本格的な添削に入る前に、前記事の補足をしておきます。
ストーリーとはなにか。
この謎に僕は挑んでいます。
それには、「ストーリーでないもの」
をピックアップするとよくわかります。
あなたは、映画や漫画や小説や演劇を楽しむとき、
一体何を楽しんでいるでしょう?
そのキャラクターが好き。
その役者が好きで、出ているものなら何でも好き。
そのキャラクターになりたい。
そのキャラクターをずっと眺めていたい。
ビジュアルデザインが痺れる。
音楽がよくて、体が動き出す。
シチュエーションに萌える。あるいは燃える。
ロケーションがいい。
光線がいい。
心地良くて、ずっとこの世界にいたい。
世界設定がいい。
キャラの設定がわくわくするしかない。
セリフに現れる、その人生観に痺れる。
こういう国が実在するんだ。
こういう文化や格言が実在するんだ。
オープニングが良かった。
ここの視点が良かった。
このシーンの湿度感や温度感が好き。
この役者のこの場面、なんという色気だろう。
これらはすべて、
ストーリーではありません。
ストーリーと呼ばれるものに含まれるものではありますが、
ストーリーそのものではありません。
これらがなくてもストーリーは成立します。
ストーリーはこれらの下にある構造的存在です。
ストーリー構造の上にこれらがかぶさって、
映画や漫画や小説や演劇という作品全体になるのです。
脚本はよく設計図にたとえられますが、
これらの、あとに被せるものを書く事が設計図を書くことではありません。
これらがあとあと被さるであろうことを予測して、
それ以前のさらに原始的な構造を作ることが、
ストーリーづくりで、
それを書くことが脚本を書くことです。
脚本には、
物理的にはセリフや場面が書いてあるため、
そういうものを書くことが脚本を書く事だと誤解されがちです。
でもセリフなんてアドリブで変わるし、
もっといい言い方があるなら、
いくらでも変えたってよいのです。
ストーリーが同じでも、
セリフを変えることは可能です。
(逆にストーリーを変えて同じセリフにすることは難しい)
つまり場面やセリフはストーリーの従属物です。
ストーリーが主で、物理的文字の内容は従です。
「脚本に文字としては書かれていないが、
たしかに流れとして存在するもの」がストーリーです。
目に見えないものなのです。
どういうことかというと、
ストーリーは、
目的、行動、その結果という、
文字としてはどのようにでも表現出来るものが、
その骨格だからです。
目的も、行動も、結果も、
一字一句正確にいうことは出来ません。
書くたびに多少変わってくるもので、
人によっては同じことを言っているのに、
使う言葉が全く被っていないこともあるくらいです。
だとしても、私たちは、
それが同じことを言っているのだな、
ということが分かります。
その同じことが、ストーリーです。
たとえば「桃太郎のストーリー」を100人に書かせると、
言葉は全然違う100種類の文章が出来ます。
しかしほとんどは同じストーリーを表現したものになるでしょう。
だから文字ではとらえづらいのです。
僕は、ストーリーとは触覚である、
なんて言い方をすることがあります。
視覚でも聴覚でも同定できるものではなく、
大体の感触でしか「同じ」とか「違う」とかが言えないからです。
これは感覚的な問題になってしまうのです。
同じストーリーでも、
名前を変えることが出来ます。
役者を変えることが出来ます。
セリフを変えることが出来ます。
音楽を変えることが出来ます。
ビジュアルを変えることが出来ます。
シチュエーションにアレンジを加えることが出来ます。
しかし、
目的や行動やその結果が違うものになると、
ストーリーが別のものになってしまいます。
また、ストーリーには
「結局それ全体でなんの意味があったのか」
というさらに文字にならない全体としての要素があります。
これをテーマといいます。
最悪、
目的や行動や結果が変わったとしても、
テーマが同じなら、
ストーリーは同じと、私たちは考える傾向にあります。
(小説や漫画の実写化は、本来ここを考えないと成立しません。
ストーリーこそが同一であるべきであって、
学芸会のようにビジュアルまねっこゲームをしててもしょうがないのです)
さて。
あなたの大事にしているもの、
あなたの愛しているもの、
あなたがやりたいもの。
それは本当にストーリーですか?
それ、脚本に関係ないやつちゃいますか?
もしそうなら、ここをいくら読んでも、
違うもののことを書いていると思いますよ。
ここは脚本を論ずる所です。
そしてそれらを添削してみようということが、
このシリーズの趣旨です。
あるものがストーリーに属しているのか、
ストーリーに属していないのか、
そこを考えることが、
ストーリーを考えることの第一歩かもしれません。
2018年05月04日
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