2017年12月27日

【#エア再小次】其の十三「あばよ!風の中へ」

放送当時、まだ「ロス」という言葉はなかったと思います。
あの時僕らは、この気持ちを正確に言う言葉を知らなかったのです。
でもあまちゃん以来できた言葉を使えば、
私たちは風魔ロス。

幸せな作品に携われて、本当によかったです。
願わくば、夢の続きをみたい。


小次郎と武蔵。
この宿命の対決にどうやって辿りつくのか。
それがドラマ版の主なストーリーだったと言えます。

自分の弱さを利用され、
克服し、未来を見た友に託された長刀。
麗羅の魂が乗った、姫子を救う為の、未来を切り開く剛刀。


ここまで来たら、もう解説なんて野暮なだけです。
ジャンプのセンターオールカラーで見た、
あの雪の対決の瞬間を楽しもうとするだけという。

アクション班が吠えます。
撮影部照明部は、ものすごいカット数をさばいていく。
役者と俺は、
できるだけたくさん撮るために、
一発OKを狙う気迫。
伝説の108カットは、ほとんどが一発OK。
台詞を撮り直してるなんて暇も余裕も、
俺たちにはない。
その役になって、ただ走るだけ。
そういう撮影の気合が、
画面から感じられると幸いです。

黒獅子がいなくなったから、
風林火山が「山のごとし」で切るものがなくなってしまったので、
柱をぶった切る、ということにしてみました。
木刀が柱を?
聖剣って、実際のところの武力はどれくらいなんでしょうかねえ。



雪を降らせることは、僕はどうしてもやりたかったです。
だから脚本の当初、
誠士館での決戦は夜を想定していたんです。
雪も映えるし、朝日が昇って終わるのがいいし。
(舞台版では、そのアイデアを流用されています)
でも深夜ロケの体力(予算)は、もう我々にはなかった。
晴れた日に雪を合成するという荒業で、
乗り切るしかないんです。

照明の井上さんがずっと後悔していたことがあって、
最終決戦撮影の三日間、
12話と13話の撮影順を逆にしなかったこと。

12話→13話の順撮りがセオリーですが、
12話のとき曇って、13話の時晴れちゃったんだよね。
雪が合成されるわけだから、
曇りの日に13話を撮るように、
照明部(太陽の光は照明部の責任)が、
天気を読み切るべきだったと。
予報とは、晴れ曇りが逆になったんだよね。

だから雪の下絵は、ずっといい天気。
井上さんは、
「そういう時は歯を食いしばっておてんとさんを見るしかないんだ」
と言っていました。
いろんな人が、いろんなところで歯を食いしばっている。
撮影とはそういうものです。


雪を降らせるには、いくつかの方法があります。
1 現場で物理的に降らせる。
2 黒バックで雪の素材を撮り、合成する。
1は現場で絵がよくなるけど、
あとかたづけが超面倒です。
風に弱いので、外で降らせるのはハイリスク。
2は現場は楽だけど、何十ものカットにすべて手作業で合成で、
かつアングルに合っていないときは数レイヤーを合成し、
うまくなじませる必要があります。

絵里奈の病院の外の雪は1
(撮影用の雪は、発泡スチロール、泡、生物分解コーンの三種類
がありますが、片づけが適当でもあとあと消えてくれるコーンで撮影)で、
小次郎と武蔵の決戦での雪は2で実現しています。

もうCG費(=人件費)は全部使ったので、
僕が一人で全カットの雪を合成しました。
わりといい加減なマスクで人物の前と後ろを切っているので、
よく見ると境目が変なところがあります。
でもそんなこと、もうどうでもいいよね、
となるくらい、話に力を入れています。


絵里奈がここに現れる、
というアイデアは秀逸だと思います。
「俺にも奴の妹の声が聞こえたような気がしてな」
という原作の台詞を、
極限まで膨らませた感じですかね。
「三人でお茶を飲みたかったなあ」というのは、
凄惨な現場とのあまりにも無邪気な対比ですが、
うまくはまったと思います。
同様に「あの病院のスープは熱すぎるんだ、
早く冷ましに行かなくちゃ」
というのも、うまく行った台詞ですね。

「おにいちゃんをひとりぼっちにしないでくれ」
という原作の叫びを、
あとはどう慟哭に変えていくかですね。
中盤あたりで、
「絵里奈が病院を脱走して、
武蔵に迷惑をかけるが、
それはおにいちゃんの誕生祝いをしたかったから」
なんて泣けるエピソードがあったとしたら、
もっと泣けたでしょうね。
どこに挟むんだ、というのはあるけど。
つくづく13話は、短いなあ。
そのコンパクトさも、
風のように駆け抜けた、風魔らしいけど。

力を持ったがゆえに、
利用され捨てられてゆく、
というテーマは僕は好きなので、
またどこかで深堀りしたいですね。


最後の一撃は、せつない。
「ワンダと巨像」のコピーはこうだっけ。
風魔烈風と黄金剣の最後の一撃は、
無音で勝負しました。
ここで音が鳴ってるかどうか、
気付いた人はいるかな。
いないくらい本編に集中していると、
そのように観客をコントロールしきれていたと、
僕は信じます。


夜叉面が真っ二つになるのも、
僕のこだわりですね。
原作では「夜叉全滅」かどうか、
よくわからないままカオス編に突入したので、
その決着をつけておきたかったのはあります。
発泡スチロールには見えない、
石膏のような出来、美術さんお疲れさまでした。



ラストの別れのシーンは、
ほんとにつらかったですね。
姫子のラストの横顔が超好き。
あれは小次郎に恋して、
風魔に恋して、
大好きな世界が最終回を迎えてしまう、
我々の気持ちでもあるはずです。

全部の伏線をたたみました。
パティシエの伏線すらも。
霧風のこだわりをもう少しだけやりたかったな。


風になっていった奴らは、
今どこで、
あたたかい希望の風を吹かせているのだろう。

できるなら、
その風があなたに吹くことを。
できるなら、
その風にあなたがなり、
誰か辛い人に、あたたかい風を送ってあげてください。
おれとみんなの約束だ。




エア再放送、お疲れさまでした。
仕事の合間にこれだけの分量書くのは結構つらかったけど、
楽しかったです。
兜丸劇場や舞台版やオフショットの、
エア再放送(?)はご自由にどうぞ。


その後の小次郎は風魔の里か。
その後の武蔵は木の銅像を彫っているだろう。
第三の聖剣を持つ男が現れるまで。
竜魔は、姫子は、蘭子は、
劉鵬は、小龍は、霧風は。
気になるよね。見たいよね。

……カオス編、やりてえなあ。

東宝に続編希望のメールを送るんだ!
ファンたちで集まって署名運動すれば、あるいは……?

奇跡を起こすのは、神じゃない。
人間だよね。
posted by おおおかとしひこ at 23:30| Comment(0) | 実写版「風魔の小次郎」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。