2018年08月14日

毎日、もっともらしい嘘をつく

執筆とはそういう行為だ。


実際の執筆は、一日数シーンしか進まない。
できれば一幕全部を書ければ、
4日で済むんだが、
そうもいかない。

頭の中で世界を構築し、
頭の中で人物を動かし、
頭の中で人物を喋り合わせる。

そのディテールを詳細に、
かつ実在性が高いようにつくるのは、
一日数シーンが限界だろう。

まあ色々決まっている後半ならば、
一気に書ける、ということもある。
三幕を一日で書き切る、
という経験は珍しくない。

しかしほとんどの場合、
コツコツ1シーン1シーン進めるしかない。


そしてそれらは、
本当らしい存在感が必要だ。
もっともらしい行動の理由が必要だ。
結果や経過ではなく、
そうするに至るのも当然だという理由が必要だ。

プロットでは「ふと寄り道をする」
なんて適当なことを書いてあったとしても、
実際の執筆では、
「コンビニに入る美女を見る」かも知れないし、
「電池が切れたので買い足すことを思い出す」かも知れないし、
「暑くて涼みたい」かもしれない。

それのどれが今一番自然でもっともらしく、
御都合主義でないかを判定し、
文字にしていく。
不自然だなと思ったら線で消し
(完全消去はお勧めではない。
手書きのいいところ)、
別のアイデアを書いていく。

それを毎日続けるのが執筆だ。


つまり、
毎日もっともらしい嘘をつき続ける。

毎日おかあさんに参考書の小遣いをせびるための、
バリエーション豊かな嘘をつく生活のようだ。

それと違うのは、
小遣いは自分のためにしかならないが、
ストーリーを書くことは、
みんなの楽しみになることである。

自分一人が得をする嘘をつくるのではなく、
みんなが楽しむ嘘。
大嘘で風呂敷を広げたあとは、
そういう小さな架空のリアルで嘘をついていく。


なぜ彼は彼女を追ったのか?

「夢で見たから」とプロットにあったけど、
執筆の時に、
「チラリと見えたブラが夢と同じだったから」
という不思議な理由を足してみた。

人の衝動の理由をうまく描写できていると思った。


そういう小さな本当っぽい嘘を、
毎日つく。

それが私たちの仕事の日々である。
posted by おおおかとしひこ at 12:35| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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