2018年08月18日

【波野磯兵衛さんへの回答箱】タイトルと演出

>サザエさんの脚本……というかおそらく台本の中に「タイトル」という柱だけ書かれているのを見かけました。ト書きも台詞もありません。
しかし実際のアニメのタイトルシーンでは、いくつかの一枚絵があり、だいたいサザエの声で「父さん〜〜の○○」みたいな感じでタイトルが読み上げられます。このような脚本家の指定しない部分は演出の仕事なのでしょうが、それにしても指定が「タイトル」と書いてあるのみなのは、脚本の世界では実際よくあることなのでしょうか。それとも台本だからもう余計なことは省いてあるだけなのか、よく分からないのです。

脚本についての教科書は、
映画を前提にしてることが多いです。

映画はワンオフ、テレビシリーズはシリーズであることをまず前提に考えてください。


もし映画ならば、

○タイトル「男たちの陰謀」

などのようにあれば、監督がどう演出するかの腕の見せ所です。

逆巻き渦巻く嵐の渦潮を撮りタイトルを乗せるのか、
国会議事堂を写すのか、
タイトルアニメーションだけで表現するのか、
あるいは最近の流行りのようにラストでドーンと出すのか、
それは、
「この物語をどうワンショットで象徴するのか」
の表現であります。


で、
サザエさんの「第1話」を考えましょう。

まだ定番も何も決まっていない時です。
それでも台本には、

○タイトル「第1話 サザエでこざいま〜す!」

などとあったことでしょう。
(タイトル名は適当です)

これをチーフ演出家が受け取った時に、
今後何話も続くすべてのフォーマットを作った方がいい、
と考えるはずです。

その時に、ファミリーとして親しみやすいような、
扉絵やジングル(短い音楽)や読み上げを追加したのでしょう。


テレビシリーズは、
複数の脚本家、複数の監督が参加します。
単純に放送スケジュールが一人の制作期間より速いからです。
しかしバラバラにやっていてはバラバラになるので、
チーフ脚本家、チーフ監督を決め、
彼らが第1話(ことによっては第2話、第3話も)を作り、
他の人は、
「決まりごとはこれらに倣う」
というルールが暗黙にあります。
それによって品質を揃え、
「同じものを見ている」安心感をつくるためです。

もし担当話で特別にレギュラーでないことをしたいとき、
たとえば「この回はタイトルに実写映像を入れたいんだよね」
と演出したいときは、
担当監督がチーフ監督と相談して、
その回の特別性を優先するべきか、
レギュラー性を優先するべきか、
決めることになるでしょう。

サザエさんほどフォーマットを繰り返すことを是とするものはないので、
まあ決まりごとはそのままつくる、
ということになります。


チーフ監督が決めるのは、
役者の芝居のトーン(キャラクター)、
画調、音楽、効果音や、
書体のデザイン、オープニング、エンディング、予告、
提供バック、などの要素があり、
シリーズは一回決めたら変えないですね。


件の台本が第何話のものかわかりませんが、
第1話でないでしょうから、
「右に同じ」は、
スタッフ全員が了解しているため、

○タイトル

でスルーできる部分だと思います。


台本はこれらを知っているスタッフのためのもので、
知らない人が読むために書いてあるのではないことをご理解ください。



なお、これらは全て実写の話を想定しています。
アニメはアニメのスタッフ構成があって、
監督と演出を役職として分けるケースがあります。
僕はその違いを把握してません。
監督と演出は同じ人がやるとして、上を書いています。


結論でいうと、
「脚本家が気にするところではない」
といったところでしょうか。

そもそも演出家の腕の見せ所に出しゃばってもしょうがないので、
いかようにでも演出できるように、
○タイトル
と書くのが粋というものです。
posted by おおおかとしひこ at 13:43| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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