広告の問題は、
その作品がどう受け止められるか、
ということと直接関係する。
江戸川乱歩賞作品「QJKJQ」の広告が、
是だったかどうかを検証して議論したい。
結論から言うと、予告編詐欺であり、
本編の面白さを誤解させる歪曲であると抗議したい。
完全ネタバレにつき。
この作品は何度かのどんでん返しがある。
そのネタバレを隠すのは必要だろう。
しかし、ヒキを、冒頭部分だけに限定してよかったのだろうか、
ということが、問題にしたい部分である。
この作品は、
初期設定を「殺人一家が今度は何者かに殺される」
という事件から始まり、
それが妄想だったというどんでん返しを一回して、
さらにそれは殺人アカデミーの監視対象であったのだ、
というもう一度のどんでん返しをする。
さらには「殺人遺伝子などなく、ごく普通の人が、
もっとも恐ろしい殺人を犯す」
というのが、最後の大きなどんでん返し、
という構造をもっている。
(さらに父親が用意した、
別の人生を送る為の切符を断り、
元のアリアとしての人生を生きる、
という決断のどんでん返しで終わる)
つまり、「どんどん枠組みが変わっていく」
ということが本質的面白さなのだ。
1 殺人一家の殺人事件
2 つらい過去と妄想
3 殺人アカデミーと決着
という少なくとも3色の構造を持っていて、
それが章ナンバーに対応しているといえるだろう。
ところが。
この作品の宣伝は、
「一家全員殺人鬼!?」
という1のつかみしか宣伝していない。
(あるいは、多くとも、
そのうち兄が何者かに殺され、母が行方不明に、
という事件の始まりまでだ)
これで期待した人は、
「一家全員キラーという、
その異常殺人ストーリー」を本筋だと期待してしまう。
それはミスリードである。
そう思わせておいて、
まったく違う方向に進むことがこの作品の面白さなのだから、
その線での面白さのみを期待させることは間違いだと思う。
つまり予告編詐欺だ。
この宣伝から期待されるストーリーは、
「殺人一家の猟奇が、それ以上の何者かの猟奇にさらされ、
その完全犯罪をそれぞれの得意技や、
人間の裏側を知り尽くした何かで、
敵を暴き、その完全犯罪の真犯人と対決する」
というものだと思う。
そこまでヒーローものじみていなくても、
最初の枠組みが、
「殺人一家」にフォーカスしつづけるものだという予測は成り立つ。
しかし、本編はまったくそうではない。
三色団子の一色目でしかない。
殺人一家の猟奇性のある話だと思わせておいて、
どんでん返しをするからだ。
枠組みがどんどん変わっていくのがこの作品の本質で、
ひとつひとつのどんでんは、さらなるどんでんの前振りでしかないわけだ。
これは、宣伝の仕方を間違っていると僕はかんがえる。
少なくとも、殺人一家はガワでしかない、
ということをにおわせたほうがいいと思う。
猟奇性快楽殺人をする一家がいた。
しかしある日白昼堂々兄が惨殺され、
母も行方不明になる。
誰がやったのか? どうやってか?
事件が深入りするほどに、謎は増えてゆく。
その底まで来たとき、
アリアは父の愛を知る。
なんて風にしておいたほうが、
的確につかみと本質を引けると思うのだが。
こういうベースを作っておいてから、
「平成のドグラマグラ」とか、
「衝撃を受けた」とかのキャッチを躍らせればよいと思うのだ。
広告で期待したことと、
違うことがあったら、
それは広告詐欺である。
JAROに電話したれや。
「QJKJQ」の広告を担当した者は、
本質を曲げてまでキャッチするだけでよかったのか。
それはブランドが嘘になっていくと思うよ。
たしかに広告で期待できることを、
最終満足に置いておいたほうが良いと思うんだよね。
映画「いけちゃんとぼく」で、
酷い予告をやられた僕と、同じことを感じる。
客が買えばおしまいではない。
そもそも手に取られないことを恐れすぎて、
ほんとうの読者をうしなっている、
つまりブランドそのものが失墜しているような気がする。
買ったあとは、知らん、
という無責任さを、
「QJKJQ」に感じたのはぼくだけではあるまい。
(もっとも、広告と内容の関係をずっと考えているからこそ、
こういうことに気づくのかもしれないが)
広告の世界に、
優良誤認という言葉がある。
そう断言していないが、
勝手に見た人がいい方向にイメージしてくれるといいなあ、
なんて思わせる表現である。
例としては、
ヘルスなのに、「大人のお付き合い」と、
本番をにおわせる文言が入っているやつだ。
ヘルスだから本番はないのだが、
勝手にそれを期待されて、
とりあえず入店してしまえば、
いや本番アリとは明記してないですよ、
と開き直れる、グレーの方法論である。
そういう意味で、
「QJKJQ」の広告は、
殺人一家の大活躍ストーリーという、
優良誤認を起こすような、
こすいテクニックを感じる。
僕は大嫌いな方法論だ。
だって、
騙されたってあとあと思って、
ブランド価値は下がるからだ。
損して得取るのが商売だ。
得取ろうとして損するやり方だと思うよ。
短期的に勝利したって、
最終的に乱歩賞の権威が落ちて、
こんな賞なくてもいいじゃん、ってなるより、
ちゃんと宣伝したほうが、骨太い感想をちゃんと抱いてくれると思うがね。
ということで、僕は「QJKJQ」
の宣伝担当者に、
大いなる抗議をする。
本番アリの優良誤認狙ってんじゃねえよ。
最初からヘルスの良さをちゃんと宣伝しろ。
きちんと落とし前を付けようとしているヘルス嬢に、
失礼だ。
2019年01月06日
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