親指シフト(ニコラ配列)使用者の感想や主張を、
色々調べている。
それにケチをつけてみたくてこの記事を書く。
あんたたちの言ってる親指シフトの「良さ」ってさ、
別の優秀なカナ配列でも実現してるよ?
親指シフト(ニコラ配列)の優位点でよく言われるのは、
次のようなものである。
1 打鍵数が少ない(ローマ字入力に比べて)
2 運指範囲がせまく楽(JISカナ入力に比べて)
1はカナ入力全般で言えることだ。
2はJISカナより優秀である、
ということを言っているに過ぎない。
親指シフトと同等の狭い運指範囲、
つまり三段の範囲にカナを収めた配列は、
親指シフト(ニコラ配列)だけではない。
飛鳥配列、月配列、新JIS配列、
蜂蜜小梅配列、薙刀式、TRON配列などは、
ほぼ親指シフトと同様の打鍵範囲である。
新下駄配列は左手だけ四段だからやや条件に反するが、
以下のスペックを見れば、最も優秀な配列の候補だということはわかるだろう。
つまり、1と2の唯一解が親指シフトではない。
3 親指シフトは一音一打であり、
発音と打鍵が一致していて気持ちよく、
日本語を書くのに適している
という言説もよく見る。
しかし一音一打である配列は、
親指シフトの特権ではない。
厳密にいうと、親指シフトは一音一打ではない。
濁音、半濁音に関してはそうだが、
拗音(しゃ、じゃなど)、外来音(ティ、ファなど)
に関しては二打である。
拗音は特に漢語に多くみられ、和語にはあまりない。
外来音と拗音は、外来から来た言葉のカタカナ語に多く見られる。
「日本語を書くのに適している」という言葉が実は詭弁で、
「カタカナ語と拗音に弱い」
という親指シフトの弱点を覆い隠している言い方である、
と僕は糾弾しておこう。
また、以下の配列では、一音一打が実現されている。
濁音 半濁音 拗音 外来音
親指シフト 〇 〇 × ×
飛鳥配列 〇 〇 × ×
TRON配列 〇 〇 × ×
小梅配列 〇 〇 × ×
蜂蜜小梅配列 〇 〇 〇 〇
下駄配列 〇 〇 〇 〇
新下駄配列 〇 〇 〇 〇
薙刀式 〇 〇 〇 〇
(シフトを一打と数えれば、厳密には計二打や三打になるが、
これらを「1アクション」という意味で一音一打と呼ぶことにする)
少なくとも、
飛鳥配列、TRON配列、小梅配列は親指シフトと同等の性能であり、
蜂蜜小梅配列、下駄配列、新下駄配列、薙刀式は、
親指シフト以上に、「一音一打」を実現したカナ配列である。
3の主張をする人は、
単純に知らないか、調べていないか、
知っていて意図的に無視しているわけだ。
無視する悪意がないとすると、
単なる情弱やん、
と僕は批判したいのである。
4 日本語の連接を考えた上での、文字の合理的配置
飛鳥配列、新JIS配列、月配列、蜂蜜小梅配列、
下駄配列、新下駄配列、薙刀式
に関していえば、
親指シフトよりも文字は合理的に配置されている、
と断言できる。
連接効率はなかなか数値化できないので評価は難しい
(たとえば飛鳥配列や薙刀式は、
文字のつながりで指が動くように各文字が並べられてある。
新JIS、月配列は、右手で打った文字のあとは左手で打つ確率が高く、
左手の後は右手が高いように配置されている(左右交互打鍵)。
新下駄は左右交互打鍵だけでなく、
シフトキーからのアルペジオ率が高まるような独自の工夫がある)
が、
単打の指の使用率や、
メジャー文字がどのように配置されているかに関しては、
僕が作った図があるので参照されたい。
http://oookaworks.seesaa.net/article/456683570.html
これを見る限り、
親指シフトの文字配置がベストである、
という証拠はない。
5 親指シフトは楽に打てる
たしかに一音一打であり、
打鍵範囲が狭く、
ある程度運指が考慮されていれば、
マスターすれば、
「qwertyローマ字やJISカナ入力よりは」楽である。
しかしそれ以上に楽に打てる配列は、
同じ論点において、ほかにもたくさんあるということだ。
楽、という観点ではフリックもあるし。
6 親指シフトは使用者が多いから、なくなることはない
他の配列にくらべた親指シフトの優位点は、
実はこれだけではないかと、僕は考えている。
いまだ富士通がサポートしているし、
有志によるエミュレータも多数ある。
MacでもWindowsでも、iPadでもスマホでも、
専用キーボードでもJISキーボードでもそれ以外の非JISキーボードでも、
なんとかすれば親指シフトが使えるやり方が多数提案されている。
(Windows: のどか、やまぶきR、DvorakJ
Mac: Lacallie、Karabinar、かわせみ
物理アダプタ: かえうち、OyaConvなど。漏れがあったらごめんなさい)
が、他の配列がそうではない、ということはない。
WindowsではDvorakJがあればほぼなんとかなるし、
Macやスマホではかえうちを使えばなんとかなる。
これらが今後のOSの変更についていけるかどうかについては未知数だが、
かえうちがあればなんとかなるんじゃないか、
と、僕は楽観的に考えている。
だってある程度技術がある人が、
これらの配列を合理的と判断して使っている限りは、
その人たちがなんとかしてくれるだろう、と思うからだ。
技術者というのは面白い人種で、
それが合理的であればそれを人に薦めたい、という性質をもっている。
世界が合理的になることは彼らの喜びであるからだ。
そういう人たちが世界を進歩させてきたし、
おそらくその傾向は変わらないと僕は彼らを信頼している。
親切な人はいなくなることはない、という性善説だけど。
(僕がここで脚本論を書いているのもいわば親切にすぎない)
ということで、
配列の合理性は、
親指シフト(ニコラ配列)がベストではない、
と僕は考えている。
もっとも、親指シフトが好きだ、とか、
これがたまらない、という論理的指標でない部分で、
親指シフトを称えることについては、ご自由に。
実は最大の問題は、
ブラインドタッチを複数マスターして、
それらの違いを体感で議論するほど、
人は器用ではないことである。
これは複数の格闘技をマスターして、
最強の格闘技は何かを、
感覚として分離できないことと似ていると思っている。
だから、
他の配列が良いと思っても、
なかなか今の配列から変更できない、
という欠点が、
ブラインドタッチそのものにあると思う。
(Qwertyローマ字や親指シフトのマスターにかかったことを、
もう一回やるのは勘弁、と考えてしまうのはよくわかる。
しかし経験上、
二回目や三回目の配列のマスターのほうが、一回目より全然楽である。
あまり知られていないが。
おそらく、キーボードそのものへの手の感覚が研がれているからと考える)
しかし、「合理性で、親指シフトがベスト」
ということだけは、この文章で論破しておいた。
今後、親指シフト使用者が、
合理性において良いのだということを言うのなら、
知らない人なんだなあと憐れむか、
この記事をリンクしてくれたまえ。
親指シフトを絶対視せず、相対化するのが、
僕の目的である。
2018年03月20日
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