2018年04月28日

メアリースーと「うちの子たち」

メアリースー症候群の変形版の話。



主人公に「わたし」を入れてはいけない。
三人称のストーリーを書くときの鉄則である。
一人称なる「わたし」を三人称に混ぜてしまうと、
ひいきしてしまう。

つまり、
なぜか苦労せずに愛され、
なぜか最強で、
なぜかおいしい所だけ取っていく、
ご都合のキャラクターになってしまう。

他人なら「そんなバカな」と客観性を持てるのに、
メアリースーは「そうではない」と思い込んでしまう現象である。

これは、
「わたし」を混入させてしまうからである、
というのが僕の説だ。


わたしは苦労したくない。
わたしは愛されたい。
わたしはおいしい所だけもってって主役になりたい。

こういう願望が、不自然なご都合主義を生む。
それに気づけないのは、
わたしと他人の区別がついていないからだ。

だから主人公はわたしと関係ない「他人」にすべきである。

あなたが甘えた人物かどうかはどうでもいい。
主人公が甘えた人物にならないためには、
あなたとは違う人物である、
とあなたが自覚すればいいだけのことだ。



で、最近、その「わたし」意識と似たような、
メアリースーの在り方があることに気づいた。

「うちの子」という言い方である。

「うちの子たち」という複数形になるときもある。

恐らく女性に多い。
男子はあんまりこういう言い方はしないからね。
なんとなく母性本能のようなものが働くのだろう。
しかしつまり、これは「わたし」意識と同様の結果をもたらす。

つまり身内意識、「親バカ」である。


親バカだから、甘やかす。
この子はなぜか愛される。
(欠点すら愛される)
この子はなぜか最強。
この子はなぜか都合よくうまいこといく。
この子に苦労させない。
この子は辛くて泣いたりしない。
この子は誰の手も借りずに戦うなんて危険なことをしない。
独立心がなくても怒らない。
すぐ諦めたり、他人に全面的に助けを求めるても怒らない。

つまり、のび太になってしまう。

親バカだから、
のび太ですら可愛くなってしまい、
愛しすぎて訳がわからなくなっている。
それは客観性を欠いた状態だ。


二次創作ではよくこういうことが起こるような気がする。
二次創作というのは、
「ストーリーを語ること」が目的ではなく、
「キャラクターを愛でること」が目的のことが多いからだ。
うちの子自慢を競えばよい。
犬自慢に似ているかもしれない。

しかしそれが目的ではなく、
ストーリーを語ることが目的ならば、
この感覚は捨てるべきだ。


「うちの子」という意識ならば、
「うち」から出しなさい。

あなたは子供が独立しようとしているのに、
家に押さえつけて、いつまでも独立心を与えず、
甘やかし続け、ついにはダメな人にしてしまっている、
毒親であることを自覚することだ。

ストーリーというのは親の庇護の下では成立しない。

(ちなみにのび太は映画版だけ、ストーリーを生きている)

ストーリーというのは冒険のことだ。
親がついていってはいけないのだ。

ストーリーは授業参観ではない。
親の居ないところで起こることであり、
親をどうやって撒くか、ということから始まる。

つまりストーリーとは独立してからようやく始まる。

「他人」が家を出て、
自分の家を作り上げるまでが、
ひょっとするとストーリーかもしれない。

「うちの子」なんて意識はそこにはない。
家の中で飼っている限りは、
いつまでたっても監視である。


いつかそのキャラは反抗期を迎えるか。
親の都合だから反抗しないだろうね。
そのキャラが親に反抗し、
家を出ていってからがストーリーだ。

親はなげくだろう。あんな子じゃなかったのにと。
「あんな子」とは、いい所ばかりの面だ。
(悪い所も含め、長所に見えてしまう)

人がそんないい面ばかりでないことは、
わが身を振り返っても、他人を見ても、理解できると思う。



メアリースーとは、
自己愛が漏れてしまうことである。
親バカも自己愛の一種だ。
(心理学的には投影)

母性本能はほかの所に使ったほうがいいと思う。
二次創作でやる分にはその限りではないことは、
再び注記しておく。



ストーリーとは、
「いかにその子が手を抜いて愛されたか」ではない。
「いかにその子が人知れず苦労し、何を獲得したか」である。

親の見ていないところで、ストーリーは起こる。


あなたは醜いわが子の運動会のビデオを、
延々とうんざりしている他人に見せているだけかもしれない。
posted by おおおかとしひこ at 15:13| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。