出来上がったものから、
ガワのベールをはいでいこうシリーズ。
今回は音楽について。
音楽は、映画にとって重要な役割を果たす。
なにせサイレント映画では、
セリフよりも音楽が先についていたくらいだ。
つまり音楽の役目は、
「感情の補助をする」ということである。
役者がパントマイムをして、
表情や仕草で感情を表現する絵に、
音楽が補完、増幅効果を担うわけだ。
楽しくないときでも楽しい音楽を聞けば楽しくなってくる。
勇ましい音楽を筋トレにかけて気分を出す。
ムーディな音楽は恋人といる時に聞きたい。
悲しいときに、悲しい音楽に浸りたくなる。
音楽は、人間の感情を(ある程度)コントロールすることができる。
逆に言うと、
役者がへぼでも、絵がたいしたことなくても、
いい音楽をかけると大体よく見える。
いい情感が足されるからである。
しかしストーリーがしっかりしていないものに、
いい音楽をかけてもしょうがない。
単なるいいBGMになってしまい、
ストーリーが前に出てこなくなる。
ストーリーが中身で、
音楽はガワである。
音楽が本体ではない。
ストーリーの感情曲線に、音楽が沿うことが重要だ。
さて。
どういう音楽がいいかな、
と既存の楽曲を当て込んでいくのが、
「選曲作業」である。
NHKの場合、JASRAC登録されている楽曲なら無料で使える。
(無料というのは嘘で、局が年間一括で払っている。
しかし製作費には乗っからないので、
こっちから見るとただで使えるというわけだ)
しかし、
ストーリーの感情曲線になっている、
既存の曲を探すのは意外と骨が折れる。
それは大袈裟すぎるとか、微妙すぎる、
という問題がまず起こる。
泣かせに来すぎている、幸せすぎる、などである。
また、うまいこといいタイミングでいくとは限らない。
多少の編集はすることになったとしても、
そんなにうまいこと秒単位ではまってくれるとは限らない。
だから普通映画では、
「劇伴」とよばれる音楽をつくり、
後ろに流すものだ。
CMでも通常劇伴を作るのだが、
(有名楽曲を使うこともある)
今回は予算がないので、
JASRAC登録されている曲限定となる。
もちろん音楽なし、
という選択肢もある。
しかし、よい情感を増幅してくれる、
音楽の効果を使わない手はない。
劇伴をつくるには費用がかかる。
だから「無料」の既存曲を探すことになる。
(ほんとは探す俺の人件費を計上するべきなのだが、
それは慣習上ないことになっている)
で。
ストーリーの要求する感情曲線とは以下のようなものである。
悲劇から始まる。
それは心に突き刺さるものでなければならない。
それが、オリンピックの映像や写真を見た瞬間に、
ターニングポイントを迎えることになる。
そして、幸福へと転じなければならない。
真実が明らかになり、
それは前向きに生きる人々を応援するものになるべきだ。
こういうものが、
コンテの秒割に合うような曲を、
探す(あるいは編集する)ことが、
選曲作業というものだ。
さて。
ここまでくわしく解説したのには意味があって、
僕が選曲した11曲を、
撮影前にコンテに当てて試したものがあるのだ。
合う合わない、ももちろんあるが、
ガワが変わると、
これほどに印象が変わる、
ということを体験してほしい。
そして、
ガワが変わったとしても、
ストーリーそのもの、
中身の力強さは、
変化していないことに留意されたい。
(多少解説しておくと、ボーカル有り無しがまず関係する。
歌詞があるとセリフをじゃまする可能性がある。
JASRAC登録されているインスト曲を探すのは難しく、
映画サントラなどから探すことになる。
たいていは似ている映画を探すとアタリがある。
しかし今回の話に近い映画って何だろう?
あんまりないよね。
だから「世界観が近いアーティスト」を探すほうが今回は楽だった。
もちろん、ボーカルありになる。
あと、二つの作品で音楽を共通にしたほうがシリーズ感が出て、
バラバラに見えないのではないかと思っていた。
なので、両方に合うような曲を探している状態でのものである。
最終的には、
編集段階でそれぞれに合うやつを使おうということになった。
たとえば「はじまりのうた」のサントラから、
同じ曲を男が歌っているものと女が歌っているものをもってきて、
じいさんとレズで使い分ける、
というアイデアもあった)
以下がそれだ。コンテに音楽のみを乗せた、簡易的なものだ。
ttps://youtu.be/1NPP8WB_RCs
(同様に、このアドレスを知っている人だけがみれる動画です。
譲渡禁止。頭にhをつけてアクセス)
11曲2タイプなので、全22分あります。
あなたならどういう選曲をするか?
僕よりセンスがあるかもしれないので、
何かを当てて見る、ということをしてもオーケーだ。
音楽は、
ストーリーを増幅するか、
減退させるかでしかない。
増幅する音楽を探すことが、
選曲というガワの仕事だ。
そして、
ガワに左右されない、
むしろこのガワは中身にはあわないから却下、
と言えるような、
ちゃんとした中身をつくるのが、
脚本家の仕事である。
2018年04月19日
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