障害が多い方が燃える、という。
今回は僕の実話から。
僕は映画音楽を中心にCDを集めていた。
仕事でも使うし(イメージ曲のサンプルに利用)、
単純に映画が好きだからだ。
CDを買わなくなって久しい。
今では検索すればたいていYouTubeに転がってるし、
検索も楽だ。
その場でデータも買える。
CDの頃は、
「あの映画のあのサントラのこれの感じ」
というような覚え方をしていた。
だから、「この映画はこのような音楽構成になっている」
ということを理解しないと記憶できなかった。
つまり、点でなく線で、音楽を記憶・理解・分類していた。
ネット時代は、検索は便利だけれど、
点でしかリーチ出来ず、
線で理解することを失っている。
ところで、
僕がとても好きな曲がある。
「アメリ」という映画を見て衝撃をうけ、
そのサントラを買った。
本編未使用のピアノ曲があって、
その哀しみのような、静かに時を見つめるような距離感がとても好きだった。
CDウォークマンで聴いてたし、
iPad miniにも入っていた。
少し時は進んで、
「グッバイレーニン」という映画を見たときに、
その曲がかかる。
サントラを買うも、その曲は入っていない。
おなじ音楽監督、ヤン・ティルセンという人が担当していることを、
映画雑誌から入手。
当時ネットで調べるほどネットは発達していない。
情報源は専門誌しかなかったね。
メジャーな情報はぴあから、
マニアックな情報は映画秘宝、キネ旬、クレア映画特集
あたりからだった。
それらのバックナンバーを探って、
ヤン・ティルセンに関する情報を探す。
検索ワードなど使えないから、
ページをめくって目で探すしかない。
CDショップに行って、
ヤン・ティルセンの他の音楽も探してみる。
他にサントラは担当してないだろうか。
ピアノ曲だから、クラシックをやってたりしないだろうか。
足で情報を探しに行った。
総合的に分かったことは、
ピアノ曲は自宅録音のため、
スタッフを極力入れずにやる変人ぶりと、
日本で(当時)他の曲は入手できないということだ。
僕の好きなその曲のタイトルは、
「Comptine d`un autre ete」。
こうやって、足で探したものだからこそ、
この曲が好きだし、
今でも作品のイメージ曲にすることがある。
「いけちゃんとぼく」の、
雨の殴り合いのシーンでは、この曲を編集中に当てていた。
いまなら、
これらの障害はないだろう。
「アメリ ピアノ サントラ」あたりでググれば簡単に曲名がわかる。
それが分かればその言葉で
(フランス語の意味がわからなくても)検索すれば、
購入まで2秒だろう。
障害はない。
しかし、「その曲と紡いだストーリー」があるだろうか?
本編未使用の謎のピアノ曲。
それが別の好きな映画で使われていた発見。
情報の出てこない謎のピアニスト。
それらの点を線で結び、
自分の大切なところにしまっておくこと。
そして、その障害を越えようとする、
動機(=好きであること)の強さそのもの。
障害を超えることだけがストーリーではない。
「そうまでしてそれをやる」ほどの、
動機の強さこそが肝心だ。
僕は、障害を超えるほどにこの曲が好きだ。
障害を超えたからこその愛着もある。
だから自分の血肉になるまでこの曲を聞いたし、
その周辺の知識も忘れることがない。
つまりこの曲は僕の一部だ。
今、検索して2秒でこの曲をゲットしたとしても、
そんなに好きになることもないだろう。
そもそもこれを思い出したのは、
弊社のオープンスペースでこの曲が流れて、
「映画サントラ選」みたいなのに登録してたからだ。
もし知らないときにこれがかかって、
いい曲だと思っても、
その画面を写メって、検索して、ゲットして、
何回か聞いて、ハードディスクの底に忘れられるだろう。
障害がある方が燃えるという。
そこまでしてやるか、
ということと、これは関係している。
動機は強いか?
それだけ好きか?(嫌いか?)
何のためにそこまでしてそれをするのだ。
そして動機を試すかのように、
壁はさらに高くなる。
その、
障害、動機、乗り越え方のプロセス、
三位一体が、
ストーリーという線を構成している。
検索2秒は、点であり線でなく、
つまりはストーリーにならない。
これらから見ると、
ストーリーになることは、
「ネットでは解決できないこと」を、
線にするといい、
ということが導かれる。
もちろん、「ネットのない時代/場所」に設定するのもよい。
ケータイが出てきてドラマはつまらなくなったと言われた。
障害の解消が楽になったからだ。
ネットはさらに障害を減らした。
わたしたちは、逆に、
障害のある方へ、障害のある方へと、
物語をもってゆく。
ネットネイティブで苦労知らずに生きてきた若者が、
ストーリーを書けないのは当然だともいえる。
2019年01月18日
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