机に向かった当初は、
背筋を伸ばして肘を120度にした教科書的フォームだったとしても、
30分もすれば、
なぜか腕を伸ばしてまっすぐにしたフォームで打っていることに気づく。
このフォームの正体がずっと気になっていた。
僕は今尺側手根屈筋が腱鞘炎気味なので理解できる。
この筋を守るフォームなのである。
肘を120度に曲げた教科書フォーム
→手をつけたまま腕を伸ばすフォーム
→次第に机に浅く座り、肩と手が水平になるようなフォーム
とこれは変身段階がある。
三番目になると、腰にはわるいほど浅く座ることになる。
頭が机面近くに下がり、
ディスプレイを見上げる形になりがちだ。
F1ドライバーのようだと誰かが言ってた。
彼らの無理な体勢に確かに似ている。
明らかに悪そうなこの姿勢、
なぜなるのだろうと考えていた。
手書きのペンの状態でも、
腰がどんどん崩れ、
どんどん浅く座ることはよくある。
ソファーに座っていたらどんどん前に腰がずり落ち、
ついには床に座るなんてこともある。
しかしペンで書いているときは、
机の面近くまで頭がずり下がることはない。
机の面を上から見なくちゃいけないからね。
その意味では、
キーボードを打つ時のほうが酷い体勢になりがちだ。
机の下に体を埋めるような、
おおよそ机と椅子はこういう設計になってない、
という体勢になる時間帯が結構ある。
(監視カメラで計測したいくらいだ。
総時間中半分以上はこの第三のフォームになってるかもだ)
流石に腰に悪いだろうと思い、
最初の教科書的フォームに戻るも、
いつのまにかずりずりと尻が前に出て、
胴体が下に下がって行く。
何故こんなフォームに崩れていくのか?
俺は腰が潜在的に悪いから背筋を伸ばせないのか?
(幸いぎっくり腰などにはなっていない)
長年疑問だった。
後輩にも同様の姿勢を取るやつがいて、
コイツも腰が悪いのか?
(昔ぎっくり腰をやったと言ってた)
と思っていた。
彼の場合、さらにキーボードを腕の長さ分机の奥にやり、
机面-肩-肘-手首-指先
が一直線になるように打っていた。
(さらにMacなので、マジックキーボードの、
ほぼ水平なキーボードだ)
椅子の上下は、下一杯に落として。
この、
「腕を一直線に伸ばすフォーム」に、
何の意味があるのだろうと、
ずっと疑問であった。
答えは、
尺側手根屈筋と、上腕三頭筋(のうち、内側頭、長頭)
にあったのだ。
詳しくはこの名前でググり、
解剖図などで確認されたい。
尺側手根屈筋は、
タイピング姿勢をとったとき、
左手を上から見て反時計(外側)に回転させるときに使う。
そう、左に傾くキーに合わせるための回転だ。
僕は左手のそれの方が右手のそれより痛い。
右手を時計(外側)に回転させるときは、
Pを薬指で打つときだけ
(薙刀式を使用しているので、
エンターやBSの元の位置を打つことはもうない)
だからである。
だから教科書的フォームをとったとき、
右手の尺側手根屈筋はほとんど緊張することはないが、
左手の尺側手根屈筋は常に緊張を強いられる。
今まで左手薬指の使いすぎかと思っていた左腕の腱鞘炎は、
この尺側手根屈筋の主な痛みが原因であることまでは突き止めた。
(この付近に、薬指や親指を動かす別の筋もあり、
同時に圧迫される)
さて、前腕のこの筋を痛めると、
これを上腕部(二の腕)の筋がカバーすることになっている。
長らく痛めると、
タイピング姿勢をとったとき、
二の腕の下側から内側にある筋が凝ってくる。
上腕三頭筋の内側頭、長頭の部分だ。
とくに長頭は、
後ろまでいって肩甲骨に繋がり、
さらには背骨まで到達する長い筋である。
小さな筋の痛みを、より大きな筋でカバーしようという、
人体の不思議さを感じる。
さて、
問題の核心にせまる。
これらの連動する筋は、
肘を曲げてタイピングするよりも、
肘を伸ばしてタイピングするほうが痛くないのだ。
僕は痛いからわかった。
肘を横に張る時に、これらの筋が張る。
腱鞘炎でない場合は痛みまで感じないだろうが、
腱鞘炎がある場合、
肘を横に張り、さらに横上に肘打ちするように曲げると、
激痛が走るのだ。
(逆にゆっくり曲げていくとストレッチになるよう)
さて教科書的フォーム。
120度に、肘は軽く曲がっている。
これを腱鞘炎が嫌がり、
腕は段々伸びていく。
基本姿勢で腕だけ伸ばすと、
腕がつっぱり、手首が返って手首に無理がかかるので、
手首と肩を同じ高さに保とうと、
身体が動いた結果、
肩を机面と同じ高さにした、
F1のコクピットになってしまうという理屈だ。
問題は腰にあるのではない。
指を動かす筋を楽にするための、無意識な姿勢変更だったのだ!
これは、
タイプウェルなどの早打ちをするときは大して見られない。
確実に短時間で集中するため、
毎ラップ前傾姿勢を全力で保つからだ。
長時間原稿と向き合うとき、
ブログをダラダラ書いてるとき、
ブラウジングしながらポツポツと書いているとき、
などに多く見られる。
腰を犠牲にしてでも、
指の運動を維持しようという身体の無意識によって。
ついでに、
基本フォームでは腕はハノ字になる。
この時手首は前腕の方向から外側に開かなくてはならない。
(キーが左に傾く以上、左のほうが負担が大きい)
これは、腕を伸ばすほど、
手首の開き角を小さくできる。
肘を締めることが出来るからね。
その最大は、腕伸ばし一直線であることは、
火を見るよりも明らかである。
流行りのスタンディングデスク。
ノートパソコンを置くと目線が上向くから、
身体にいいとされている。
これは同時に、肩と指先を、水平気味に保てる効用もある。
(しかし長時間、たとえば8時間は難しいだろう)
僕は現在左右分割キーボードの導入を、
必死こいて半田付けしながら考えていて、
しかも格子配列なので、
左手を左に回転させる必要がないタイプのやつである。
それはつまり、
痛めている筋をこれ以上痛めないための、
筋からの姿勢矯正の指令なのだろう。
フルキーボードにおける教科書的基本フォームは、
僕の体では30分も持たない。
すぐに腕を伸ばしたがり、そのまま数時間経過だってありえる。
労働者の健康を守る基本ガイドでは、
50分打鍵したら10分休憩を取ること、
とキーボードに関しては言われている。
つまりは、
肉体的に負担が大きいことは割と初期から知られていたことなのだ。
(さらに僕は自分の指から比べれば大きいピッチを強要されていて、
さらに負担が大きいことを自覚している)
謎の姿勢の謎は、
腕一直線優先で、
それは尺側手根屈筋や上腕三頭筋を、
楽にするためだった。
指先から背骨まで繋がる一連に、
負担をかけない姿勢なのであった。
寝転んだまま打てる、
介護ベッドでの物理環境を構築した人がいる。
おそらくその人は腕を一直線にするはずだ。
ピアニストはどうだろう。
鉛直方向のタッチ重視だから、
PCキーボードを打つときとは違う、
という話を聞いたことがある。
私たちは、まだキーボードをベストの道具にしていない。
多くの人がフリックしか使わなくなったのも、
進歩しないキーボードへの無言のノーかも知れない。
万年筆ほどには、
筆記具として洗練されていないと僕は思う。
(miniAxeがそれをどれくらい進歩させてくれるか、
楽しみなのである)
2019年02月13日
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