2019年01月15日

貴種流離譚

昔から、物語の一つのパターンである。
なぜ人気なのか、分析してみよう。


おおむね、以下のようなプロットを辿る。

1 庶民の中にいるヒーロー。
  みんなから好かれ、高い力を持つ。
2 ある日事件が起こり、冒険の旅に出ることになる。
3 旅の途中、自分の出自を知ることになる。
  主人公は王族の出身で、この旅は運命の旅であったと。
4 運命を自覚した主人公は、
  王として悪を滅ぼし、王座に返り咲く。
  しかし、庶民と過ごした過去は忘れない、
  理想の王となった。

これらには、色々な要素が含まれている。

・王は貴族の中で閉じこもっているから、庶民を見ていないという不満。
(それゆえ、理想の王は庶民と交わってほしい)
・庶民の中からヒーローが出てほしい。
・しかし平凡な力しか持ち合わせていないと、
 冒険を成し得ないから、王族のような特別な力が説得力を増す。
・自分の中に「ほんとうの自分」が眠っていて、
 それさえ目覚めれば理想の社会に行けるという、
 安易な妄想。
・自分の運命を知りたいという願望。
 それさえわかれば物語の主人公のようになれるのに、という願望。
・しかし、目覚めていない自分を顧みるのが嫌なので、
 自分と縁遠い王族ということにして、
 庶民である自分は目覚めないといういいわけ。

これらのものがないまぜになっているのが、
貴種流離譚の特徴だと思う。

観客の中にある不満、
社会や自分そのものの変身願望を満たしつつ、
「自分にはできないこと」を妄想するのに、
ちょうどよい塩梅が、
貴種流離譚ではないかと思われる。

1の、庶民の中での能力が高い者、
3の、覚醒、
4の、冒険の成功、
どれも大事な要素であるだろう。


「一休さん」は貴種流離譚だろうか。
我々は、天皇の落とし子だと知っているが、
一休さん自体はそうではない。
設定上は貴種流離譚だが、
物語の構造はそうではない。

もし、一休さんが自分の血の正体を知り、
運命を知り、
次期天皇として時の政府に反旗を翻し、
見事に勝利すれば、貴種流離譚であるが、
それは一休さんでは描かれていない。
だから、設定上の貴種でしかない。

多くの少年漫画では、
貴種流離譚が採用される。
主人公は最強にならなければいけないので、
その理由が庶民であると不自然だからだ。

ドラゴンボールの悟空はサイヤ人だったし、
幽遊白書の幽助は雷禅の息子だったし、
風魔の小次郎の小次郎は風林火山の継承者だった。

しかも、最初から正体が明らかになっているわけではなく、
途中に3の正体ばらしがあった。
最初は庶民と同じ立場であった、
という1が存在した。

1が存在するのは、庶民である我々が見るからで、
共感を得やすくするためである。
我々と同じ庶民であるあの人が……!
というのが貴種流離譚のハイライトになるからである。


次に、貴種流離譚と二世ものが相性が悪い話をしよう。

貴種流離譚が威力を発揮するのは、
1と3のペアの部分である。
「庶民だと思ってたが、実は王族」
というところが肝だ。

しかし二世ものは、ここの部分が欠けている。
最初から最強の王族として育てられている。
だから面白くならないことが多い。

設定上は貴種なのだが、庶民に交わる部分がない。
流離の部分が存在しないのだ。

だから、単純に「スペックだけが高い人」となって、
人間的魅力に欠ける主人公になりがちだ。

キン肉マン二世の万太郎。
クリードのアドニス。
あるいは、長嶋の息子。

彼らは3がなく、最初から二世を生きなければならず、
したがて、1や3のドラマを持たない。

彼らの物語は、
たいてい「荒れていたがちゃんとする」
しかない。1や3がないからだ。
物語が低いところから高いところへ上るものである以上、
最後は二世の力を発揮するから、
それより低いスタートとして、
たいてい二世の重責を捨てて、放蕩している所から始まる。

つまり、同じ物語しか存在しないので、
貴種流離譚のような、
「誰でも感情移入出来て、かつ王族という目覚めの疑似体験をする」
というような大イベントがなく、結果、
面白いストーリーにならない。

一休さんの場合は、
出自に全く関係ない、
「とんちが利く」ということを中心に描いているので、
二世ものの陥穽にはまることなく、
自由闊達なコメディーになっているだけのことである。


二世ものと貴種流離譚は、
設定はおなじなのに、
物語の構造が全く違う例で、
一方は成功し、
一方は成功した試しがない、
という極端な例だと思う。

物語は設定ではなく、
ストーリー(事件と解決の仕方)である。
そのことをこれでも学ぶことが出来るだろう。
posted by おおおかとしひこ at 20:26| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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