2018年07月28日

ストーリーを書くことは、自転車を漕ぐことに似ている

ストーリーを書くことは、
「頭の中で出来上がった世界を模写していく」
という静的なスケッチではない。

「この状態を動的に制御して事態を前に進めつつ、
定められた関門を潜りながらゴールを目指す」
と言う点で、
運動制御に似ている。

とくに自転車にたとえるとわかりやすいかと思う。


右足を漕いだら、大体似た力を左足にかけなければならない。

あるシーンの勢いと、
次のシーンの勢いが違いすぎると転ぶ。
加速するときはガッと加速したり、
減速するときにはブレーキがかかるものの、
ふつうに巡航しているときは、
一定のテンポで力がかかり、
前に進まないとこける。

今のストーリーの勢いを維持する力を、
次のシーンでも同等にかけ、
次のシーンでも同等にかけ、
次のシーンでも同等にかけ…
を繰り返さないと、
ストーリーは減速してしまう。

この意味で、ストーリーを前進させ続けることは、
右足で漕ぎ、左足で漕ぎ、右足で漕ぎ…
と力を同テンポでかけ続ける行為にとても似ている。

加速するときはテンポを上げ、
かける力も強くしなければならない。

減速するときは力を入れずにスルーし、
しばらく漕がなくてよい。

その感覚も自転車に似ている。

上り坂は自分にプレッシャーがキツイときだ。
難しい状況とか、
多人数の思惑を捌くとか、
伏線を張りつつ各人に感情移入させるとか、
勢いのあるシーンにさらに勢いをつけるとか、
そのようなことだ。

下り坂は楽に書けても加速するところで、
手癖で書けるとか、
定型部分であるとか、
パターンのときだろう。
(パクリもあるかもね)

上り坂では力をよりかけ続けないと勢いが下がる。
下り坂では爽快に構えているだけでよい。
そうこうしながら、
自転車そのもののスピード調整をするのも、
ストーリー書きそのものに似ている。



初めて自転車に乗れるようになるまでの、
試行錯誤をあなたは覚えているだろうか。

体重移動とか、タイミングとか、
左右にふらふらふれないだけの勢いが必要とか、
ブレーキと加速とか、上手に曲がるとか、
何度も転んで覚えたはずだ。

僕は今でもそのときの、
膝を擦りむいた傷のビジュアルを覚えていて、
小石が沢山傷の中に埋もれていた。
その後水で洗ったのかどうか覚えてないが、
「石が肉体に侵入することがある」ということをこのときに知った。
赤チンキを塗って、黄色くなった膝の記憶はある。

ストーリーもこれに似ている。

勢いがなくなるとふらふらになって転ぶ。
欠点や欠陥があると転ぶ。
自分では漕げているつもりでも、気づいたら転んでいる。
しかも転ぶ原因は自分で特定できない。
大人の後ろに乗っていたら楽チンだけど、
大人がどうやって漕いでるかを理解することはない。
どうやってまっすぐ走れるのかわからない。
曲がり方を間違えて転ぶ。
加速減速の感覚がつかめない。

何度も転んで、何度も学んで、
無意識に出来るようにならないと、
ずっと巡航することはできない。

意識したら逆に間違ったりする。
チェックポイントは100個くらいあるからだ。

それらを同時にオールグリーンのまま動的制御を行うには、
動きながら次へ動くことが、
無意識で楽々にできなければならず、
息をゼイゼイ言いながら訳の分からない状態で漕いでいてはならない。


漕ぎだすときは、
勢いを最初につける必要がある。
初心者のうちは足で蹴る補助が必要で、
上級者になると0スタートもできるようになる。

止まるときは、
周囲に何もないことを確認し、
ここが止まるべきところであることをわかった上で、
静かに止まり、安定に戻る。



ストーリーを書くことと、
自転車に乗ることはとても似ている。

時々アクロバットを入れないと受けないのではないかと不安になったり、
淡々とでもいいから確実に進まないといけないと思ったりする。

ストーリーを書くことは、
頭の中に出来上がった静的なイメージを、
端から順番に書いていくような、
大人しくて理知的なものではない。

もっとずっと動的で、動物的な運動で、
慣性の法則や物理を利用しながらも、
理性で制御しつつ方向性を定めるような、
「暴れ馬のコントロール」に近いものがある。
もっとも暴れ馬は自分自身で、
上手に暴れ続けるために、
相応の準備をしておかなければならない。




書くことはだから、セルフ自転車旅かも知れない。
posted by おおおかとしひこ at 10:30| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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