2019年04月04日

アイデアと実装2

また別の、アイデアと実装の話。


フェアトレードジャパンという慈善団体のCM。
搾取をやめてフェアな取引の相場を作ろうとしている。

それらが今若手に課題として出されているのだが、
またアイデアだけあって実装がないやつがあった。

「ブラックな会社で給料がどんぐり二個」
というやつ。
なんでどんぐりかは置いといて、
アンフェア、搾取を大げさに描くという基本は守られている。

このアイデアに対して、
僕はふた通りの実装をひねりだした。


その1

深夜残業。
先輩が突然つぶやく。
「おい新人。どんぐりのアクの抜き方知ってるか?」
「は? なんすかそれ」
「どんぐりは、うまくアクを抜くと食えるんだ」
「ほんとすか」
「ちゃんと出来たほうがいいぞ」
「??」
深夜に鍋を持ってきて、アク抜きの練習をさせられる。

翌日。
上司「はい今日は給料日。手だして」
新人「ありがとうございます!」
出されたのはどんぐり二個。
「これかー!」

N: フェアなトレードを。フェアトレードジャパン。


並の実装だったら、
働かされる、つらい会社を描く
→給料がどんぐり二個でさらに辛くなる、
というところで終わるだろう。

「でもそれじゃ普通だ」と勘付く力が必要だ。

なので、普通の仕事の文脈で突然、
どんぐりのアク抜きを教え始める異常な先輩からはじめてみた。
勿論、オチへの伏線となるわけだ。

単純に、ブラック→どんぐりとなるよりは、
新しい見え方になるだろう。


その2

ハムスターにどんぐり二個食わせる。
カラカラ回るやつで走らせる。
「どんぐり二個で、180周」

サラリーマンにどんぐり二個食わせる。
カラカラ回るやつで走らせる。
死にそうになっても走らされる。
「どんぐり二個で…残業300」
まだ回り続ける。

N: フェアなトレードを。フェアトレードジャパン。


ストレートプレイではなく、
仕掛けを使った頭いいやつ系の実装。

どちらも大元よりかは、
実装でまともに見えている。


しかしながら、
アイデア自体は平凡だ。
そもそもどんぐり二個がナンセンスすぎて、
「どんぐり二個が面白い」と思ってしまっている可能性がある。

フェアトレード、つまり搾取がない目的を描くのに、
搾取する最も面白い場面がそれか、
というアイデアの練り込みがそもそも足りていない。

そして、実装に工夫をしない限り、
よくある表現の並び
(辛い会社、残業、通勤、など)
になりかねないところで、
このアイデアは平凡だ。


アイデアが秀逸でも、実装が平凡なら平凡だ。
実装が秀逸でも、アイデアが平凡なら平凡だ。

創作というのは、
新しい秀逸を作ることだ。


アイデア倒れのアイデアに胡座をかくな。
実装してから責任とれ。
そして、実装がよくたって、
ガワだけの中身のないものになるのだ。
posted by おおおかとしひこ at 13:14| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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