2018年11月14日

ストーリーの意味

ストーリーってなんだ。
いつもこれを考えている。
なにかが起こり、時系列があれば、
ストーリーになるのではない。
これをうっかりストーリーと呼んでしまう人はいるが、
それは「あったことの羅列」であり、
ストーリーではない。

ではストーリーとはなんだろうか。


僕は、
「その時系列が意味を成すこと」がストーリーの要件ではないかと思っている。

意味のない時系列の出来事は、
それが因果関係があろうがなかろうが、
それはストーリーではない、と考える。

「ボヘミアンラプソディー」について、
色々なことを考えた。
フレディの人生にどういう意味があったのか、
クイーンにどういう意味があったのか、
ボヘミアンラプソディーは結局どういうことなのかがなければ、
僕はストーリー映画として認めない。

ボヘミアンラプソディーは、
映画を見る限り、
「実験精神にあふれた曲で、
最初はまったく酷評されたが、
フレディの死後チャート一位を獲得した」
という意味しかない。

これは事実でしかなく、意味としては弱い。
それはフレディのこういう性格の表現だったのだ、
という意味もなければ、
これは我々にとってこういう意味のある曲なのだ、
という意味も、
映画からは読み取れなかった。

クライマックスが絵的に音響的にパーフェクトな、
ライブエイドのシーンであることは素晴らしいが、
「それがどういう意味になるのか」
が映画のストーリーというものである。

映画から読み取る限りは、
「オレはまだ死にたくない」というメッセージと、
「ママ愛してる」のふたつだけだ。
ここがミュージカルであれば、
この映画のテーマである歌詞をうたいこんだことだろう。
この映画がミュージカルになりえていないのは、
実在のライブをクライマックスにしてしまったことが原因だ。


私たちは、ストーリーから、
意味を読み取りたい生き物である。
ただの時系列で反応する獣ではないのだ。

「それが何の意味があるのか」を真摯に考え、
それを表現まで昇華しきったエンターテイメントを、
ストーリー芸術と呼ぶのではないかと、
僕は考えている。


そのための使いやすい道具が、
主人公の渇きや欠点(内的問題)であり、
主人公を動かす事件(外的問題)であり、
その昇華であるところの、クライマックスである、
と考えられる。

「ボヘミアンラプソディー」では、
主人公フレディに、
パキスタン人であること、
ゲイであること、
孤独であること、
などの内的問題にスポットがあたり、
我々はそれに感情移入することになる。

外的問題は、それがバンドとして成功していく物語において、
いかんなく発揮される。
(独立問題や再結成のプロットはとても良かった。
悪役がちゃんといたのも機能していた。
彼との決別がちゃんとドラマとなっていたのは見事だ)

にもかかわらず、
それを乗り越えた先は、
内的問題も外的問題も、昇華しえたものになれなかった。

つまり映画としての理想は、
「フレディの孤独は、バンドの成功によって癒された」
という結論にならなければないはずで、
残念ながらそうなっていないのが、
映画の意味として弱い。


映画はドキュメンタリーではないから、
そこに映画的な意味が必要で、
それは大抵タイトルに関係している。
だから「ボヘミアンラプソディーが世界にどういう意味があったのか」が、
映画として確定しなければならないと、
僕は思う。
だから、ボヘミアンラプソディーという映画は、
ストーリーとしては落第である。

ミュージックショウとしてはすごく良いので、
音響のいい所で、見たほうがよい。



ただ、時間経過とともに、
人々の行動や出来事を記録しても、
それは歴史や報告であるにすぎず、
ストーリーではないことに注意されたい。

あなたの日記はストーリーではない。
そのことが意味をなすとき、
たとえ嘘でも本当でも関係なく、
それはストーリーになるだろう。

僕はドキュメンタリーには興味がない。
それはほんとうにあったことで、
ああそうか、としか思わない。
ストーリーこそが、
人の心を動かす何かだと信じている。
それは、
ストーリーには意味があるからだと思う。

僕は、オオカミの遠吠えにすら、
「孤独同士の通信」や「孤高の誇りの宣言」
などの意味を読み取るから、
それだけで涙したりする。
それはストーリーになっているからだ。

長さや規模はストーリーには関係ない。
その切り取られた時系列(ガワ)と、
その意味(中身)のペアの妙が、
ストーリーだと思う。
posted by おおおかとしひこ at 13:59| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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