2018年03月28日

矛盾と魅力

さらに続き。

たとえば「刑事」というキャラクターで考えてみよう。


刑事のイメージはどういうものだろうか。
あるいは、社会的役割期待はどのようなものだろうか。

職務に忠実で、時間を丹念に調べ、
少しずつ真実に近づいて行き、
チームワークを大事にし、
腕っ節もそこそこあり、
人徳や正義心もそなえる、
「ちゃんとした人」というイメージだろう。

ここに矛盾はない。
だから、「通り一遍のキャラクター」という印象になる。
いわば、「普通の刑事」だ。

勿論この刑事が脇役や端役ならば、
普通の刑事でも良いだろう。
仕事を忠実にしてくれて、
いざという時には犯人と格闘してほしい。

しかしこれがメイン登場人物になると、
物足りなくなってくる。

典型的な刑事でしかないからだ。

こういう時に矛盾を入れていく。


刑事は、よくある矛盾を詰め込みやすいキャラクターだ。
たとえば、
「普段はだらしなくて書類とか書けないし、
部屋もぐちゃぐちゃで、服もヨレヨレだが、
いざ事件解決になると眼光鋭くなり大活躍」とか、
「頭脳は明晰だが子供っぽい」とか、
「科学知識は沢山あるが格闘はダメ」とか、
「正義の守護者のくせに、嫁にはDV」とか、
「格闘は出来るがバカ」とか、
「人情がありすぎて犯人に騙される」とか、
色々な矛盾のパターンがありえる。

つまり、「刑事としてのキャラクターに、
相応しくない部分がある」
ということを盛り込むのだ。
本人のその部分と、刑事の部分が矛盾するようにすると良い。


だってそうだろう?
男として期待されることを、我々男は100%出来てない。
女として期待されることを、
サラリーマンとして期待されることを、
父として、姉として、年長者として期待されることを、
サービス業として期待されることを、
国民として期待されることを、
善良なる市民として期待されることを、
〇〇県の人として期待されることを、
子供として期待されることを、
我々は100%出来ていない。

それが人間だ。
内部に矛盾が沢山あるわけだ。

勿論この矛盾をいちいち描いていたら、
話が一向に進まなくなるので、
適宜切り分けたほうがいい。

よくあるのは、「シラフだとまともなのに、
酒が入るとめちゃくちゃになる」というのは古典的で、
酒が入ることがストーリー上のターニングポイントにすることが出来るわけだ。


刑事の話に戻ると、
「刑事」として生きているのは、
その人の何割かでしかなく、
それ以外は刑事以外のなにかなのだ。
そしてそれらは「刑事」と大抵矛盾しているのである。

しかしその人の中では、
矛盾を知ってて放置している。
「使い分け」をしているからである。

自分の中の刑事的な部分と、
刑事的でない部分を、
場面場面で使い分けて生きているはずだ。
これが矛盾であり、
矛盾があってもその人なりに生きていく方法で、
それが人間臭さというものである。


刑事はこういう人間臭さのテンプレみたいなキャラクターになることが多い。
それだけ職務が厳しいのかも知れない。
刑事という職務が人間と遠いからこそ、
人間っぽい部分を作ってバランスを取るのかも知れないね。
だからむしろ、
メインキャラで刑事が出てきたら、
「普段はだらしなくてやるときはやる」までが、
テンプレになってるぐらいだろうね。

逆に、なぜか「軍人」は、
人間臭さと対極にあって、
職務遂行のマシンのように扱いが違う。
矛盾を抱えてしまうと、軍人足り得ないのかも知れない。
ベトナム帰りの心の矛盾は、
ベトナム戦争直後のアメリカ映画の主要テーマの一つだった。
戦争は矛盾の代表だ。

刑事と似たような人間臭さのテンプレには、
「裏ですけべなことをしている神父」
「汚職だらけの医者」
などがある。
職務に要求される基準が人間臭さから遠いほど、
人間臭さでバランスを取りたくなるのかも知れない。

こういった矛盾が、
人間とはどういうものかを浮き彫りにし、
ストーリーに関わる人間のあり方を、
より深く、面白くしていくわけだ。



ということで、
矛盾をつくろう。
その矛盾は、その人の中ではどういう使い分けになっているのか。

その使い分けを崩された時に、
その人はあたふたし始め、
勝手な行動を取り始めるだろう。
posted by おおおかとしひこ at 10:09| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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