2018年03月15日

その人の内面を、過去で描くか現在で描くか

登場人物の内面を描く場面を考えよう。

その人はどういう人か?
性格や哲学や考え方、指向性、
何が目的で、どういう思いでそうしているか、
それらをうまく描くことが人を描くことである。

僕は、過去を描く方法と、現在で描く方法の、
二種類があると考える。


過去を描く方法の方が、簡単である。

その人物がどうして今そうなっているのかを、
わりと簡単に説明できるし、
感情移入しやすいからである。

人嫌いな人物がどうしてそうなったか、
などの複雑なことは、
過去を描かない限り難しい。
「そういう人」であることまでは、
現在で説明できるが、
感情移入するためには、
その過去をうまいこと描かないと難しいだろう。
「そうか、そういうことがあったのなら、
それは今そうなっているのもわかる」
というのが、感情移入の最初の糸口になるだろう。

問題は、過去をどうやって語るかだ。

過去は回想シーンを伴う。
ということは、現在の物語の流れを止めることになるということ。

とすると、論理的に過去シーンの入れどころは、
二つしかない。
物語がまだ始まっていない冒頭か、
途中の「いったん集中がきれた一休みポイント」
である。

冒頭が過去から始まるのはよくあるパターンで、
このときに気を付けることは、
あんまり長くしないことである。
いつまでたっても現在の物語が始まらないなら、
人は飽きてしまう。
せいぜいワンシーン、
理想は1分半(600字)、
長くても3分(1200字)
以内で書くことだ。

これに収まらない過去については、
冒頭に出すことは諦め、現在から始めたほうがいいと思う。
なにが注目しなければならない現在の焦点なのか、
早めに示して、
物語本編に巻き込んだほうが得策だ。

冒頭以外の、途中で過去の回想を挟む方法については、
現在の乗りや流れを邪魔しないように挟むのがよい。
ということは、一番ありがちなのが、
いったん休憩しているところで挟む方法である。

追手から逃れ、一休みしているとき。
待ち時間のとき。
あとは寝るだけのとき。
話すこともなくなって、ついつい過去の話になったとき。
あるいは、夢で見る、というのもよくある。

いったん焦点が落ち着いて、
新しいブロックへ移行したときもチャンスだ。
それはそこの冒頭部の役割の場所であるからだ。

本人が誰かに話す直接形式でもいいし、
ただの回想(夢含む)で、
観客だけが知っててもいいし、
本人のいないところで誰かが誰かに、
真相の暴露という形で話す、でもいい。
あるいは、
本人だけがばれてないと思っていることを、
そこの全員が共有しているという形式でもいい。

問題は、次にどのシーンを持ってくるかだ。
それを知った人のリアクションで、
それを示すことができるだろう。
それに対して反応や行動がないのなら、
そこに挟んでいる意味がないと思う。
それに対して、なんらかの反応や行動があった時、
それをそこに挟む意味があると考える。
(単純に伏線としてそこに置いておく場合もあるけど、
そうすると物語の停止時間が長くなってしまう、
という冒頭と同じ注意点が出てくることに留意されたい)


過去をうまいこと挟む方法もあるが、
現在でその人物の考え方や性格や、
どうしてそうなっているのか、
示すのも有用な方法である。

たとえば、
「シェイプオブウォーター」の、
悪役である監視官は、
新品のキャデラックを買うという、
「現在のエピソード」で、彼の人となりを示している。
しかもそれがのちのち壊されるという伏線にもなっているわけだ。

現在のエピソードは、物語の進行を止めない、
優秀な方法である。
例に挙げたものでも、
前の焦点が一回落ち着いたあとに、
新ブロックの冒頭としておかれていることに、
注目されたい。

もっとも、いつこれを持ってくるかは、
構成段階で考えることは難しいかもしれない。
その人物紹介のときに出来るか、
ということもある。
(件の監視官の人物紹介のエピソードは、
「トイレで先に手を洗う」であった。
理想は、この紹介が伏線になって、
テーマに直結することであった。
キャデラックのエピソードのほうが、
のちのち使われていた。
ということは、この脚本をリライトするなら、
「新品のキャデラックで出社する、成功を自慢する男」
であるべきだったということがわかるだろう)

したがって、執筆中に、
ちょっとこの人物に深みが足りない、
と感じて、どうにかしてひねり出すことのほうが、
多いような気もする。
構想段階であるのは、
おそらく初登場シーンでの人物紹介レベルか、
設定段階で多少考えてある、
という程度だろうね。

ということで、
うまいこと現在のエピソードで処理していくのが理想だけど、
それだけじゃまとまらないこともある。
過去をどう挟んで、深く作っていくか、
考えていくとよい。

あるいは、
人物によって、
一人は過去を静かに語る、
一人は現在のエピソードでうまいこと語る、
などのように使い分けて、
コントラストを作っていくことも、
考えたほうがいいかもね。


色々なアプローチがある。
最善は何かなんて、全部の技をつかえるようになるまでわからない。
色々なやり方ができるようになっておくのに、
こしたことはない。
posted by おおおかとしひこ at 15:55| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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