2017年12月16日

レポートとストーリーの違い

ある事件から解決までを時系列に並べたもの
(あるいは適宜シャッフルしたもの)は、
単なるレポートか?
ストーリーか?

その違いはなんだ?
僕は、「動機に入れるかどうか」の違いではないかと考える。


たとえば裁判における、
犯罪の時系列のレポートがあるとしよう。

そこで情状酌量の余地のあるようなものだったら、
僕はストーリーになると思う。

単なる客観的な事実の列挙が、
ストーリーのオーラを帯びるのは、
その動機が分かってしまい、
感情移入したときだと思う。
だから情状酌量してしまうのかもだ。
(もっとも、裁判官は感情移入しないように、
なるべく法に照らして判断するべきだ)

僕がいつも弁護士と12人の陪審員の制度を不思議だと思うのは、
あんなんプレゼン次第で、
ストーリー性豊かに語れて、
12人の観客を感情移入させてしまえば、
情状酌量を勝ち取れるではないか、
と思う所だ。
(実際、優秀な弁護士とは、
ストーリーテラーであることがアメリカでは多いという。
根っからそういう国なんだねえ。
法廷ものがストーリーになり得る国だ)

つまりその時の、
事実の列挙のレポートが、
ストーリーとして立ち上がる瞬間こそ、
動機への感情移入だ。

行為そのものには感情移入があるかないかはどちらでもいい。
何故なら、
殺人という行為自体は悪だとしても、
動機や状況を考えたらやむなし、
という判断があり得るからである。

ということはだ。
優秀な脚本家にとってかかれば、
世紀の大悪党に感情移入させることは、
技術的に可能なわけだ。

ヒトラーのユダヤ民族大量虐殺だって、
ユダヤを汚い金貸しの人でなし達に描き、
多くのドイツ民が苦しんでいる様を先に描けば、
「金を貸して増やすだけの汚いやつらに、
真面目に働いて作物や素晴らしい手製のものを作る人々をの生活を、
脅かすわけにはいかない」
という正義は成り立つ。
(実際そうだったらしいが)
映画でそれが描かれないのは、
中枢に金貸しのユダヤ民がいるからで、
まあそこはここでは突っ込まない。
(ビットコインてユダヤが始めたの?
対キャッシュシステムに対するアンチテーゼ?)


いずれにせよ、
観客は、
理解できて感情移入した瞬間に、
それは時系列の事実のレポートではなく、
自分が参加しているストーリーとして認識する。

身近な人たちに感情移入しやすいのは、
その動機が言わなくても伝わるからだ。
よく知らない人には感情移入しづらい。
しかし映画には序盤というものがある。
そこである程度知ってもらい、
その動機を理解してもらい、
興味を持ってもらい、
そういうことなら俄然この先が気になる、
と思わせれば、
それはストーリーになるということだ。

勿論、
それはストーリーの出発点に過ぎず、
それを面白く展開させたり、
それを見事な落ちに着地させる手腕は、
また別途必要だ。

弁護士が汚いのは、
結末を陪審員に委ねるところだ。
陪審員たちは自分たちの決断がストーリーの結末を決めることを知っているから、
自分たちの有罪無罪が意味を成すことを知っている。
つまり、陪審員たちにテーマを決めさせるのだ。
勿論、そのように誘導するのが弁護士だ。
「この裁判は単なる殺人の裁きではない。
自由が侵されていることにどう答えを出すか、
という決断なのだ」みたいにね。

つまり、弁護士の仕事は、
感情移入に値する状況を説明して、
結末のテーマへ誘導することだ。

それが上手いかどうかが、
陪審員制度における弁護士の手腕だ。

僕はこれはある意味間違っているし、
ある意味正しいとも考えていて、
こんなの日本の司法制度に合っているとは考えていない。

弁護士は、劇作家がやったほうがいいんじゃないかね。


同様に、
新聞記事だろうが、
週刊誌だろうが、
スポーツ記事だろうが、
事実の列挙がストーリーを帯びる瞬間がある。

動機に感情移入したときだ。

それは、フィクションでもノンフィクションでも、
原理は同じだ。

感情移入出来ないフィクションは、
感情移入出来るノンフィクションに負ける。
最近のフィクションは、ノンフィクションに負けている気がする。

それは、違うことが進み過ぎて、
共通の何かが減ってきたからじゃないかな。

なんなら共通の話題になるか?
それを探すところから、
感情移入は始まる。

だからといって、
特殊な世界を取り上げてはいけないわけではない。
特殊な世界は好奇心をそそるからだ。
特殊な世界、かつみんなが共通してわかること。
それを目指すとおもしろいと僕は考えている。
posted by おおおかとしひこ at 15:14| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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