2019年04月09日

すぐに事件を起こさないこと

ストーリーを始める時、
たとえば、
「突然エレベーターが止まり、閉じ込められる」
から始めるとする。

掴みとしては十分だと思うが、
これから展開するのはとても難しい。

その前に、一場面書いておくと助かるのだ。


エレベーター停止したとき、
たとえば美女が乗っているとしよう。
彼女とどうにかして脱出しなければならないわけで、
「脱出できるかどうか?」が焦点になるわけだ。
エレベーターからどうやって脱出するのか、
それともしばらく待つのか。

しかし、次にいきなり、
主人公の男が、
「実は僕はサーカスの軽業師なのです。
ロープを伝って助けを呼びに行きます」
という展開になったらどうなる?

唐突にすぎるし、
後付けにもほどがあると思われるだろう。

では軽業師は使えない?

そんなことはない。
事件の前にひとつシーンを作ると良い。

急ぐ男。
遅刻したのだ。
電話する。
「すいません、寝坊しました。本番は7時ですよね?」
カットバックしてサーカス団長。
テントの中ではサーカス団員たちが軽くリバーサルしている。
「だったらお前だけぶっつけ本番になるぞ?」
「大丈夫です。今日のロープは低いんで」

エレベーターに乗り込む男。
美女が乗ってきてラッキー。

と、エレベーターが止まる。


というふうになれば、
「僕はサーカスの軽業師なのです」と美女に言っても、
我々観客は何も無理を感じない。


同様に、美女の前のシーンも作れるとしよう。

たとえばトイレに駆け込むが行列になっていて、
時計を見て諦めてエレベーターに乗り込む、
としてみようか。

彼女が異常に閉じ込められたエレベーターから出たい、
と言い始めるはずだ。
軽業師は「待てば管理会社の人が来る」となだめるけれど、
彼女は聞かない、
なんて場面を作ることができる。
「おしっこ漏れそう」とはなかなか言えないから、
なんだかんだ理由を嘘つくことになるだろう。


さて。
「突然、エレベーターが停止する」
という掴みから書くと、
次の展開に困るのだ。

美女が脱出を急ぐ理由も、
男が天井の蓋を開けて軽々登っていくことも、
事件から始めていては、
唐突で無理のある展開に見えてしまうわけだ。


事件からはじめない。
始めたいなら、必ずワンシーン前に何か書いておくこと。
事件が起こったら、それを利用して展開していくこと。

ストーリーは順序で語る。
前のものを利用しながら、次へと進む。

いきなり事件から始めるのは、
あなたが掴みたいと焦っているからだ。
数シーンは掴まなくても見てくれる。
そこに何かを仕込めば、それで事件は始められる。
posted by おおおかとしひこ at 14:17| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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