2018年01月18日

一筆書き

理想はこうかもしれない。


つぎはぎをすればするほど、
何故だかよくなくなっていく。

辻褄はあう。気になる棘は抜かれる。
伏線と解消の係り結びも整う。

しかし、第一稿の野性味が失われる。

新しい酒と熟成された酒のように、
単純に嫌なところがとれて丸くなるならいいのだが、
「完成度は高いが魅力がない」
というものになることが、
まれによくある。

リライトを重ねれば重ねるほどだ。

それを嫌ってリライトをしない人がいる。
僕はそれは間違いだと思っていて、
リライトで完成度を上げていくことはとても重要だと考えている。

問題は、
尖っていて野性味のあった魅力を、
スポイルしてしまう下手なリライトにあるのではないか。

完成度は高まったが魅力のないホンになってしまったときは、
どうすればよいのだろう。
僕はしばらく置くことが正解だと思う。

しばらく細かい都合から離れて、
大掴みに出来るくらいに忘れることだ。

で、改めて、第一稿を書き上げた時と、
「もう一度同じ手順」で書くことをおすすめする。
つまり、
白紙にログラインを書き、
白紙にプロットを書き、
白紙に一文字目から最後まで書く、
ということをするとよい。

驚くほど、
色々な都合が整理されながら、
かつ野性味のある状態で、
一から書けるはずだ。

注意すべきは、
「絶対に前に書いたものや資料を見ないこと」だ。

これは何をしているかというと、
「観客が初めて一気見する」を、
あなたも初体験している、
ということを意味している。


部分の都合をとっていると、
全体の勢いは削がれる。
ということは、全体としてどうかを考えなければならない。
しかしリライトというのは、
大抵は一行や数文字や数行、
広くても3シーンくらいの視野角しかないので、
狭窄に陥る。

それを忘れて、
俯瞰的視野かつ砂かぶりで、
楽しみながら予測しながら見るためには、
白紙からやったほうがいい。

あんなに苦労した分量を、
一から書き直すだって?

多分それが、一番合理的だ。


その為には、書く速度が速いことが求められる。
発音される音くらいで書けるのが理想だけど、
そこそこ速く書けないと、
その空気感やライブ感を失いがちだ。

僕は昔測定したデータによれば、
手書きで700字/10分程度らしい。
相当な悪筆で他人には読めないレベルで書く。
つまり、乗ってれば、
6000字を90分くらいで書く。(休憩含まず)
これを一日で3ターン書ける集中力と体力があれば、
起きてる間で映画脚本が一本書ける計算。
(10000字くらいまでは経験がある)

勿論この一日は、何かの大会決勝ぐらいに、
精神が高揚して十分に充実していないとできないから、
一週間に一日もあれば良い方だ。
書く日に決めてコンディションを整える必要があるくらいで、
終わったら抜け殻になる燃え尽きをする必要がある。


僕がここまでキーボード入力にこだわっているのも、
この数値を上げられないかと考えているからで、
一度自分の「書く速度」を何回かチェックし、
どれくらいのスペックなのかを自覚しておくといい。
(もっとも、入力速度に関わらず、
アウトプットのスピードは一定という経験則もあるらしい。
だとすると僕のキーボード研究は、
「手書き原稿のデジタル文字起こし」という用途特化かな)


で、元に戻ると、
書き手が意識を切らせたところって、
やっぱり見手も意識が途切れるんだよね。

演じられ、一気見される前提のものは、
やはり一気に書かれるべきだと思う。

一筆書き、というのはこういうこと。
見る人も一筆見なわけだから。


リライトが下手な人は、
一度試して見るといい。
部分に囚われていたことが、
出来上がったものと過去のものを見比べることで分かるだろう。

逆に、脳内でうまく混ざり合うまで、
忘れなければならないということが分かるだろう。


勿論、実際の作業でこれをするのは困難だろう。
一気に映画脚本を書ける人はたぶんいない。

実際の映画でも、
意図的な緩急で観客を休める場所がある。
(コメディリリーフなど)
つまり、
「観客の生理で書く」ことが、出来るかどうかなんだよね。
posted by おおおかとしひこ at 10:54| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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