2018年08月18日

あなたは何が書きたいですか?

時々こう聞く人がいる。
プロデューサーや編集の人だろう。

あなたはまじめに考えて、
「自分の作家性とは何か、
独自性や長所は何か」などを突き詰めて悩む必要はない。


仮に、
「女子高生を書くのが大得意です!」
と答えたとしよう。
合格だ。

彼らは売れるものを欲しがっており、
それは理解不可能で微妙な何かよりも、
ごくな分かりやすい単語で分類したい。

「女子高生のゆれ動く気持ちが得意」などと、
言葉を難しくしないことだ。
だったら「エモいのが得意です!」くらいにカテゴリーを落とそう。

揺れ動こうがパンチラだろうが、
彼らにとっては「女子高生」と分類できればそれで良い。

せいぜい彼らの頭の中には、
「アクション」「エロ」「グロ」
程度の3ジャンルぐらいしかなくて、
その中のどこの箱に入るかを見ているだけなのである。


そしてさらに彼らが聞きたいことは、
「好きなことで執念を燃やせるか」である。

つまりそれは、
「ギャラ以上に働いてくれるのは何か」
を聞いているわけだ。

彼らは安く上げたいのだ。
しかし安いギャラではろくなものがないのも知っている。

だから、
「たとえ安いギャラだとしても、
得意なこと、好きなことを嬉々としてやってくれて、
ギャラ以上の働きを好きでカバーできる人」
を探しているのだ。

つまり、
彼らの頭の中の3ジャンルのどこに入るかを分類できて、
かつ買い叩ける人を、
彼らは探しているだけだ。



作家性?
そんなのどうでもいい。
あればラッキー、なくても女子高生というだけで売れる。
しかも安く叩けそうだ。

作家性なんて難しいものは私はわからないので、
あなたに任せます。

それが現在の正直な、
「あなたは何が書きたいですか?」
と聞く人の正体だ。



あなたは真面目に作家性のことを考える。
自分は他の人に比べて何が出来るのか、
歴史的に見て何がオリジナルなのか。

生まれ育った地方や文化を活かしたり、
グローバリズムとの距離感を見たり、
偉大なる作家を分類して、
空いている席を必死で探しているだろう。

そのことを言葉にすると、
何百字、何千字にもなるから、
とても一言で言い表すことは出来ない。

だから精々過去に書いた、
断片的なものを紹介するに留めて、
相手に首を傾げられる。


そもそも過去に書いたものはすでに書いたもので、
次に書くものが書きたいもので、
それが見つかっていれば書いているはずで、
書いている時にそんな話をすることはあまりなくて、
見つかっていない暇なときの方が確率が高くて、
やっぱり書きたいものについては曖昧になる。

しかも、
「自分はこういうことが書きたかったのか」
と、書いているうちに発見することの方が多い。

Aを書こうと思って書き始めたら、
Bがその奥底にあるのに気づき、
これはBという話だったのだな、
となることはたくさん経験している。

Aだと事前に言うことは無駄なハッタリで、
Bだと事前に知ることは不可能だ。


だから真面目に考えれば考えるほど、
「書きたいものは特になくて、
次に書きながら発見するでしょう。
ちなみに過去に書いたものにはこういうものがあり、
こういうことが得意な人だと思われている節があります」
と答えることになり、
「女子高生が書きたいです!」
というバカに、
仕事を取られるだろう。

そしてその人は、
女子高生を書いてそこそこ売れて、
しかし女子高生を書いてるだけで楽しくなってしまい、
ギャラを安くされてこき使われて潰されて、
次の才能が出てきたら捨てられて、
もう作家性のかけらもない、
ゴミ箱になるだろう。

そして「スター不在」と彼らは言い、
新しく面接に来た人に、
「あなたは何が書きたいですか?」
と聞くだけだ。



僕が忠告したいのは、
そんなバカと付き合うな、でもないし、
うまく距離を取れ、でもない。

それはそれでやっていけ、
しかしそれはわかった上で、
別の至高を追求する場を持て、
ということだろうか。


素晴らしいプロデューサーや編集者などもういない。
日本の会社システムは沈みかかっていて、
育てる余裕などなくて、
死ぬ前に儲けられたらいいや、
というやり逃げ人生ばかりである。

彼らをある程度儲けさせて、
それだけに専念しすぎないことだ。
あなたはやり逃げの協力者になってはいけない。
次の時代を作る文化を創造するべき人だ。

「あなたは何が書きたいですか?」
と聞く人に、
全てを開示する必要はない。

その人の欲しがっているものと、
あなたがすり減らされてもいい部分の、
妥協点を見つけて答えればいい。



逆に、
「あなたは何が欲しいですか?」
と僕は最近聞いている。
posted by おおおかとしひこ at 12:50| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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