2018年04月12日

強さ(「ダンガル」評)

スポ根ムービーには、それぞれの時代に傑作があるものだ。
「ダンガル」もその歴史に刻まれるものになるだろう。

今年に入って二本ともインド映画にやられた。
新しいスポ根映画のマスターピース誕生に、
心から拍手したい。


インド映画のこの面白さはなんなんだろうと、
ずっと考えていた。
ベタベタのストーリーが面白いわけじゃない。
いや、ストレートすぎることが面白い可能性がある。

普通そんな場面は、
プレッシャーがきつくて避けるだろ、
と思う場面を、躊躇することなく書き切るのが、
インド映画の魅力ではないか。


たとえば、以下ネタバレだが、
国際試合に負け続けているときに、
父親に電話する場面の緊張感たらなかった。
あんな場面、書くのがきつくて、
並の脚本家なら裸足で逃げ出す。
ちょっとした脚本家なら、
どうにかしてセリフでまとめていく。
しかしこの映画は違った。
ただ泣くという、
ものすごいストレートを投げてきた。
何にもならない場面が、逆に印象的だった。

こんな単純な話の、
何が人を惹きつけるのか。
たぶん、素直すぎる人柄に、
みんな惚れ込むんだと思う。

日本人は複雑になりすぎて、
こんな目がキラキラしてる人々を見ると、
思わずどうしていいかわからなくなる。

誰も彼をも抱きしめたくなる、
人間の魅力があふれ出ていた。


父親の狂気とも思える、
ずっと一点を見ている芝居が素晴らしかった。
姉の迷いが良かった。
妹にもうちょっとサブプロットが欲しかったが、
姉に集中させるためにはしょうがないか。

もう最後のレスリングは、
30分以上あったんじゃないか。
ずっと夢中で見てた。
レスリングをはじめておもしろいと思ったよ。

攻撃か防御かに、焦点を絞ったのがよい。


成功したスポ根映画の特徴として、
マイナー競技を取り上げる、
というのものがあると思う。
みんながその競技に関して素人だから、
「その見方」を始めて体験できる。
それが面白さの結構な割合を占めると思う。
レスリングのルールはやっと分かったし、
いつ「5点」を出すのか、
私たちは固唾を飲んで見守るだけだ。


素直なことがインド映画の魅力だとすると、
僕は音楽こそが最もそうではないかと思った。
エンドロール中鳴り響いていたテーマ曲。

あんなに力強く、男のボーカルで激しく高らかに、
きちんと歌える音楽が、
今日本にある?

この王道ど真ん中の音楽こそが、
最も素直なのではないかと思ったのだ。

はあ?エグザイル?AKB?知るかぼけ。


強さ。

このことを最も素直に、私たちが拳を突き上げやすいように、
何から何かまできっちり表現したこのテーマ曲こそが、
この映画の素直な強さを、
象徴しているのではないか。


映画館で観るべし。
いいスピーカーで観るのは、
インド音楽への礼儀である。


音楽とは感情だ。

今の日本が詰まらないのは、
この王道ど真ん中の感情を失っているからではないか?
posted by おおおかとしひこ at 23:04| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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