2019年02月16日

日本語と主語

言葉を扱う者として、実に興味深いツイートとスレッド。
https://mobile.twitter.com/yhkondo/status/1095996271356108801

「これを読めば仕組みがわかるよ」の主語は何か?
皆さん色んな説を出していて面白い。

でも誰も出していない説あるじゃん。


この文の主語は、「みんな」だ。
世間、空気、でも同じ意味だ。


日本語は日本文化と切り離せない。
日本文化というと伝統文化のような先入観があるが、
そうではなくて、
「日本人にある、意識できない無意識」
のようなものだと思うべきだ。

日本人に主語はそもそもない。

西洋文化のような、
近代的自我、市民意識、アイデンティティは、
ないからだと僕は思う。

日本人はなるべく同質になろうとする。
僕の考えることとあなたの考えることと、
みんなの考えることは同じでなくてはならない。
学校教育がそうだし、会社もそうだ。

何故不倫ごときで記者会見して頭を下げるのか?
世間が怒っているからだ。
「みんな」を騒がしたから、謝るのだ。
「みんな」と違うから、謝るのだ。

なぜ裁判は法に照らさず前例主義なのか?
なぜ会社で、新規開拓はせずに旧来の畑しか耕さないのか?
みんなが考えることと同じにしたいからだ。
外れることが恐怖だからである。


僕が映画をこき下ろすだけで、
「みんなはこう言ってるのにお前は何様だ」
と突っ込む人は後を絶えない。
僕個人の意見と、あなたの意見と、
みんなの意見は、
近代的自我があるならば、なべて異なるべきだろう。

しかし、
世間に合わせるべきである、
みんな(均質的な、平均的ななにか)に合わせるべきである、
という同調圧力が、
出た杭を打ちにくる。

いじめの原因は、心の闇でもなんでもなく、
同調圧力に他ならない。

みんなと違ったやつは、排斥の対象になる。
優秀な奴でも、劣った奴でも。

SNSの炎上の理由はなんだ?

みんなとちがう。ただそれだけのことだ。


日本文化、日本人の無意識、日本語は、
「みんな」という大いなる人格に同化する、
という民族だと僕は考える。


だから、
「これを読めば仕組みがわかるよ」
の主語は、「みんな」だ。

明示されていない日本語の主語は、
すべて「みんな」なんじゃないか?


誰でも、僕でもあなたでも、
平均的な日本人ならみんな(主語)、
この文章を読むと(条件節)、
仕組みが(目的語)、
わかる(述語)
よ(念押し)。

最後の「よ」も肝心で、
「ふつうそうだよ」の意味だ。

念押しに、「みなさんそうされてます」
を暗に入れてくるわけだ。


日本人の陰湿さともいえる、
このような同調圧力、
無言の「みんな一緒」感は、
日本語の「主語がない」
ことと表裏一体の関係があると、
僕は作家(つまり人と社会を言葉で考える人)として思う。



国語学者でも、
この答えは出ていないらしい。

西洋の文法の言葉で、
日本語を切り分けようとするから間違いなのだ。

僕は、大阪弁を東京弁では理解できないし、
その逆も無理だと考えている。
言葉が違うからで、
それは前提としている無意識が違うからだ、
と考えている。
(オモロイことを尊ぶか、クールで粋であることを尊ぶかが、
大きな目的の違い)


言葉は無意識の反映であり、
無意識は言葉に縛られる。
その卵と鶏のような関係に、
ことばはあると思う。

それを、違う庭の卵と鶏で解こうとしても、
土台無理なところだ。

SVOCなどで私たちは考えていない。

みんながそうかどうか、
で私たちは考えている。


震災直後にコンビニに規則正しく並ぶ日本人を見て、
外国人は賞賛した。
ウチの国なら略奪が起こるのに、
日本人はなんとジェントルなのかと。
日本人ならわかるよね。
弱者を守り、強きをくじく紳士だから大人しく並んだわけじゃなくて、
みんなが並んでるから並んだんだよ。



有名なタイタニックのジョークがある。

タイタニックが沈もうとしているとき、
女子供を先に救命ボートに乗せるために、
各国の男たちをどうやったら黙らせることが出来るか?
というお国柄ジョークだ。

対アメリカ人「そうすると英雄になれます」
対ドイツ人「それが規則なので」
対イタリア人「レディにモテるから」
対日本人「みなさんそうされてます」

これを見るかぎり、
アメリカ人とイタリア人は、
主語、すなわち確立した自我があることになる。

ドイツ人は主語があるが、
それが厳密な法の管理下にあることを尊しとしているのだろう。
社会契約説というやつだ。

日本人だけが、みんなの判断を優先する。

このジョークは、
主語はみんなだ、
という僕の説をうらづける。


さて、みんなは、どう考える?
posted by おおおかとしひこ at 03:43| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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