緩急について、さらに進めます。
実際の原稿に、緩急の書きこみをしてみました。
赤が急、緑が緩です。
緩急.pdf
本文中で赤で囲んだところは急の激しいところ、
緑で囲んだところは緩の激しいところ、
つまり笑いで緩むところです。
(こういうものをコメディリリーフといいます。
緊張を笑いで飛ばすんですな)
緩急のリズムの変化に注意してください。
緩のあとに急、急のあとに緩、となっています。
また、急が続くときはその中に緩が入っていたりするわけですね。
で、大事なのは、
このペースがクライマックスに行くにしたがって、
どんどん緩急が早くなっていくことです。
これが心拍数に一致するから、
人はドキドキするわけです。
最後のページに、
全体像が分るものを書いておきました。
急緩急緩急緩、という構造に、大きくはなっています。
で、三幕構造の話をしましょう。
実は、三幕構造理論に、
この緩急構造の話は入っていません。
ということは、
緩急構造を好きに作ってから、
三幕構成をしてもいい、と逆に言えることになります。
ちなみにこのバージョンでの三幕構成は、
分りにくいですが、
ハチを中心にすると明快です。
大きなストーリーは、
「護との(奇天烈な)共同生活」
が第二幕になるようになっています。
その大きな目的は血清をつくることですが、
それが具体的になる、「ハチが犬に尻を噛まれること」と具体化するまでが、
その共同生活の期間です。
(それができれば共同生活は終わりなので)
で、それは二人の三幕構造ですが、
主人公ハチのストーリーで三幕構造ができていることに注意したいところ。
第一ターニングポイント、
つまり一幕の終わりで、
センタークエスチョンが示されるところは、
「北原博士を、誰かが消したいという事を把握し、
組織のやり方に疑問を持つ」
という部分です。
組織のやり方に疑問を持つ、
というほどには明確に描写されていません。
しかし、
センタークエスチョン、
「組織を抜ける」ということを暗示させます。
「組織を抜けられればこの話はおしまい」
ということです。
血清ができるかどうか、博士はどこへ、
などという事より、
「ハチが組織を抜けること」が、
このストーリーの大目的です。
(当初は暗殺成功で抜けられるはずだったが、
子供がいたことで、それは計画が変わってきてしまった。
最終的には、渡米して戸籍を得ようとすることで、
センタークエスチョンを果たすわけです)
この第一ターニングポイントは、
明示ではなく暗示という形で、
やや分かりにくい形式をしています。
勿論、
「俺がこの組織から抜けるには、どうすればいいんだ?」
なんてセリフを言わせて、
分りやすくする手もあります。
しかし、「組織から抜けるかどうか」
よりも「護との奇妙な生活」に焦点を当てる為に、
わざと弱くしてあるのです。
「組織から抜けるかどうか」は二幕の中心ではないからです。
同様に、第二ターニングポイントは、
血清を作る為に、護に協力する決意を固めるところです。
それはもともとの組織の依頼、
博士の暗殺とは真逆の行為であり、
いわば反逆であるからです。
もちろん、観客はそこまで意識しないようになっています。
組織はここでは重要ではなく、
護との友情がメインの焦点だからです。
しかしハチから見たストーリーでは、
あくまで「組織を抜けるかどうか」
「人間になりたいこと」が重要で、
それから見た場合の、
第一ターニングポイント、
第二ターニングポイントが、
このように設定されている構造になっています。
この二つがともに組織と関係しているので、
常にハチのストーリーは、一見護に振り回されているように見えて、
その実ぶれていないわけですね。
(そのページ数が3:7:3と、
ハリウッドの理論値、1:2:1にほぼなっていることも、
この脚本のリズムがよい理由です)
ちなみに、表の下に、
ページ数と出来事を書いておきました。
俯瞰する用にお使いください。
また、ターニングポイントに〇をつけておきました。
第一ターニングポイント、第二ターニングポイントとは異なり、
通常のストーリーの進行のターニングポイントです。
(このへん、名称が一緒でややこしいので、
名前を変えたほうがいいとずっと思っていますが、
この名称自体はハリウッドの理論のものです。
第一ターニングポイントは、
最初のターニングポイントではなく、
一幕の終わり、という意味です)
これらのターニングポイントは、
前後の焦点や目的が変わるポイントです。
その前後を見てみましょう。
前 博士を暗殺すれば組織を抜けられる
〇 それは子供だった
後 一体どういうこと?
前 組織のやり方に従ってきた
〇 組織のあり方に疑問を
後 抜けたほうがいいんじゃないか
前 護の事情
〇 犬の熱
後 護、何者?(より深く知っていきたい)
前 二人の心の交流
〇 尻を噛まれてよ
後 一体どういうことなのか
前 事情がすべてわかった
〇 友達として協力したい
後 血清は出来るのか
これらのように、焦点が変わる所が、
丁度緩急の切り替えになっているという所がみそです。
さて。では緩急の切り替えは、
いつするのが理想でしょうか。
「書いてきて、切り替えたいなあと思ったところ」
が、経験的に正解ではないか、
と僕は考えています。
つまり、今までの流れに飽きてきて、
今の緊張感や興味が維持できなくなってきたとき、
というときが、
切り替えどころではないでしょうか。
いつも困るのは、
書いていて、なにかストーリーが鈍化してきたなあ、
と思うときです。
それは、緩急の切り替えどころを体が要求しているのだ、
と最近は思うようになりました。
ということは、焦点を変えるターニングポイントをつくり、
次に展開をつないでゆけばいい、
ということになりますね。
(もちろんプロットがしっかりできてないと、
急に路頭に迷うことになるでしょう)
ストーリーというのは、こうやって前にすすんでゆくのです。
2018年05月09日
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