僕は、
「どうしたらそれが本心から言っているように見えるかという技術」
だと考えている。
わかりやすく、まずは「泣く」という演技を考えよう。
恋人が死んで泣くとしよう。
ほとんどの人は恋人が死んで泣いたことはないから、
その芝居をするときには、「偽の涙」を流すことになる。
当たり前だが相手役は恋人ではなく俳優で、
当たり前だがその人は死んでいない。
そして現場では当たり前だが、テイク2や3がある。
毎回毎回、気持ちとしては偽の泣きをする。
それが本当に見えれば芝居は成功、
見えなければ大根役者である。
たとえば、
「ペットが死んだことを思い出すと泣ける」
という役者もいるだろう。
「親が死んだことを思い出す」人もいるだろう。
「迷子になった記憶を思い出す」でも泣けるかもしれない。
それは、
「恋人を失って泣くという気持ちに、
自分で経験した気持ちはどれが近いか」
ということである。
それは、経験をたくさんしているかと、
似ているを発見する力の、
ふたつが必要だ。
経験自体はリアルでなくてもよく、
バーチャルでもいい。
たとえば「のび太の恐竜」のピー助との別れを思い出せば、
どんな悲痛な別れの感覚よりも、
僕はリアルに感じるかもしれない。
その人の気持ちになりきることは演技の基本であるが、
そうなりきってもそれが出来ないなら、
それに似ている何かの感情になるとよい。
なぜなら、その時の自分の気持ちは本当だからである。
それが、物理的には「偽の涙」であっても、
その本人にとっては「本当の涙」にすると良いのだ。
そのことによって、生理的反応がリアルになり、
「まるで本当にその人がそう感じている」
ように見えるのである。
「瞬きを何回する」
「首の角度はこう」
「手の指にまで神経を通す」
という形で演技を作るメソッドもあるけど、
それは「型」の習得に過ぎない。
実戦は型が通用しない。
全ては無形である。
大事なのは、僕は気持ちであると考えている。
分かりやすく泣く例で示したが、
これは「台詞を言う」でも同じだ。
その人が本気で自然にその言葉をいう気持ちとは、
どのようなものか想像できれば、
自然に台詞は言えるものである。
それが想像できていないから、
型にはまったような台詞の言い方しか出来ないのだ。
型の習得は必要だ。
それは手足に神経を通すためである。
しかし一旦体が自在になったら、
あとは気持ちの想像だ。
仮にその人の気持ちが経験がなくても、
リアルに想像するのだ。
たとえば、
半身不随のリハビリの話を来週に撮影しようとしているのだが、
演技指導は特に難しい。
でも簡単なコツを僕は思いついている。
「ブラインドタッチをマスターする時の、
左薬指の動かなさ」について語れば良いのだ。
どれだけイライラするか、
どれだけ無理に動かせば痛いか、
どれだけやっても上手くならない感じとか、
諦めたい気持ちとか、
ほかの指と連動させれば動く時もあるとか、
「動かない左半身」を、薬指にたとえて話をすることができる。
その気持ちさえ分かれば、
物理的に動かない半身は型でマスターするとして、
あとは気持ちを演じれば良いのである。
台詞において、
自分が使わない言葉遣いもたくさん出てくる。
でも、「それを自然にずっと使っている生活」
を想像すればものは簡単だ。
たとえば僕は日本で1000番目くらいには、
「ヨーイスタート」と言ってきた人間だ。
それを言うつもりで、
ほかの役のよく使う言葉
(たとえば車掌役の「出発進行」とか)
を言えば良いのである。
舌がもつれるかどうかは、型の習得の度合いによる。
あめんぼ赤いなあいうえおや早口言葉が出来れば、
ある程度自在な発音ができるはずである。
その世界に何年も、何十年もいる感じは、
仕草もあるし言葉の言い方もある。
それはその世界を観察し続けて、
どういう気持ちでその言葉を言っているかをわかり、
自分の経験でいうとなにに似ているかを探す。
僕は、これが芝居だと考えている。
だから、偽なのに本当になるのだと。
これは、芝居の前段階、
脚本でも同じだ。
なぜそこでそれを言うのか。
それはどういう気持ちなのか。
それは、ちゃんとした台本なら全て書いてある。
正確にいうと、文字で書いてあることはあんまりなくて、
言外の文脈に書いてある。
俳優はそれを読み取るべきだし、
台本はそれが読み取れるように書くべきだ。
その、嘘だけどほんとの気持ちを、
観客は見て、
また自分に似た感情があることを思い出す。
それが感情移入という、
お芝居にしかないものである。
脚本家が芝居について考えがないなんてあり得ない。
むしろ脚本家が一番芝居がうまいべきだ。
何故なら、誰の目線でも自然な言葉を書いているはずだからだ。
勿論、僕の考え方と違う芝居論もあるだろう。
そのときは全く別の脚本になると思う。
2018年02月25日
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