2018年06月05日

VR映画の傑作(「13F」評)

そもそも「レディプレイヤーワン」を見たのは、
「もう一つの世界もの」のシナリオを今構想しているからだ。
で、映画館に行く前に借りていた「13F」をようやく見た。

なんという傑作!
レディプレイヤーワンが1点だとしたら、
8.5くらいは出してもよい、素晴らしい映画だった。

「マトリックス」に大いに影響を与えたと言われる本作、
なんとマトリックスよりも全然前の傑作SF。

全てのレディプレイヤーワンの観客よ。
13Fを見て、スピルバーグ老害を再認識せよ。


「もう一つの世界もの」のもう一方の佳作に、
「ダークシティ」がある。

ダークシティのビジュアルと、13Fのストーリーを掛け合わせ、
カンフーのふりかけをかければ、
おおむね「マトリックス」になるぜ?

小説「ネクロマンサー」に影響を受けたとウォシャウスキーは言っていた。
いや、元ネタはむしろこっちなんじゃね?
リローデッドやレボリューションのストーリーを考えると。


僕はこの手の映画で、
「アヴァロン」「メガゾーン23」をわりと推してたんだけど、
映画としての格が全然違うことがわかった。

「13F」。必見だ。


問題はこのタイトルにある。

せめて劇中の言葉にひっかけて、
「アナザーワールド」
というタイトルにするべきだった。

「この世の果てで私と出会って」でもいいかも知れない。





以下ネタバレ。









ラストシーンが本当に見事。

ラストのセリフは、
凡百の脚本家には決して書けない。

「話すことはたくさんあるわ」って。
説明台詞と日夜格闘している、
バカな脚本家に無理やり見せるべきだ。

説明など不要。
劇中の人物はまだよく分かっていないが、
ここまで見てきた観客は、
何が起こったか、全部わかっている。

なんという見事な劇的アイロニー!

(劇的アイロニーとは、
劇中の人物の知っていることと、
観客の知っていることに「差がある」ことをいう。

ヒッチコックが出した例は、
「爆弾の存在を観客は知っているが、登場人物は知らない。
だから観客は、いつその爆弾に気付くか、いつ爆発するか、
ハラハラする」という、
サスペンスの道具立てとして解説していた。

もちろん、サスペンスの道具以外にも使えるわけだ。
これは最も端的な、
説明に関する劇的アイロニーの例だと思う)


映画はオチ。
それが見事に決まって一本取ったシナリオだ。



さて、細かいところ。

「時々記憶を失う」という乗っ取りシステムが面白かった。
そして、
「長時間のダイブは危険」ということを散々前ふっておいての、
「こっちの世界へあいつがやってくる」という、
フレディシステム。

「創造主を見たい」というシーンも印象的だった。
伏線とその解消は視覚的に、印象的に。
映画の基本中の基本だね。

そしてなによりも、
「世界の果て」を見てしまうシーン。
最初にそれを隠しておいて、
ここで使うのか、
という完璧さ。

「二つの世界」ものによくあるのは、
「三つ目の世界がある」というどんでんだが、
それをこういう形でドラマチックに提示するとは。

境界線を車で突破して、
砕ける木の柵がとても映画的だ。


で、いろいろ前ふっておいてのラストのフレディシステム。
見事でした。


前時代のロスが同じ役者というのが、
最初ちょっとわかりにくかったけど、
見てるうちに分かるようになっていて、
すごい上手だなあと。

惜しむらくは、
もう少しキャラクター性があると良かったかな。
キャラの立ち方がビジュアルだけで、
エピソードとしてあればもっと良かった。

刑事が野球ゲームやってるシーンも良かったけど、
たとえば
「アスレチックス1967年の○○スタジアム、
ツーアウト満塁、監督の指示は○○。
しかし○○はこれを無視して…パコーン。
俺はこの場面が大好きなんだ」
みたいな野球好きにしておいて、
何かあるたびに野球の名言を言うキャラにしておけば、
ラストにも効いてくるはずだ。

「プレイヤーは監督のものじゃない」って言えたのに。


乗っ取られてしまった同僚も、
レディーボーデンを大人食いしてるとか、
それだけでキャラが立ったと思うなあ。

女のラブもちょっと唐突で、
ひとひねりあれば最高だった。



Aクラスのシナリオだが、
Cクラスのタイトルで、
Bクラスのガワで、
Cクラスの配給なのが勿体ない。

シナリオの勉強に、
娯楽に、
レディプレイヤーワンの口直しに、
最適な「13F」をどうぞ。
posted by おおおかとしひこ at 15:21| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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