2018年03月17日

面白いところに目をつけた(浅生鴨「伴走者」書評)

目の見えない人の、マラソンとアルペンスキー。
彼らには「伴走者」という目の見える人がいる。
そのコンビを描く二本の小説。

目の付け所がシャープ。
「パシフィックリム」でも面白かったところは、
パイロットが二人のところだった。
心が一つにならなければいけない競技で、
個がどう出るか。個と個がどうずれるのか。
そこが見どころだ。



スキー編のほうが僕は好きだ。

晴のキャラクターに尽きるなあ。
オシャレした場面がよかった。
霧の中のスキーのシーンは、
「バーフバリ/王の帰還」の弓矢のシーンばりの、
「ロマンティックなシチュエーションでないのに
ロマンティックなラブシーン」であった。

僕はスポーツ小説などは読まないので、
スポーツ映画はたまに見るから、
「あ、最後勝たなくていいんだ」
という発見があった。

勝つよりも大事なものを得るまでが、
スポーツをマクガフィンにする、
スポーツ小説の醍醐味なのかもしれないね。

そういう意味では、
スキー編では、主人公に得たものがあったけど、
マラソン編では負けてどうなったんだっけ、
というのがあまり記憶に残っていない。

マラソン編は盲人ランナーの強烈なキャラで引っ張る感じが強く、
自分のレースを優先させたエピソードで、
ようやく話が動いた気がしたが、
それが大分遅かったのが惜しい。
あれが中盤くらいで、
そこからもっと色んないざこざを見たかったなあ。
左足首の爆弾はあまり伏線として機能していなかったし。

革命家の家のエピソードは印象に残った。
「盲人にとって、観光は見るのではなく触ること」
という意味を感じられた。



もちろん、この二本の続きはあるんですよね?
ケンカしながらもコンビになっていく、
この先が見たいなあ。
晴の恋(なのかそれ以前なのか)についても、
この先が見たい。

花道と流川。キン肉マンとテリーマン。
トミーとマツ。ユージとタカ。
翼くんと岬くん。
歴史的ゴールデンコンビに至る、
そんな険しい人間ドラマを、更に見たいと思いました。

不満があるとすると、
「この人間たちを、この世界を、
しゃぶり尽くしていない」と感じた次第。


スキー編のレースの場面、
叙述トリックを使えて、小説って便利だなあと、
映像畑の僕は思いました。

あるいは、別の競技(パラに限らず)の伴走者の話を、
次々オムニバスでもいいですよ?
スケートのペアとかも面白そうだ。
(演技の中で必ず「リフト」といって男が女を持ち上げなきゃいけない、
というヘンテコなルールをこないだ初めて知った。
これはネタになるなあとメモしていた)
AV男優とかもある意味作品の伴走者だしなあ。
posted by おおおかとしひこ at 00:42| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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