2018年02月25日

そういう事情なら、そういう事を言う(する)のもしょうがない

その事情を作るのが、
脚本という仕事だ。


一般に、脚本とは台詞を書く事だと誤解されている。
脚本を見れば台詞がたくさん書いてあるから、
これを書くことが脚本を書くことだと勘違いするのも、
まあしょうがない。

じゃあサイレント映画の台本を書くのは、
脚本を書くことじゃないの?
音楽PVの、たとえばストーリーものを作るときの、
サイレントの台本は台本じゃないの?

脚本(台本)を書くことは、
ストーリーを作ることである。

それが台詞で表現されても、されなくても、
ストーリーは存在する。

それを作ることが、脚本を書くということだ。

で、
なにを書けばストーリーになるのか、
ということを、ここでは延々と考えている。
これとこれとこれ、というふうに結論づけられれば問題ないのだが、
そんな風に言えないところが、
ストーリー論を難しいものにしている原因だ。
(人によっていうことが違うし)

脚本に書かれるのは、
時と場所、
そこにいる人、
そこにいる人が何をするか、何を言うか、
次の時と場所…
のループでしかない。
それが、第一シーンからラストシーンまで並んでいるだけのことである。

これじゃあストーリーにならない。
何がストーリーかというと、
ある話題に沿って皆が動いていることが、
ストーリーである。
それだけでは飲み会と同じなので、
ある「解決したらそれで終わり」というのが決められていて、
そこに見事に着地すれば終わりと決めておく。
これがストーリーだ。

ある解くのが難解な事件や、謎や、
困ったことなどが起こり、
それを話題の焦点にしながら、
二人以上の人が、
どうにかして解決して、それでおしまい。

それがストーリーの一番の骨の部分だ。

それだけじゃなんなので、
キャラクターやシチュエーションなんて肉付けや、
思いの交錯というコンフリクトや、
ビジュアル上強く面白くかつ場面の意味を示すもの(イコン)や、
全体を見終えた時に、
これが一体何だったのかというまとめ(テーマ)などで、
それらを楽しませるのである。

で。

ある人がある台詞を言う、あるいは無言で行動するとする。
何故そうするのか?
それを動機という。
動機は、ただそうしたかったから、なんて理屈のないものはない。
必ずそこに、事情が存在する。
動機とは事情である。
やりたかったからレイプした、
という感情的動機は現実にはあるが、
物語にはほとんどない。
そんな単発は数分で終わってしまうからで、
もっと長く起きる出来事を物語では扱う。
AVはワンプレイ30分もあれば飽きてしまう。
映画は2時間飽きさせない、長時間の娯楽である。
(小説とかはもっとかな)

だから長時間行動したり、なにかを言ったりするには、
どうしてもそうしなければならない、
事情がある。

物語の全ての言動には動機があり、
その動機の大元には事情がある。
事情がなくて動機だけがある人はいない。
仮に突発的な感情で行動することがあっても、
その事情を鑑みればやむなし、
と見ている人が納得すればよし。

つまり、
脚本家が創作する最も大切なものは、
「その人の事情」なのだ。

何故彼はそんなこと言うのか。
こういう事情だからだ。
(先に分からせてもあとで明かしても良い)
何故そんな事態になるような判断をするのか。
実はこういう事情だからだ。

全ての芝居は、
そこに書かれている言動を、
「まるでほんとうのことのようにすること」である、
と前記事で議論した。

それが本当の本気で、
何故その人は言ったりやったりするかといえば、
それはそういう事情があるからである。


脚本家は台詞を書く。
これは嘘ではない。
物理的には発言集を時系列で書くわけだ。
しかし文字になっていない、
事情こそが、その台詞の裏にいる。

その見えないものと、見える文字を、
両方書くのが脚本家の仕事である。


バカな人は台詞をちょっと直して、っていうんだよ。
字しか見てない証拠だ。
それを直すんなら、事情ごと直さなきゃいけないよ、
と言っても理解できないバカが、ちょっと台詞を直して、
って言うんだろうね。

実際、書かれている文字なんて、
脚本家の仕事のうち氷山の一角だ。
書かれていないがたしかにある、
各人の事情や目的や動機が、
脚本の氷山である。


その氷山を作るために、
執筆前の下準備が必要なんだよ。

場面のビジュアルアイデアなんて、
ほんとに氷山の表面2ミリくらいのことさ。
posted by おおおかとしひこ at 18:51| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。