2018年06月27日

あなたの嘘は、どうやって閉じられるのか

当然だけど、僕らが書いているのはフィクションだ。
つまり嘘だ。
我々は嘘をついている。
それは本当にあったことではない。
それはみんな分かったうえで、フィクションを楽しむ。
どういう面白い嘘をつくのかなと。

で、それは有限である。つまり終わる。
終わり際が肝心だ。

その嘘はどうやって閉じられるのか。


たとえば、密室殺人事件という嘘をついたとしよう。

事件そのものは嘘であるが、
それは矛盾や無理があってはならない。

その一見不可能がトリックが暴かれ、
成程そうだったのか、と、
作者の用意した完璧なトリックに唸らなくてはならない。

うなるほど大したことないのなら、
それは嘘として上等ではない。

上等な嘘というのは、
終わったあとに、
いやあ完璧な嘘だったなあと思うものでなければならない。


すべてに矛盾がなく、
最初から全て用意されていたかのようになっていて、
それでいて途中で覚めてしまうことがないようなもの。

全貌がラストになって見えたときに、
成程すべてはこうだったのか、
と「納得」しなければならない。

納得のいかないものは、嘘として下手なものである。

あれがああだとすると、これはおかしくね?とか、
それをそうしたほうがよかったんじゃない?とか、
これがあるならそれはなくてもよいだろ、とか、
あれが足りなくね?とか、
そのような過不足や矛盾が見つかると、
一気に覚めてゆく。
「よくできてない嘘」だったからだ。


逆にいうと、
物語を見ている途中は、
「この嘘の、架空の世界の事件は、
どのようにして完結するのか」が興味、焦点であろう。
完結の仕方がぬるい、つまり穴があったときなどは、
これでよかったのか?と、不満が出てくる。

逆に、きっちりした完結とは、
なんの疑問も湧かないようにすべての謎が解かれ、
これ以上聞くことがない、
という状態になることを言う。

そして、
あれのあれはこれの為だったのだな、と、
構造を理解したり、
成程あれのあれがあれに効いているわけだから、
無駄のない、すべてに存在の意味がある、
構造的に美しいストーリーであった、と納得したり、
このあと〇〇はどうしただろうな、と、
その先の幸福のことを考えたり、
つまりは、
「余韻を楽しむ」状態になる。

余韻を楽しむとは、
その世界の過去や未来や、
他の可能性について、想像を巡らせることである。

その世界での冒険があまりに楽しかったため、
もう少しその世界にいて、
まだ楽しんでいる状態である。
(その時に、無駄や矛盾が見つかってしまったら、
一気に覚めるというものだ)


上手に嘘を閉じよう。

後日談が最後に少しだけつけ加えられることが多いのは、
その後の未来を想像する楽しみを、ちょっと足しておくためだ。

想像する楽しみを与えるだけだから、
多くを語ってはいけない。
想像がふくらむように書くべきだ。


その前に、カタルシスのあるラストの決着があることが肝心だが、
その時にテーマが確定しているべきだ。

そのことについて、
余韻の中で、
観客が自分に引き合わせて考えるようなことになれば、
最高のラストであったといえるだろう。

もちろん、
テーマは暗示である。
演説したり、解説したりしてはいけない。

主人公に最初から足りなかったものが、
最後に自らつかむことでそれは暗示される。
そのものとは抽象的なものであるから、
それは何か具体的な物体、カメラで撮れるものになっているだろう。
つまり象徴表現になっているはずだ。

それに対して何かのアクション、動詞で表現することが、
そのテーマを表していることが理想である。

それが最大の問題の解決と同時であると、
カタルシスを生んだはずだ。



もう解決していない伏線がない。
すべてすっきりして残尿感がない。
全部が出た。全部がわかった。

そういう状態が理想だ。


あなたの嘘は、そうやって終わるべきだ。
そこですっきりすればするほど、
あなたの次の作品が、待たれるはずである。

さあ、次の嘘をつこう。
そうやって私達は、
何度もへんてこな嘘をつく。



嘘で始まっている癖に、
よい嘘が閉じるときは、
「そうだったのか」「そうだったんだな」と、「納得」で閉じる。

嘘はそのようにして人の心をあけて、
まるで本当のことのように記憶に残る。





ずっと書いていた小説が、ようやくリライトを終えられました。
どこかで発表を狙います。
posted by おおおかとしひこ at 17:38| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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