2018年04月19日

プロの現場から3: 音楽というガワ

出来上がったものから、
ガワのベールをはいでいこうシリーズ。
今回は音楽について。


音楽は、映画にとって重要な役割を果たす。
なにせサイレント映画では、
セリフよりも音楽が先についていたくらいだ。

つまり音楽の役目は、
「感情の補助をする」ということである。

役者がパントマイムをして、
表情や仕草で感情を表現する絵に、
音楽が補完、増幅効果を担うわけだ。


楽しくないときでも楽しい音楽を聞けば楽しくなってくる。
勇ましい音楽を筋トレにかけて気分を出す。
ムーディな音楽は恋人といる時に聞きたい。
悲しいときに、悲しい音楽に浸りたくなる。
音楽は、人間の感情を(ある程度)コントロールすることができる。



逆に言うと、
役者がへぼでも、絵がたいしたことなくても、
いい音楽をかけると大体よく見える。
いい情感が足されるからである。

しかしストーリーがしっかりしていないものに、
いい音楽をかけてもしょうがない。

単なるいいBGMになってしまい、
ストーリーが前に出てこなくなる。
ストーリーが中身で、
音楽はガワである。
音楽が本体ではない。

ストーリーの感情曲線に、音楽が沿うことが重要だ。



さて。
どういう音楽がいいかな、
と既存の楽曲を当て込んでいくのが、
「選曲作業」である。

NHKの場合、JASRAC登録されている楽曲なら無料で使える。
(無料というのは嘘で、局が年間一括で払っている。
しかし製作費には乗っからないので、
こっちから見るとただで使えるというわけだ)


しかし、
ストーリーの感情曲線になっている、
既存の曲を探すのは意外と骨が折れる。

それは大袈裟すぎるとか、微妙すぎる、
という問題がまず起こる。
泣かせに来すぎている、幸せすぎる、などである。

また、うまいこといいタイミングでいくとは限らない。
多少の編集はすることになったとしても、
そんなにうまいこと秒単位ではまってくれるとは限らない。

だから普通映画では、
「劇伴」とよばれる音楽をつくり、
後ろに流すものだ。

CMでも通常劇伴を作るのだが、
(有名楽曲を使うこともある)
今回は予算がないので、
JASRAC登録されている曲限定となる。



もちろん音楽なし、
という選択肢もある。
しかし、よい情感を増幅してくれる、
音楽の効果を使わない手はない。

劇伴をつくるには費用がかかる。
だから「無料」の既存曲を探すことになる。
(ほんとは探す俺の人件費を計上するべきなのだが、
それは慣習上ないことになっている)


で。
ストーリーの要求する感情曲線とは以下のようなものである。

悲劇から始まる。
それは心に突き刺さるものでなければならない。
それが、オリンピックの映像や写真を見た瞬間に、
ターニングポイントを迎えることになる。
そして、幸福へと転じなければならない。
真実が明らかになり、
それは前向きに生きる人々を応援するものになるべきだ。


こういうものが、
コンテの秒割に合うような曲を、
探す(あるいは編集する)ことが、
選曲作業というものだ。

さて。

ここまでくわしく解説したのには意味があって、
僕が選曲した11曲を、
撮影前にコンテに当てて試したものがあるのだ。


合う合わない、ももちろんあるが、
ガワが変わると、
これほどに印象が変わる、
ということを体験してほしい。

そして、
ガワが変わったとしても、
ストーリーそのもの、
中身の力強さは、
変化していないことに留意されたい。


(多少解説しておくと、ボーカル有り無しがまず関係する。
歌詞があるとセリフをじゃまする可能性がある。
JASRAC登録されているインスト曲を探すのは難しく、
映画サントラなどから探すことになる。
たいていは似ている映画を探すとアタリがある。
しかし今回の話に近い映画って何だろう?
あんまりないよね。
だから「世界観が近いアーティスト」を探すほうが今回は楽だった。
もちろん、ボーカルありになる。

あと、二つの作品で音楽を共通にしたほうがシリーズ感が出て、
バラバラに見えないのではないかと思っていた。
なので、両方に合うような曲を探している状態でのものである。
最終的には、
編集段階でそれぞれに合うやつを使おうということになった。
たとえば「はじまりのうた」のサントラから、
同じ曲を男が歌っているものと女が歌っているものをもってきて、
じいさんとレズで使い分ける、
というアイデアもあった)



以下がそれだ。コンテに音楽のみを乗せた、簡易的なものだ。

ttps://youtu.be/1NPP8WB_RCs
(同様に、このアドレスを知っている人だけがみれる動画です。
譲渡禁止。頭にhをつけてアクセス)

11曲2タイプなので、全22分あります。


あなたならどういう選曲をするか?
僕よりセンスがあるかもしれないので、
何かを当てて見る、ということをしてもオーケーだ。



音楽は、
ストーリーを増幅するか、
減退させるかでしかない。

増幅する音楽を探すことが、
選曲というガワの仕事だ。

そして、
ガワに左右されない、
むしろこのガワは中身にはあわないから却下、
と言えるような、
ちゃんとした中身をつくるのが、
脚本家の仕事である。
posted by おおおかとしひこ at 11:34| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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