2018年05月14日

その閃きは、消えてなくなることはない

初心者ほどリライトが苦手だ。
それは、「せっかく出来たいい閃き」を、
消してしまうのが怖いからである。

そのいい部分を消してしまったら、何も良くなくなる、
と恐怖してしまう。
この恐怖が、ざっくり原稿を直せない理由だ。

僕は、その閃きの部分こそ、最初に削ってしまえ、
と考える。


まだ作品が形になっていないころ、
ある日最初に雷が落ちる。
天地のはじまり、閃きの到来である。

これは、多くの場合、ディテールであることが多い。

セリフ。場面。設定。
ビジュアル。シチュエーション。
音。音楽。色。
名前。言い方。タイトル。
キャッチコピー。


恐らくそれはキャッチーな何かだ。
キャッチーだからこそ、
それはただの思いつきではなく、
「閃き」に値すると、
あなたは考える。
キャッチーだからこそ、
人を惹きつける何かだと考える。
キャッチーだからこそ、
自分もそれに惹きつけられ、
創作がはじまるはずだ。


それ自体は悪くない。
創作を始めると、
さらに閃きがやってくることもある。

作品の中に、大閃き、中閃き、小閃きが、
キラ星のように並んでいることもあるだろう。
そしてそれはウリになると皮算用するだろう。

しかしそれらの閃きが、
ガワの要素でしかないことが、
大抵の初心者にありがちなことなのだ。


ガワと中身の話は僕はよくするけど、
中身にガワを被せるべきであり、
ガワに合わせて中身を変形するべきではない。

不動点は中身であり、ガワではない。
中身をまず磨いてからしゃれた服を着せるべきで、
しゃれた服に合わせて中身を鍛えることは出来ない。


日本人は型にはめる思考をしがちで、
「このガワに合わせて中身を調整出来ないか」
なんてことをしょっちゅう考える。

それは日本人の思考としてはいいのかもしれないが、
物語を書くことについては罪悪だ。

なぜなら、
ガワに合わせた中身なんて、
「調整」以外のなにものでもないからだ。


物語は必然性や論理の背骨に貫かれている。
「ここ変だ」「おかしい」ではダメで、
「論理的にこう展開する」
というごく普通の展開をするべきだ。

この背骨が調整によって、曲げられる。
御都合主義という。



ガワに中身を合わせると、御都合主義になってしまう。

中身をまず自然で納得のいくものにしなければならないときに、
御都合主義は最大の敵だ。

御都合主義は小賢しい。
小賢しくないように中身を練られたものを、
偉大なる思考という。



さて、
初心者諸君は、
リライトが恐怖である。
これまで自分を引っ張って来た閃きを、
消すことが出来ないものだ。

だからこそ、一回そのディテールを、
捨ててみるとどうなるか、
シミュレーションしてみたまえ、
ということを勧める。


安心しなさい。
閃きはまたやってくる。

これはそういう経験をしないと、
理解できないかも知れない。

あの閃きが二度とくることはない、
と思っていると、来ない。

しかしそれを捨てて、
しばらくやっていると、
現状に相応しい別の閃きが、
ちゃんとやってくるのだ。

これは天気予報のような経験則ではなく、
根拠がある。

つまり閃きとは何か、
ということ。


閃きというのは、
長期思考の圧縮ではないか、
というのが僕の説だ。

最初の閃きは、
何やらぐにょぐにょ形なき所に妄想していたところの思考が、
ひとつの何かに圧縮された現象だ、
というのが僕の説だ。

で、
それからあなたは何週間か何ヶ月か何年か、
こつこつとその題材や作品について、
夢想や思考を繰り広げ、
ついに形にするために書き始めたはずだ。

挫折することもあるけれど、
とにかく最後まで書ききったとき、
まだ全体が最高になってなくて、
閃き近辺はいいんだけど、
それ以外がイマイチのはずで、
でも閃きを捨てると作品のウリや良いところが消えるような気がして、
というのが、
初心者が直面しやすい、リライトの状況だろう。


で、その閃きは、いつ時点の閃きか?
ということなのだ。
大抵は、「全体ができる前の思考」に基づいたものに過ぎない。

そこから色々やってきて、
あなたはようやく全体(まだイマイチだ)が見えた。
ようやく思考が全体に及んだのだ。

つまり、最初の閃きに意味はない。
全体の圧縮されたアイデアではなく、
全体を見ていない、視野の狭い閃きでしかなかったのだ。

思いつくべきは、
今や全体を通して見えている視点からの、
閃きである。



こう考えると、
全体を見直して、
もしこうだったとしたらさらに良くなる、
と、理想を描くことが出来る。

その為にかつての閃き部分など邪魔で、
とにかく理想の中身を作ることが最優先になってくる。


かつての閃きには愛着がある。
最初に思いついたものだし、
思い入れがあるのはしょうがない。

でも一回捨てよう。

それは全体工事の、邪魔をしている。

閃きを保ちながら中身もうまく針の糸を通したかのように、
直せないか?
可能だ。
技量が伴えば。
しかしあなたに技量がないからこそ、
今リライトがイマイチなのではないか?

だとしたら、それを阻んでいる、
「閃き部分をキープしながら」の条件を、
外せば良いのである。


さて。


セリフ。場面。設定。
ビジュアル。シチュエーション。
音。音楽。色。
名前。言い方。タイトル。
キャッチコピー。

あなたの気に入っている、
これらのディテールを一回壊して工事し直そう。

大丈夫。
この工事には数日から数週間かかるが、
出来上がったものがまずければ、
それを捨てて元に戻ってくることが出来る。
気に入っている前のものは、捨てて無くなってしまうわけではない。
デジタルのファイルにもいるし、
なんならプリントアウトして、
いつでも戻れるように印でもつけておけばいい。


で、戻れることを確認したら、
それを一切見ずに、
白紙を前に考え始めるといい。

ストーリーの骨格を書き出して、
行動やその動機、その経過や結果を書き出すと良い。
ターニングポイントなど重要な部分には丸をつけたりすると良い。

これは手書きがオススメだ。
あなたのストーリーは誰にも書けない新しい形をしている筈だから、
テンプレを組み合わせるデジタルパーツは相応しくない。
(逆にテンプレを組み合わせているしかないストーリーなど、
陳腐なのでやめたまえ)

だから、形なきものに形を与えていくつもりで、
手書きで書いていく。
紙が足りなきゃ継ぎ足せばいい。
レイアウトが美しくなければ、
2枚目に書き直すと良い。

手書きのいいところは、その調整力だ。



で。

改めて自分が書いたものの「中身の骨格」を、
自分で書いてみると、
色々な発見がある。

ああ、自分はこういう話を書いていたんだな、
という発見だ。

なかなか出来ない俯瞰が、
ここに至ってようやく可能になるのである。


なるほど、だとすると、
こうした方がより面白いし、
無理もなさそうだぞ、
と、新しいアイデアが出ればもうけものだ。
赤のペンでも使って、直しのアイデアを書き込むと良い。

あるいは、そのアイデアを使って、
改めて一から骨格を書いてみることだ。


それが、よいリライトのやり方だ。

あの場面は不要だからなくそうとか、
全然変えてこうしようとか、
設定ごと変えてこうしたほうがいいとか、
新しく場面を作ろうとか、
あれとあれをこう並べたほうが事実関係が逆になるぞとか、

そういうことを考えられるようになる。

そうしてまた、
どういう感じにしようかなと思考妄想していると、
新しい閃きがやってくる。



これは、従来の閃きにすがっていては、
何一つ出来ない行為であることに気付こう。


閃きを雪だるまの芯にして、
あなたは作品を作ってきた。
しかしそれはまだ最初の完成でしかない。


本当に面白い中身が出来てから、
閃きを持って、
それらを全て良くする、ディテールの盛りをやっていくとよい。


土台の上に建築物の花が咲く。
建築物に合わせて土台を作るのはナンセンスだ。


つまり、閃きから作品を作る、
という初手が、
実は間違ってるのだな。



ベテランになると、
ディテールではなく、
中身に関するアイデアが閃くことがある。
「最初こう思っていたことが、逆転するのだが、
実は最初であってた、みたいな構造の話は出来ないか」とか、
「ストレートな王道だが、逆から見ると悪の話になってるみたいなことは」
とかだ。

僕は「ダンガル」のクライマックス、国家の場面(微ネタバレ)が、
素晴らしいアイデアだと思う。
あれは、最初に閃いたアイデアではないと思う。
王道の展開のクライマックスを最初書いていて、
いや、まだ足りない、こうしたほうが更に良くなる、
と、リライト時点で思いついた筈だと思う。

つまり、
リライトの閃きは、
これまでの閃き全てを超える可能性を持っている。

何故なら、思考の量が最も多い筈だからだ。


その膨大な思考の量を、
一撃の何かで圧縮解決できるものを、
ほんとうの閃きというのだと、
僕は考えている。



さて。
ここまでやるには、
色々な技量が必要だ。
ここまできてない人もいるだろう。
しかしいずれやらなければいけないことだ。


まず最初の閃きにさよならしてみよう。
錨を上げて、航海をしてみるとよい。

その閃きは決して消えてなくなりはしない。
それをニュアンスとして含んだ、
新しい閃きに生まれ変わるだけのこと。
posted by おおおかとしひこ at 10:23| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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