「詩的表現」としか言いようがないが、
他に表現方法があったら教えてください。
「Sweat & Tears」(アルフィー)の動画を見つけて、
懐かしく聞いていたのだが、
その中の一節は、脚本と小説の違いを上手く言えそうだと思った。
「涙の海に泳ぎ疲れても
諦める為の船に乗り込むな」
という一節。
比喩表現であるが、それを大きく現すジャンルの言葉を知らない。
とりあえず「詩的表現」としておく。
脚本で、こんな一節をト書きに書く人はいない。
台詞ならば勿論書くべきだろう。
でも小説なら、普通に地の文で使える。
涙の海に泳ぎ疲れたとしても、諦める為の船に乗り込むべきではない。
そう思ったAは、Bに言った。
「行くな」
あるいは、
涙の海に泳ぎ疲れたBを、Aはなぐさめた。
「諦める為の船に乗り込むべきじゃないよ」
みたいにだ。
これは脚本では不可能だ。
涙の海で泳ぎ疲れたBは、
諦める為の船に乗り込もうとしている。
A「行くな」
どんな絵を撮ればええっちゅうねん。
仮にBの涙が海になり、それで泳ぎ疲れたBに、
豪華客船「諦め」号が接岸すればよいのか?
アニメーション表現ならあるかもしれないが、
それを実写で撮ることに意味があるとは思えない。
「涙の海に泳ぎ疲れる」も、
「船に乗り込む」も比喩だ。
だから、具体的ななにかを用意して、
それを海や船にたとえなければならない。
仮に、浮気した彼氏に散々振り回され、
好きだと言ってくれる男になびこうとしている女がいるとして、
その子に「行くな」というのなら成立する。
これじゃ海も船も出てこないので、
台詞で、
A「涙の海に泳ぎ疲れても、諦める為の船に乗り込むな」
と言うことは可能だ。
「行くな」「元彼とちゃんと話し合え」
と言う代わりに、
このような詩的表現の台詞を書くことは、
脚本では可能だ。
(ただ、このような詩的表現をリアルに使える人はあんまりいないから、
昨今のリアリティ重視では、時代がかかっている、
と捉えられる危険はあるだろう。
しかし「やべえ」「パネエ」「それな」「卍」
しか言わない映画もどうかとは思う。
あるいは、
B「もう涙の海に泳ぎ疲れたの」
A「でもさ、諦める為の船に乗り込むべきじゃないよ」
と、相手の表現に乗っかるのは、
リアリティが十分ありそうだ)
当然これは、小説でも出来る。
好きだと言ってくれる男に電話しようとしている彼女に、
「涙の海に泳ぎ疲れても、諦める為の船に乗り込むな」
と言わせれば良いだけだ。
整理しよう。
脚本と小説の違いは、以下のようだ。
脚本
ト書き:詩的表現×(具体のみ)
台詞:詩的表現○
小説
地の文:詩的表現○
台詞:詩的表現○
という関係になっている。
この非対称性が、
脚本と小説の、根本的な違いかもしれない。
小説を映画にしたときに、
「あれ?こんなちっぽけなしょうもない話なん?」
てなることはあるだろう。
僕は「ノルウェイの森」でそれを感じた。
具体的な絵を並べるしかない映画に対して、
小説はそこに詩的表現を混ぜて地の文を並べることが可能だ。
小説では、
彼氏に浮気されて他の男が言い寄ってくる、
ごく日常の取るに足らないことを、
涙の海と船の世界に、
描写し直すことができるのである。
で、涙も海も撮影せずに、
彼氏と女と男しか絵がないと、
「なんだかしょぼいなあ」
となるわけだ。
しかも、小説の華は、
台詞じゃなくて地の文だったりする。
どう描写するか、
どう名文を書くかが、
小説の文体を決め、
「なにをどう捉えるか」という、
考え方の提出をする。
これは、脚本にはない。
あるのは、具体物の面白い組み合わせと、
それを受ける台詞である。
しかしどう台詞の中で海や船と言っても、
そこに写ってるのは男と女だけなのである。
だから映画では、島へ行ったり嵐が起きたり、
宇宙人が侵略してきたりといった、
「絵的に特別なこと」が起こるのである。
先日のてんぐ探偵への感想で、
何故僕は小説が上手くないのだろうと考えていて、
でも最近書いてるのはちょっとましになってきていて、
それはなにが違うのだろうかと考えていた。
それは、
発表された分のてんぐ探偵は、
「映像化可能」な地の文を書いている、
ということに気づいた。
奇しくも、「映像を想像すれば面白い」という感想は、
映像前提の脚本であったということだ。
で、最近書いてる小説は、
地の文がどんどん映像化出来ないようなものになりつつある。
ああ、小説の楽しみ、醍醐味とは、
ここなのだなとわかってきた感じ。
(発表した中で言えば、一番最後に書いた、
妖怪「自我」の話は、小説としてこなれてきている)
とすると、てんぐ探偵をドラマ化しようとしている、
僕の望みは、益々遠ざかるという逆説になろうか。
まあそこのところはなんとかする。
脚本には海も船もない。
あるのは男と女と状況。
海や船は、ことばの力である。
演歌や歌謡曲には、そういうことばの力がいたよね。
2018年01月21日
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