脚本論的に優秀な点を書いておくと、
「色々こまけーことはいいんだよ!
カウントダウンが始まってから、
発信機止めてコードを切りゃいいんだ!」
と、
全てを「たったひとつ」に絞りきるところが良い。
アクション映画を見るときに一番楽しいのは、
周りの状況を見て、危険を把握してから、
目的に向かって一直線に突っ走るときだ。
奴を捉えるために「一直線に走る」シーンなんか、
最高だった。
この時も、
「こまけーことはいいんだよ!
あいつを捕らえろ!」
という一つに絞って、
すげえなと思いながらスクリーンに身を任せていた。
この没入感。
3DとかVRとかARとか4DXとか、
映像を拡張するのはバカの所業だと常に思っている。
ハード的に強制的に没入したって没入感はない。
感情移入と目的が一つに絞られて、
ああこの映画を楽しんでいいんだ、
と思えた時、
人はそこに没入する。
2Dだろうが画質が荒かろうがCGがなかろうが。
ガワじゃなくて内容なんですよ。
運河を渡る橋の屋根の上をトムが走りまくる。
こんな簡単な絵に、
すげえなこれ!
と没入しまくるトリックそのものが、
映画だ。
この没入を得るために、
目的と焦点をたった一つに絞るのが、
今回はとても上手かった。
この単純さが強い。
「ゴーストプロトコル」だと、
「綿密な計画を事前に立てたが、
現場では必ずトラブルが起こり、
それをアドリブで回避していく」
という新しい面白さが良かった。
しかしこれは、
今回の「フォールアウト」に比べれば複雑だった。
複雑な分、頭を使って楽しみ、
それが新しくて面白かったのだが、
今回は違う。
単純な、体の、フィジカルな面白さに集中したのが面白い。
僕は「ゴーストプロトコル」の中盤、
ドバイタワーのアクションが最高だと思っているが、
今回のクライマックスの複数の場所でのカットバックは、
それに匹敵するお腹いっぱい感があって、
大変満足した。
(「ゴーストプロトコル」は、ドバイタワーが素晴らしすぎて、
クライマックスの立体駐車場が霞むんだよね)
ミッションインポッシブルは、
アクション映画なんだなあ、
ということを強く意識する。
しかも動機は「世界を救うため」。
愛する妻は医者として人を救っている。
しかもあなたのおかげでこの生活ができたと言ってくれる。
自分にできることで世界を救うこと。
その為には走るしかない。
最高ではないか。
この単純さこそ、
ハリウッド映画の最も素晴らしいところだ。
日本人の映画はこんなに、
「強いひとつ」に集約しない。
半径2メートルのことでこせこせやっているだけだ。
こんなにダイナミックでスケールの大きいことが出来ない。
私たちの感じるダイナミックさとは、
「空間的スケール/事態の単純さ」
の公式で出るのではないか。
その分母を1にする努力をしているのが、
今回の面白さだと考える。
中盤くらいまでは、
誰が誰を陥れようとして嘘をついているのか?
というスパイ映画らしい面白さで引っ張った。
正直脚本的には穴があるような感があったが、
「そんなのもういい!
こっから一つに絞った!」
からの面白さが大変良かった。
こんな風に大胆に焦点を一つに絞るのが、
なんといっても素晴らしい。
イーサン=ラークという説は、
実はまだ生きているような気もしなくはないが、
そこはそれ。今回の範疇ではないと。
IMFとCIAの対立という、
敵関係なしの内部抗争に絞ったのも上手かったね。
逆に敵(今回プルトニウム奪った人)が見えてなくて、
そこが分かりにくいが、
宿敵を出したことで、
「こまけーことはいいんだよ!
この宿敵だけ見とけ!」
とパリの兄妹から焦点を一つにしたのが上手い。
ホワイトウィドゥさんの活躍をもう少し見たかったなあ。
なんでキスしたんだっけ。
007なら寝ちゃうところだけどね。
色々な怪しいところはある、
しかしもうこの一点に集中して見さえすれば、
乗っていける。
その強引さは、映画にしか許されない方法論かもしれない。
小説や漫画なら、
読むのをやめて戻って、
あれのあれのあれは伏線解消されてないぞ、
なんてアラを探すものだけど、
映画や演劇はノンストップである。
もう動き出したらそれに注目してみるしかない。
その引き付けのために、
細かい焦点は捨てる、一つにしてショウを楽しませる、
と割り切ったところが、
今回の最も強くて面白い所だった。
ネタバレをせずに書くと、
地下道みたいなところでの大逆転から、
一直線に走るところ。
クライマックス、村に着いてからの全部。
この二つが特に面白かった。
アクションは脚本に詳細に書くわけではない。
撮影現場で半ば作っていくものだからだ。
脚本が用意するのは焦点、
つまり、
何故それをするのか、目的は何か、
それに失敗するとどうなるのか、
それに成功するとどうなるのか、
を提供することである。
その整理が抜群に上手かったのが、
今回の白眉だ。
そうそう、パリのチェイスも良かったよね。
特に女警官の一連の場面が、
今回の映画で一番いいシーンだったかもしれない。
主人公の内面、動機そのものに踏み込む、
実はシリーズを通した名場面かもしれない。
映画は時間を伴う芸術である。
ノリ(グルーヴ)がかなり大事だ。
停滞がなく流れている感じ、
そのスピード感こそ重要だ。
その点でこの映画は満点を叩き出す。
欠点は脚本が多少穴だらけ
(大気圏から降下するほどの潜入ミッションに何の意味が?
ラーク替え玉の杜撰さ、あの中国人誰?
誰が誰をどうしようとしてるのか、
分かりにくすぎるし回収されてないやつもあるかも)
だけど、
今回は欠点より長所が優った。
古典的な、ドラマ班アクション班の別班方式ですか。
香港映画みたいだなあ。
逆にこれによって、
別班に渡すのは焦点一つ、になって絞り込めている、
ということになるわけですね。
これはアクションに限らず、
少し長いシークエンスドラマがあとに控えている時、
焦点を一つに絞り込んだ上で渡す、
というテクニックにも応用できるわけです。
代表的なのは第二ターニングポイントですが、
他にもこのような構造を持つ部分は、
強くなる可能性があります。