会議や交渉でもそうだけれど、
何か揉め事が起こった時には、
その落とし所を探しながら会議を続ける、
ということがある。
ストーリーも同じで、
落とし所を考えながら書いている
(つまり落とし所が見つからないまま進めている)、
ということはよくある。
落とし所が見つかるのは、
大きくいうと2通りだ。
これまでにない全く新しい考え方に到達した時か、
最初の初期設定に引っ掛けられて落ちがついた時だ。
つまり、
前振りに対して、
それに答えるか、
前振らなかったこと、かつそれらの前振りを全部超えたところに、
落とし所が存在する。
最初からこれが計画(プロット)に存在していたときは、
きっちり落とせる。
しかしそれ以上の落ちを思いついた時とか、
書いてる途中で落ちを変更した時とかが、
ややこしい。
理想は、その落ちに対して、
最適な全体になっているべきだからだ。
つまり、
落ちを確定したら、
無駄な前振りはカットするべきだし、
むしろ逆算してミスリードを仕込むべきだし、
落ちに最適な前振りをするべきである。
これは一発書きではなかなか難しいので、
リライトで再構築する必要がある。
むしろリライトとは、
落とし所を見極め、そこに向かうための道筋を整理し、
かつ面白くするためにあるわけだ。
「あなたの表現したいことに合わせる」為にあるのではない。
あなたの表現したいことが、
その落とし所や前振りに対して邪魔ならば、
それは無駄であるからカットするべきだ。
そのハサミのことをリライトとも呼ぶ。
「ボヘミアンラプソディー」の落とし所が、
未だに不明だ。
「フレディは天才だった」という一番広い結論だとしたら、
それは私たちには理解できないから、
そもそも感情移入の序盤はなくても良いはずだ。
「フレディはエイズやゲイのシンボルになった」ならば、
そのことをもっと突っ込むべきだし、
ゲイへの迫害などは前振りをするべきだ。
「クイーンの絆は素晴らしい」であるならば、
それこそフレディの死後ボーカルトラックと演奏をリミックスした、
クイーン版のI was born to love youがクライマックスになるべきだ。
クライマックスのライブエイドでのトリは、
We are the championだが、
それが結論だとしたらエイズ基金のくだりは不要だし、
だとしたらタイトルはボヘミアンラプソディーであるべきではなく、
We are the championであるべきだ。
つまり、落とし所に対して前振りがどれも機能していないのが、
「ボヘミアンラプソディー」が映画として不十分な点である。
(音楽ショーとしては満点の出来だ。
伝記映画だからOKと諦めれば何の問題もないが、
僕は劇映画のポテンシャルがせっかくあったのに、
余りにも勿体無いと考えている)
落とし所を探しながら書くのは、
とてもよくあることだ。
長編連載では普通にあることだし、
一ヶ月も書いてりゃリアルにそうなってくる。
それ自体は問題ではない。
問題は、
落ちと前振りの関係を、
最終的に整理しないことにある。
長期連載ならもはやリライト出来ないので仕方ないが、
映画脚本はそうではない。
落とし所が判明したら、
それに最適な前振りを再構築するべきである。
その最大の敵は、
「前の原稿が気に入っていた」だ。
あなただけではない。
プロデューサーが、前のアレが良かったなんて言うこともあり、
その言うことに気を使う限り、
撞着の引力から抜けられない。
その撞着を捨てられた時、
ようやくストーリーはストーリーとしての形を取り戻す。
再び「ボヘミアンラプソディー」に戻るが、
冒頭の空港バイトやバンドへの売り込み、
コートの彼女との出会いなんかは、
鬱屈を抱える若者の劇映画として、
よく出来ていた。
問題はここのパートが落とし所となんの関係もなかったことだ。
落とし所が決まったら、
ここらへんをバッサリ切って、
別の始め方、別の展開を考えるべきだった。
たとえばゲイがテーマになるなら、
バンドで飛び入りデビューした彗星ボーカルは、
実はゲイに悩んでいた、なんて始まりでよいはずだ。
つまり、
構成の敵は撞着なのだ。
撞着はとくにディテールに起こる。
だから構成を考えるときはディテールを考えるべきではない。
こういうグニャグニャを経験すると、
ああ、最初から細かいところを考えずに、
大まかな構成を決定してから、
細かい部分を詰めていくのがよくて、
その細かい部分もすべて落とし所へどう向かうかで決めるべきなのだな、
ということが理解できてくるというものだ。
で、教科書にあるような、
「最初にテーマや結論を決めて、
それ合わせで構成を作り、
それ合わせでディテールを」
という、理想のやり方を理解できることになる。
落とし所はどこか?
それを最初から分かってやってるのが、
もっともエンターテイメントになる。
2018年11月21日
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