2019年05月03日

動機と自己認識

動機とは「何のためにこれをするか」ということで、
自己認識とは「私はどういう人間、立場、考えか」
ということだ。

これを明確にしよう。
これを明確にすることが、感情移入に繋がる。


「アベンジャーズ ・ウルトロン」において、
彼らの動機はよくわからなかった。
彼らの自己認識もだ。

たとえばアイアンマンは、
単独主演での第1作では、
「武器商人が、世界を平和にする武器を作る」
ということが自己認識であった。
それが戦う動機でもあった。

しかるに、
アベンジャーズ ・ウルトロンでは、
アイアンマンは平和のためなら無茶をしてでも発明するような、
ただの気狂いでしかなかった。

「俺は武器商人だ。
武器商人は何故武器を作るか知ってるか?
世界を救うためなんだ。
俺の作った詰まらない武器で無駄に命が死んだ。
この人工知能は、その連鎖を終わらせる」
なんてセリフを言うだけで、
人工知能を三日間の間に開発するための、
動機や自己認識が、観客に理解できたはずだ。

しかも、敵の速い弟と心を読む姉の動機は、
彼の武器によって沢山の人が死んだこと。

これによって、アイアンマンの動機や自己認識が、
揺らいだり、再び固まって、
「だからこの人工知能が必要なんだ」と、
スタートボタンを押すきっかけにも出来ただろう。

自己認識や動機は、揺らがなくてはならない。
その揺れには兄弟の設定は抜群に良かったのに、
それが揺れ=ドラマに全く寄与していなかったのが、
ストーリー上の欠陥である。


もちろん観客はアイアンマン1のことなんて殆ど覚えてないので、
それを改めてセリフででもいいから説明すれば、
それだけで物語の深みは何倍にもなったというのに。
「武器商人が戦争を終わらせる」というモチーフは、
とても面白い。
だからアイアンマンは、武器商人から離れてはならない。
たとえアベンジャーズに客演の状態だとしてもだ。

そうでなければ、
なぜ彼がソーの杖を盗んで勝手に開発したのか、
全く意味がわからない。
子供がオモチャを得て、出来そうなハルクを共犯にして、
失敗して暴走して、それを元に戻しただけ。
そんな子供の話の、どこに感情移入すれば良いのだろう?


僕がスーパーヒーローもので傑作だと思うのは、
「スパイダーマン1」「スパイダーマン2」
「キック・アス」の三本だが、
どれも、動機と自己認識に関わるドラマが用意されている。

スパイダーマン1では、
叔父の説教の「大いなる力には大いなる責任が伴う」
というのを嫌がっていた主人公ピーターが、
小悪人のプローターの金を盗んだ強盗を見逃し、
その強盗に叔父が殺される、
という悲劇がある。
この後悔と、叔父の言葉の実現こそが、
スパイダーマンが闘う動機で、自己認識である。
「わたしはだれか」という自己定義と考えてもいい。
ピーターはただの陰キャから、
スパイダーマンに「なった」のだ。
そのストーリーには、動機や自己認識の変化があるわけだ。

スパイダーマン2では、
大学生の生活、恋愛を優先したくてスパイダーマンを辞める。
特に冒頭のピザ配達失敗のエピソードが完璧で、
ガールフレンドの本番に間に合わなかった第一ターニングポイントも印象的だ。
しかしスパイダーマンを辞めても、火事は起こる。
人間のまま決死でひとりの子供を救ったあと、
もう一人死んでいたことをしる場面が強烈である。
「スパイダーマンなら助けられた」
ということが、
ピーターを再びスパイダーマンへ変身させる強い動機になる。
「わたしはだれか、なんのためにこれをするのか」
に応えられる、強烈なドラマが用意されているわけだ。
そして、その揺れこそが、ストーリーなのだ。

キックアスでは、
ヒーローを目指すが力のない男が、
一人自警団で夜の街を歩く。
強盗事件が目の前で起こっているのに、
みんなガラス窓の手前からスマホで撮影するだけだ。
「おまえらそんなことでいいのか!」
とキックアスが必死で飛び出して事なきを得るが、
それをまたみんなカメラで撮る様が、
あちら側とこちら側の境目をうまく表現していた。
この第一ターニングポイントで、
キックアスの人生は動き始める。


このような、
なぜ闘うのか?
私はどういう人間かというその人の認識、
の二つが観客に伝わってこないと、
私たちは、
彼らの命がけの戦いに、ドキドキしたり、拳を握れないのである。


別に闘う物語でなくても良い。
物語とは、
主人公の強烈な行動による、
強烈な結果や展開のことである。
それには強烈な、よほどの動機がなくてはならない。

そして、その主人公は、
「自分が一体どのような人間なのか?」
について、何度か自己認識を改める時が来るだろう。
それが物語だ。
posted by おおおかとしひこ at 13:01| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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