルをただ生きればいい。
所詮現実はカオスよ、と波をかき分けていけばいい。
僕は、多くの人々はそこまで強くないと思っていて、
フィクションで納得したいことが沢山あると思っている。
悪の横行する現実でも、
勧善懲悪のフィクションを見たいだろう。
死に意味がない現実でも、
意味のある死に方をするフィクションを見たいだろう。
宗教は、カオスなる現実に、
フィクショナルな意味を与えるものであった。
だから、素晴らしいフィクションを作った人は、
教祖扱いされるよね。
人間は意味がほしい。
世界って何?人生って何?
命って何?宇宙って何?
その全部に応えることは、一本のストーリーでは不可能だろう。
でも、そこにつながる、
世界にはこういう意味がある、
と納得できることは、
フィクションの役目の一つであると、
僕は考えている。
勿論、
全く新しい考え方を納得させてもいいし、
昔からある考え方を納得させてもいいし、
昔からある考え方を、現代に通用するようにしてもいい。
ああ、私たちの生きている現実は、
法則も何もないカオスではなく、
このような意味があるのだ、
生きててよかった、
そう思わせるのが、
いいフィクションというものだ。
あなたの自己表現なんかに誰も興味はない。
この嫌な現実に、
光明を見出すものを、人は求めている。
勿論そんなものは簡単には作れない。
少しずつ、テーマをうまくストーリーで語ることを、
マスターしていかないと技術的にたどり着けないし、
今この世の中で何をフィクションとして言うべきかを、
自分の中に持っておかないと、
技術があっても言うべきことが空虚になる。
最近、プロの作品でも後者が増えた。
役者は頑張ってる、撮影部照明部美術部は頑張ってる、
しかしストーリーやテーマが面白くない、
そういうものが増えている気がする。
何を言うべきか、何が言えているのかで、
金が集まらず、ガワで金が集まるからだ。
そのガワを利用しながらも、
きちんと骨のあるフィクションを作れる人が、
増えていってほしい。
現実はたいてい何にもならずに、カオスで終わる。
フィクションでこそ、人は理想や意味を完結させられる。
2017年12月10日
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