アイデアとは、一行や数行で示したもの、
実装とは、それを実際の原稿で書いたもの、
と言えるだろう。
我々は抽象的なアイデアをまず考え、
それをどうやったら具体的なもので示せるか、
という二段階で考えているとも言える。
(面白い実装が先に浮かんで、
あとからその本質的なアイデアを抽出することもある)
で。アイデアが浮かんでも、実装が詰まらなかったら、意味がない、
という話。
先日CMの企画をしていた話。
「かっこいいサラリーマン二人が、
カッコイイビジネスの話をしていると思ったら、
それは全部釣り用語で、釣りの話をしていた」
という釣り具メーカーのCMのアイデアを出した後輩がいた。
まあそれはわかる。
じゃあ、その具体的な実装ってなんだよ、
ってことになる。
どういうワードの、どういう会話で、
それが最後まで釣りの話とバレないような、
あるいは途中から釣りの話だと薄々分るような、
そういう二人の会話劇を書いてみろ、
ってことだよね。
そんなん、難しいに決まってるやないか。
うまいことダブルミーニングになるような会話は、
たとえばアンジャッシュのコントを見ればわかるように、
そうとう巧妙にしないといけない。
しかもコントのように、
「いま面白いことをやってますよ」を免罪符に、
多少のリアリティを落としてもいい、
という条件が、
この釣りの実装では使えない。
「ビジネスの話だと思ったら」
をキープしないといけないからだ。
ここに、
アイデア倒れ、という現象があるわけだ。
面白そうなアイデアは、
その面白い実装がないと、
実現できないのである。
このアイデアと実装の関係がわかっていない、
馬鹿が最近増えている様な気がする。
「僕はアイデアだけ考えるから、あとは実装して」
なんていう輩だ。
実装を気にしなくていいアイデアなら、
僕は明日までに100でも200でも出せるぞ。
ほんとにそれが実装できるのか、
ということを考えるから、
無茶なアイデアは心に秘めたり捨てているだけだというのに。
しかも、アイデアを出すだけの人が儲けて、
実装する人は低賃金、というのが、
現在の日本の構造的問題ではないか、
とすら思える。
実装は、実力がいるし、泥臭い努力がいる。
時間がかかり、試行錯誤が必要だ。
失敗もするし、成功相半ばもある。
そうした実装の経験がない人が、
絵に描いた餅だけを言い続けている。
「頻度の高い文字を中央に集めて、
頻度の低い文字は端へ。連接にも工夫し、
打ちやすい指使いにする」
というアイデアに対して、
どれだけのキー配列の実装があることか。
そして、それを詰めていくことが、どれだけ大変か。
「復興をコンセプトとしたオリンピック。
高度成長期の東京五輪以来の東京オリンピック」
というアイデアに対して、
なにひとつ魅力的な実装は出て来ていない。
競技場、エンブレム、果てはマラソンで打ち水だって?
それの何が復興のアイデアに寄与するというのだ。
実装が出来ない人が、
アイデアばかり出しているから問題なのだ。
それは、工場を海外に移転して、
手を動かせる職人を首にして、
結局回す首がなくなった、
日本の家電メーカーと同じである。
僕らは言葉が実装だ。
言葉をうまく使えないやつが、
アイデアだけ語っても、
むなしいだけだ。
その後輩からは、
いつまでたっても、
「ビジネスと思ったら釣りの話だった」
という面白い台本は上がってこない。
まあ、そんなもんでしょ。
せめて一つだけでもダブルミーニングの面白い言葉がでれば、
それが企画の中心になるんだけどね。
出来ないアイデアをすてろ。
何ならできるんだ。
それ以外にはあなたは大したことができないんだ。
それを認めて、
さらにいくつものアイデアを血を吐きながら出すんだ。
できないアイデアを出したら、
その実装まで責任をもってやってみろ。
出来ないとは限らない。
やってみて、行けそうならやってみろ。
実装出来ないアイデアを自分の功績のように語るやつは、
全員生きている価値がない。
たとえば、
「人気漫画の〇〇を、〇〇主演で実写映画化」
と言っておきながら、
できの悪い映画しか作らないやつらだ。
アイデアは悪くないかもしれないが、
その実装は、なぜひどいものしかないのか?
実装前提でアイデアを出していないからだ。
実際に現行をフィニッシュしないで、
プロットやコンセプトシートばかり書いているやつに、
それは似ているよね。
実装できなきゃ確かに意味ないですよね…。
ところでビジネス会話っぽくみえるけど実は釣り用語だらけでしたというアイデアはすごくおもしろかったのでちょっと考えてみました。
A「来月の方針決まった?」
B「ああ、メバリングで行こうと思う。レンジは幅広く狙うつもりだ。来月あたりからちょうどシーズンだしな」
A「随分と思い切ってプラン変更してきたな。先月お前あんだけノマセに一発逆転にかけてたじゃん」
B「そうだけどさ、やっぱりいくらロマンを語ったって実績が伴わないと意味ないと思うんだよね。だから堅実に数を上げていくことにした。そういうお前は?」
A「俺?俺はもちろんタイラバ。流行に乗るのって大事だしな」
B「そうか。まあお互い頑張って結果出そうぜ」
煙草を消して休憩所から出ていく二人。
それを見ていた後輩と部長。
後輩「先輩たち来月も色々チャレンジしていくみたいですね!僕も見習いたいです」
自分も煙草の火を消して出ていく後輩。
それを見ていた部長。
部長「…うん、頑張ってね」
ぼそりと後輩の背中に一言
部長「仕事をね…」
実際やってみると難しいですね。
でもこのアイデアはぜひ形になったものを見たいなと思いました。
まあ大体こういうグダグダになるのは見えていました。
なので、
このアイデアを聞いた時点で「無理だろ」と判断出来るのが、
手慣れた経験というものです。
ところが、無理だとわかるのが怖いので、
アイデアだけ考えて、実装は他人に任せて、
ああでもないこうでもないと文句だけ言う人が、
各界に増えている気がします。
それはアイデア倒れにしかならない、
実装が出来ないんだもの、
と言える人が各界には足りませんね。
無理でないと思うなら、やってみせるしかない。
実際に出来る人が、信用に足るというものです。
「気で人を飛ばせる」という人は、
飛ばしてから説明するべきです。