2019年03月11日

何かを主張するとき

僕は、物語では作者の主張を述べるべきではない、
という風な教え方をしている。
それは中級者まではそうかもしれないが、
プロのレベル、上級者はそうでもないかもしれない。


主張を述べるべきではない、とする根拠は、
中級者くらいまでは、
客観性がなくて振り回されてしまうからだ。

物事をいろんな角度から相対的に見たり、
さまざまな立場から複眼的に見たり、
自分の意見にこだわらず、
社会一般の考え方と、それぞれの距離感を掴んだまま、
なおかつ自分の考えを通して、
世界を変えていこうとすることは、
なかなか簡単に出来ることではない。

そもそも面白い話でない限り、
そんな考え方を皆が受け取ってくれないから、
まずは面白い話を書けるようになれ、
と僕は考える。


で。

もし、とある主張を思いつき、
それが浸透することによって、
世界がいい方向に変わるとしたら、
それは社会の木鐸たる価値がある。

それを面白いストーリー仕立てにして、
魅力的なキャラや設定でつくりこみ、
なおかつそのテーマに落とし込めれば、
その話は世界を変えるかもしれない。

最終的にはあなたはそれをするべきだ。
だから、その世界をちょいと覗いてみようではないか、
というのが本題。


さて、あなたの主張をPとしよう。
これは命題である。
「○○は○○である」という形になるはずだ。
これは真か偽か問える形である。
これを、真である、ということが、
ストーリーの結論になるはずだ。

ただ単にPを言えば、
みんなが感心し、世界は変わるだろうか?
そんなわけがない。
そのPを理解し、説得され、感情が動かない限り、
人は動こうとしない。

まず、
Pが世の中に投げ込まれたとき、
当然反対意見がでるはずだ。
ほんとうにそうか?と。
アラを探す人もいるだろう。
Pとはいうがこういう例外もある、
限定的条件下の、ごく一部の世界の話だろう、とも。

あなたはこれを説得しなければならない。
Pの反対意見を説得するだけの、
証明をストーリーの中でする必要がある。
反論に反論するわけだ。
再反論もあるだろう。
あなたは再々反論して正しさを説得しなければならない。
このようにして、
Pがあなたの与えた条件下
(最高なのは、いつでも、どこででも)で、
確からしいことを、
あなたは説得する必要がある。

これは、理屈による説得だ。

もちろん議論形式でやるのではない。
ストーリー形式でやる。
つまり主人公サイドの主張がPであり、
敵サイドの主張が、Pへの反論たちであるようにする。
主人公サイドは、その都度敵を凌駕することで、
Pの確からしさを増していくのだ。

ところで、これは理屈である。
理屈が正しいからといって説得されるわけではない。

感情による方法のほうが、
より原始的にハートを動かす。

それが感情移入だ。

主人公に興味を持ち、同情したり、
中身を知って自分と同じところを発見したり、
ギャップで好きになることで、
主人公をどうしても勝たせたくなってしまうように、
ストーリーが誘導されていなければならない。

主人公の味方に、全ての観客がなるように。

心情的な味方になってしまえば、
それは宗教的吸引力をもつようになる。

その主人公の主張Pが、
どのような形であっても
(たとえインチキでも)信じてしまうだろう。


つまり、
あなたがPを主張したいなら、
理屈の面でも説得力があり、
感情の面でも心の深いところにささり、
かつ面白い話であることが、
必要十分条件だ。

簡単に論破される主張なんて誰も信じない。
反論に反論を重ねて、ようやく確からしいとわかってくる。

あるいは、感情の深い所に刺されば、
Pの妥当性に関わらず、心からそう思うようになる。

つまり、
あなたは、観客の、理性と感情の、両方を揺さぶらなくてはならない。

初心者や中級者には困難だ、
という僕の判断もわかるだろう。


そもそもそのPは妥当なのか?
「安倍総理を更迭せよ」くらい、
どうでもいいことか?
まずその主張が、妥当で世界を変えるに相応しいかだ。

理性、感情、妥当性。
これらが揃い、
かつオリジナリティがあってクリエイティビティがあって、
しかも話は面白くなければならない。


あなたが初心者だからといって、
これに挑戦していけないわけではない。
しかし大概は、
気概の大きさに対して、
出来上がったものは竜頭蛇尾だろう。

それは、さまざまな要素をコントロールできるだけの、
経験と失敗が足りないからだと思う。


しかし、
初心者のうちから志を下げろとは言っていない。

とても良いPがあるなら、
それをうまく表現する、
面白いストーリーを考えればいいだけのことだ。
posted by おおおかとしひこ at 10:41| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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