2017年12月29日

絵で象徴すること

小道具をうまく使え。これは何度か書いてきた。
「アパートの鍵、貸します」に使われる小道具はとても良い。

最近書いた話から、いくつかの例を。


(母に長生きして欲しくて、
彼女が頂戴と言った)タバコを捨てる。

(周囲の噂が気になっていて、
ずっと見ていたスマホを)落として割る。

(リハビリの為の杖に)エールを落書きする。

(母が祝ってくれた誕生日祝いを台無しにした、
罪滅ぼしに)同じケーキを買ってくる。

などなど。


特徴が二つある。
「小道具がこれまでの文脈を意味している」、
「小道具への動詞で意思を示す」だ。

それぞれ、
長生きしてくださいと言うこと、
周囲を気にしないという決意、
頑張れという励まし、
罪滅ぼしと謝罪、
を示すために、
「代わりのものを使う」。
しかも、
捨てる、落として割る、書く、ケーキの箱を開ける、
という、「動詞で示す」。



映画において、
最も激しい表現は、
動くことで示すことだ。

ムービーだからムーブだ。

小説なら台詞が強いかも知れない。
言葉だけの世界だからね。
漫画なら、見開き(の静止画)が一番強いだろう。

ムービーの一番強い絵は、動詞だ。

映画とは、動詞でなにかを表現するメディアだと言っても過言ではない。


動くといっても色々あるが、
手話やパントマイムでなく意思を伝えるには、
小道具を使うのが手っ取り早いわけだ。

で、小道具に何かを象徴させておいて、
それに対して動詞で強い表現をすることで、
映画は最も強い表現を得るのだ。

泣き叫んだり好きですと大声で言うのは、
強い表現ではない。
舞台では大声は強いかもしれないが、
映画ではただうるさいだけだ。

映画で一番強い表現は、
むしろ台詞がないことのほうが多い。

だとすると、
台詞なしの、動詞で意思を示す時が、
最も強い表現になる。

ここに音楽を絡めれば鉄板になるわけだね。


強い場面を書きたかったらどうするか?
まず強い意思を示す場面をつくろう。
曖昧ではっきりしないのは、強くない。

台詞でまず叫んだり囁いたりしてみよう。
それでも足りなきゃ、
動詞で表現する。
小道具を、
叩く、壊す、捨てる、燃やす、折る、などの壊す系は否定に、
組み立てる、おさめる、しまう、なでる、などは肯定系に、
それぞれなるだろう。

何かを何かで代わりにする。
それが象徴表現だ。


そこに込められた意味と、強い動作があり、
かつ劇的なターニングポイントになれば、
それはその物語のイコンになるだろう。
posted by おおおかとしひこ at 13:15| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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