2018年04月24日

プロの現場から8: 没脚本

実は、最初に僕に依頼が来たのは、
三本であった。


その三本目があまりにもひどくて、
僕は怒った。
それがこれだ。

NHK企画井上康生.pdf


メアリースーここに極まれり、
といった、ご都合と甘えである。

なぜ泣いたのか、ちっとも伝わってこない。
どこが泣ける話なのか、なにもわからない。
これはこの人の体験談に近く、
一人称にすぎず、三人称にもなっていない。

そこで、僕が書いたのが以下である。

母にケーキを.pdf
吸わない煙草.pdf
切れない鋏.pdf

シチュエーションとネタだけ生かす方法は使いきれず、
(そもそも電気屋という場所に、
井上康生活躍当時の巨大なブラウン管を集める、
というのは、予算的にできないということもあった)
引きこもりの家ワンシチュエーション、
車の中ワンシチュエーション、
床屋ワンシチュエーション、
というバリエーションで書いてみた。

どれもよくできていると思う。


しかしこれは制作されず、
僕がこのエピソードから降ろされることになった。
変えすぎ、という理由からである。


じゃ、変えなかったものはどうなったか、
オンエアでたしかめていただきたい。
(と、書いているうちに特設ページが出来た模様。他のものと比べてみるも一興。
http://www.nhk.or.jp/tokyo2020/enjoy/1min_movie/#/



残念ながら、企画した本人にこの脚本はわたっていない。
間に立つ人がトラブルを恐れ、
立場が下の僕をおろすことでもみ消している。

こういうことが、プロの現場で起こっている。



戦うしかないよね。

そんな人たちと付き合わず、
次の現場に、いくしかないのだ。
プロの現場では、こういうことが日々起こっている。
飛び込んできなさい。一緒に戦おう。
posted by おおおかとしひこ at 08:37| Comment(9) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
三本とも拝見しましたが、病院、告白の二つは主人公が行動している、しかも目的も持って行動しているというのが伝わってきました。
多分ここの脚本論を見ていなければ意識できなかったと思います。


あとすいません、一点質問です。
脚本の話とはズレますが
カラーグレーディングがとても良かったです。
特に病院の方の鏡の前で車いすに座っているカット。
ブルーを押し出して寂しげな雰囲気が凄くよく出ていました。
その辺りも大岡監督が担当されたのでしょうか?
Posted by KYKY at 2018年04月24日 10:16
企画案に対する感想と、変化についての質問

母にケーキを.pdf
変化は引き籠りからの第一歩。P4に続きそうな気配。ちなみに次のシーンが髪の毛を切って、さらにスーツ姿で就職・・・と飛躍すると、テレビの影響くらいでとシラけそうに感じます。わずかな変化があったというシーンで合っているでしょうか。

吸わない煙草.pdf
変化は親子の関係性。母の科白で強くなくちゃという前振りがあるから、冒頭に禁煙中を匂わせる描写などどうだろうと勝手に思いました。(ハンドルを指で叩くとか)解釈として間違っているでしょうか?

切れない鋏.pdf
 変化しているのは分かりますが、言語化できません。(親子の関係性の変化だけでは表現しきれない気が)どう言えばいいでしょう? 客が涙に気付かないのがとても素敵ですが、この良さもうまく言語化できません。

あと、初心者は予算の問題をどの時点で考えるべきでしょうか?
Posted by パナマドン at 2018年04月24日 11:45
KYKYさんコメントありがとうございます。

質問の件ですが、フィルタワークと照明までは普段やらないのですが、
低予算でカメラが限定される(プロレベルで最低クラス)ことから、
事前に配色計算はしました。
スチルでテスト撮影してフォトショでカラコレ、
フィルタや補色の兼ね合いや番手(フィルタの濃さ)も見ています。
僕はデジタル撮影がほんと嫌いなんですが、
このやり方はフィルム撮影の技法でやっていて、
デジタル撮影っぽくない上がりになったかと自負しております。

「冒頭の孤独感」は、脚本にそうないとそう撮ることは出来ません。
撮影は内容の為にするものです。
トーンありきの現在のCM業界の薄っぺらさたるや。
Posted by おおおかとしひこ at 2018年04月24日 12:07
パナマドンさんコメントありがとうございます。

ケーキ:変化はテレビの影響ではなく、ケーキに象徴される母との関係性を軸に考えています。テレビはきっかけに過ぎなくて、オリンピックだって多くの人にとってはきっかけに過ぎないと考えています。
そのへんは、芝居や表現の温度感になるので、演出の匙加減の領域になりますね。「わずかな」の量は脚本と関係のない部分かと。

煙草:母親にそう言われるまで「強くなくちゃ」と言われたことなんて覚えていない、という体にしたほうが良くなると考えています。

鋏:母親の死に実感が持てない所から、本当に死んでしまったんだな、という感触の変化です。ちなみにこの原稿だけは、上がった床屋のものを見てから書いたので、あの空間縛りで自分だったら何が出来るだろう、というチャレンジで書いてたりします。
言語化出来ないけど良い、という感覚は重要で、言語に出来るのなら言語でおしまいにしてしまえばよいのです。そうじゃない間みたいなものがあって、それがお芝居のいいところだと思います。
脚本は、その間を作るための前振りでしかないとも思います。


予算は、初心者なら、何億かかってもいいから、最高に面白いものを作ってください。
本当に面白ければ、プロがどうにかしようと、あなたの知らない方法を練ってくれます。その甲斐がある脚本を皆探しています。

興味があるならば、wikiには制作費が載っていることが多いので、調べてみると良いでしょう。
結局何にいくらかかるのか計算しないと出ないということがわかるので、高いか低いか普通かぐらいが分かれば大丈夫です。
実際の映画を見て予算を予測できればプロ級ですが、そこまでは誰も求めていません。

ぶっちゃけると今回は一本200万。
野村萬斎とかの奴に沢山持っていかれましたなあ。
Posted by おおおかとしひこ at 2018年04月24日 12:23
電気屋のはひどいですね。
一昔前のケータイ小説のお約束「とりあえず友人死なせとけ」ってな感じでしょうか。

ど素人の僕が改変するなら(余計なお世話)、
若い女性に優しく接客する主人公と、老いた母に厳しくあたる主人公を対比。
暗転し(電気屋なのに)、一台のブラウン管テレビに映る井上康生の前で、母に嫉妬まじりの説教をくらう。

なんてシーンが思い浮かびました。
風呂敷はたためません。あしからず。


前髪を上げて、最高に良かったです。
ヘアバンドを渡すところ、女性の強い覚悟を感じました。
このスッキリと終わる感じ、視点を変えないと浮かばないアイデアなのでしょうね。
Posted by しん at 2018年04月24日 21:13
しんさんコメントありがとうございます。

改変の仕方にはコツがあって、
以前のものをベースに改造していかないことです。
前のもつ(ダメな)構造に引っ張られてしまうので。

「母の死で泣けなかった」「井上康生」
「床屋(でも良いしテレビが自然にあるところ)」で、
三題噺をつくると良いでしょう。
勿論、笑いでなく「泣き」縛りで、
かつオリンピックの広告になっている縛りで。
Posted by おおおかとしひこ at 2018年04月25日 00:46
変化は主観的なものもあれば客観的なものもあると思います。
それはどっちでもよくて、観客が感じ、味わえればオーケーかと思います。

あとすいません。落丁でしたね。直しておきました。アナウンスもします。
Posted by パナマドン at 2018年04月26日 13:02
大岡さん、いつもブログを拝見しています。

今回の「プロの現場から1〜8」、最高に面白かったです。いつも面白いのですが、今回のは、実例がふんだんにあったので、特に面白かったです。

脚本の良い例、悪い例。なぜ悪いのか、どう変えれば良くなるのか、なぜそう変えると良くなるといえるのか、実際に変えたらどうなったのか。

これらの過程が一語一句と映像で見れたのは、とても貴重なレッスンになりました。これだけで、何百万円の価値があるレッスンだと思いました。本当にありがとうございました。私も、大岡さんみたいな脚本を書こうと、改めて強く思いました。

大岡さんの描く登場人物は、みな強く前を向いて行動しています。苦悩を抱えながら、それでも行動します。それは、大岡さん自身が、誰よりも強く前を向いて行動しているからだと、感じました。勇気づけられました。

これからも、ブログを楽しみにしています!ありがとうございました。
Posted by 虎次郎 at 2018年05月10日 18:42
虎次郎さんコメントありがとうございます。

ダメな例→良い例の具体がなかなか入手できず、
普段はダメな映画をボコボコにしたりしてますが。笑

ああその何百万の副収入がほしい。
弊社は副業禁止なので、アフィリエイトなしでここをやってるのも、
結構な自慢だったりします。

ここで書いてることは、
「昔の未熟な俺が知りたかったことは、
今の誰かも知りたいことだろう」
というコンセプトで、
基本の基本から最近の知見までバラバラに書いていたり。

目的は、面白いストーリーを日本中に溢れさせることです。
テレビや映画に夢中だった中学生の頃、
あの感じを作りたいのかもしれません。
Posted by おおおかとしひこ at 2018年05月10日 20:06
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