湧き水と、汲むことにたとえて考える。
思考速度が速い時は、
湧き水のように言いたいこと、書きたいことが出てくる。
それを汲み取る、つまり書く時は、
手一杯で忙しい。
だけどそれはいつか尽きる。
最初に「書こう」と思った時は、
たっぷり水があるから書けると思うのだが、
そのペースでは水が湧いてこず、
汲むべき手が止まる。
そういう時は手を止めてひたすら待ち、
溜まったらまた書きはじめる。
湧いてこなくなったら、
立って歩いたりトイレに行ったり茶を淹れたり、
(僕は煙草は吸わないが、ここで吸う人もいるよね)
スマホを見始めたり、
寝っ転がったり場所を変えたりする。
1秒待つのか。(手を止める程度)
10秒待つのか。(茶をひとくち飲む程度)
5分待つのか。(トイレに行く程度)
15分か。(スマホで何かを見始める程度)
1時間か。(誰かと話すかも知れないね)
明日か。(そのままやらなくなることも、ある)
なぜ、どうやって考えが湧いてくるのか、
私たちにはわからないので、
待つしかない。
あるいは、既に湧いた部分をもう一度眺めたり、
別の角度から見直してみると、
次に書くべきことが湧いてくることもよくある。
書く行為において、
この、書いていない時間と、
書いている時間の、
どちらが長いのだろうか?
実際のところ、
書いている最中にも湧きだしている。
書かれた言葉によって、
次の言葉を思いつくことがかなりあると思う。
アクションとリアクション、
ボケとツッコミのような連鎖反応として、
書かれたものと次に書かれるものの関係があることが、
とても多い。
いや、書くこととは一連の流れのことであるから、
連関していないものを書くわけではなく、
つまりは書くこととは連鎖反応である、
ということも言えるかも知れない。
僕が音声入力に否定的なのは、
この連鎖がうまくいかないからだ。
口述筆記は論旨が揺れる、
というのは口述筆記やインタビューの常識だ。
だからインタビュアーが適切に脱線を戻す役割を果たさないと、
インタビューは一連の流れになりづらい。
そもそも人の長い話は脱線をするものだ、
というデジタル以前の知恵がそこにある。
もちろん、その脱線力によって、
新しい発想や組み合わせに至ることがあるから、
ある程度の脱線はいい刺激になるので、
脱線全否定ではない。
問題は制御だ。
口述筆記やインタビューは二人一組であるから、
客観者が脱線の程度を判断できる。
音声入力に僕が否定的なのは、
これが一人であることだ。
もっとも、
脱線しない範囲の入力、
湧いた水を一気に汲む程度の仕事なら、
音声入力は威力を発揮するかも知れない。
(僕の経験では、それは1000字から3000字くらいまで)
あるいは、
インタビュー録音の文字起こしを音声入力にやらせる、
というのは最近僕の周りでも何回か見た。
僕の周りはプロの世界だから、
録音部がちゃんといるような、
いいマイクと録音環境が前提かも知れない。
室内撮影に限って、ロケは無理とも言っていた。
インタビュアーが的確に答えを誘導しているから出来ているかも。
いずれにせよ、
5000字や1万字程度を、
ため池に貯められる人はいないのではないか?
というのが僕の経験だ。
(長篇小説10万字(単行本一冊程度)を書く時は、
半年準備して、1万字程度のプロットや、
メモやセリフや描写のスケッチを100枚近く書いた)
前置きが長くなったが、
だから、
書くこととは、
既に湧いた水を汲むことではない。
書くことは、
汲んでは待ち、どうにかして湧かせ、
再び汲む行為の連続だ。
配列作者あるいは入力のことに言及する人たちが、
どれだけこのことを意識しているのかわからない。
(毎日5000字書くということをしていない人たちなのだろう、
という予想をなんとなくしている)
水の湧いてくる速度は思考速度、
汲む速度は打鍵速度だと考えられる。
そもそもそれを分単位で考えることに、
僕は納得がいっていない。
僕が発表し続けているカタナ式や薙刀式の速度表記は、
10分速だ。
時速でもいいんだけど、
時間単位になると最低3時間程度は作業しなければ、
妥当な平均速度の計測量とはいえない。
なかなかそこまで書くべきことは溜まらないものだ。
30分速あたりがリアルだろうな。
中途半端なので、10分あたりの文字数で計測している。
だとしても、
最初の10分と、
だいぶ後の10分は全然速度が違う。
「書こうかな」と思う時には、
たいていは水が湧いた状態だからだ。
(ちなみにプロは枯渇していても書きはじめる訓練を、
どこかでしているものだ)
後半になればなるほど、
湧き待ちが増える。
立つ回数が増えるわけだ。
理想は、
汲んでる速度と湧いてる速度が一致している状態だと思う。
しかしそんなの、
全工程で半分あるかな、って感じ。
ようやく、打鍵速度の話。
勝間氏の200字/分はやはり信じがたい。
その速度で湧いてくる水はないとぼくは思う。
(仮説だが、頑張って1500字/10分あたり)
この数字は、
十分に湧いた水があった時の、
最初の5分から10分程度を記録したものではないか?
というのがぼくの予想だ。
(変換後の文字数という情報から、
タイピングゲームでの計測の線は薄い)
だとしたら、
タイピングゲームのような物凄い速度での打鍵は可能だ。
タイピングゲームは1分そこらだから出来る世界で、
あれで3時間打ってみろよって感じ。
(Xタイパーの世界は僕は無理なので、負け惜しみも入っている)
だからタイピングゲームはあくまで
「指の速度」の計測に過ぎず、
「書く速度」の計測じゃないとぼくは考えている。
水が溜まっているときの初速は速い。
僕のqwertyローマ字は遅くて、
これに耐えられなかった。
薙刀式の1500字/10分くらいが僕のダム解放の限界あたりなので、
これだけあれば、
配列としては十分だと考えている。
実際は、
汲む速度=湧く速度になったときが、
本当の書く速度ではないかと考える。
だいたい最初の方貯めた水が減ってきた、
書き始めてから30分後とかそんなイメージ。
それで1500なんて出なくて、
500から700あたりじゃないかなあと僕は見積もっている。
一時間も休まず書き続ければ、
600とかそのあたりじゃないかなあ。
それぐらいのスパンで考えることが、
今のところの僕の、「書くことを考える」という広さだ。
それに対して、
勝間氏の「分速200字」は、
書く文字数が少な過ぎじゃね?
と眉唾で見ている。
このへんは30分以上彼女が文章を作る様を見ないと、
答えがわからないところだけどね。
初速度の速さをもって、しかも最初の数分程度の計測で、
「分速○字」なんて、
「書くこと」だろうか?
それでできることは1000とか2000字くらいじゃないのかなあ。
いや、勝間氏が化け物の可能性はある。
なにせ西尾維新は2万字/日書くらしいからね。
一日8時間やるそうな。
いや、6時間が限界だなあ俺は。
快適なのは4時間くらいかな。
速さを競うことに、
だから僕はどうでもいいと最近思うようになっていて、
10分1000字書ければ、
それ以上の速度追求は、趣味じゃないかと思っている。
(まあタイパーは全員趣味って言うだろうけれど)
思考に手が追いつかないのは論外だ。
qwertyローマ字は僕には論外だった。
(530字/10分。これでも周りでは速い方だったさ)
カタナ式開発でようやく1000に乗った。
でも1万字打つのは打鍵数的につらくて、
カナ配列に転向した。
親指シフトを触ったけど、薬指小指がつらくてマスターを諦めた。
同手と逆手で、脳が混乱して嫌になった。
飛鳥配列はマスターしたが、薬指小指がつらくて辞めた。
鏡像で間違うのに苦しんだ。
下駄配列は快適だったが、思うところに思う字がなくて中断。
自作に踏み切ったのは、
これらを全部解消したかったから。
で、
10分1000字に至ると、
そもそもそんなに速く汲まなきゃいけないのは、
最初の30分くらいだよな、
と気づくわけなのだ。
このへんを、
数字こみで把握している人は、
ほとんどいないかも知れない。
サンプルが少なすぎる。
親指シフト系作家は、もう「楽」一辺倒だ。
(歳を取って速度に興味がなくなったのもあるかもね)
若い人の中には、
どれくらい速度があれば自分の水を汲めるのか、
測定していない人がいるだろう。
もし配列を検討することになったら、
まず湧き水の速度と、
汲む速度を測ってみることをオススメする。
(正確に測ると、
コンピュータを使わざるを得なくてループにはまるので、
汚い字でよいから最速の字で手書きし、
数千字程度書いてサンプルを取り、
それを清書する二度手間をやって、
ようやく数値化できることになる。
それを打つ速度も計測しておくと一石二鳥だったり)
これらを巡航速度といったりして、
最高速度と区別することがある。
以前のパソ活さんの指摘の、最高速度と平均速度の差というのは、
このような問題を孕んでいて、
「平均速度」というと、
10回タイピングゲームをやったときにもそう言うから、
本当に書くときのことを考えて、
僕は巡航速度という言葉を使うことにしている。
親指シフトは巡航速度はそこそこ速いが、
本当にいい道具なのだろうか?
意識高い系の人々の、
無批判なデファクトスタンダードにしか、
現在なっていないのではないか?
書く道具は人によって合いがあるから、
親指シフト以外にも配列はたくさんあって、
キーボードも沢山あって、
万年筆も沢山ある、
ということを知ってもいいと思う。
それらを知れたあとは、
次は「自分に合うのは何か」を探る段階で、
自分の何を測定しておけば判断できるかを、
いつかまとめたいなあと思っている。
(それよりもNiZを買えば、半分ぐらい問題は解決してしまうんだよな。
この軽さとポータビリティなら、
qwertyローマ字のままでも問題を感じなかったかもだ)
2018年07月15日
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