2019年05月09日

史上最高のバッドエンド(「アベンジャーズ・インフィニティウォー」評)

ラストシーンのネタバレから。


完結編「エンドゲーム」の前編である、
という程度の知識で見たが、
こんなに完璧な前編だとは思わなかった。

なによりラストシーンだ。

これが、悪役サノスにとってハッピーエンドになっている、
ということが凄い。


通常、物語というのは悪役が破れ、
正義のヒーローたちのハッピーエンドで終わる。
その真逆を描いた作品だ。

構造を逆にするところまでは思いついても、
まさか悪役サノスに感情移入することになるとは思わなかった。

サノスは愛する者がいない、
というアイデアも面白かったし、
娘との出会いを描くことで、
失う悲しみをつくったのが上手い。

「人は増えすぎた。半分になれば幸せになる」
というサノスの主張は、
我々が感じていることで、
(僕が地球人口を習った子供の頃は40億だったけど)
サノスがなしていることは、
正義ではないか、と考えてしまう。

すなわち、サノスの正義における、
これはハッピーエンドの物語でもある、
ということが巧妙だ。

つまり、正義とは何か?と問うことが、
この物語の役割なのだ。


サノスは裁きの神の役割である。
人間たちの神殺しの物語が、
後半戦「エンドゲーム」で行われるはずだ。
期待値を最高にあげる前半戦として、
パーフェクトな出来といっても過言ではない。

よくあるこれに対する正義側の理論武装として、
「自然選択の結果半分死ぬなら受け入れるが、
お前の選択は正しいとは言えない」があるが、
石の選択だから宇宙の選択ともいえて、
運命論になっているのが反論し難い。

アイアンマンの正義はなんだ。
ハルクの正義はなんだ。
キャプテン・アメリカ、ソー、ブラックウィドウの正義は。

エンドゲームに期待だけが膨らむ。



シナリオ的に上手かったのは、
アベンジャーズサイドの動機をうまく描いているところだ。
Stayの一言で愛を表現するのは上手いし、
ソーの孤独も良かった。
アイアンマンのキャラクターの出たプロポーズもいいスターターだった。
「ディナーで指輪が出る」という予告がユニーク(唯一無二)だと思う。
こんなセリフが書けたら最高だね。

なぜ彼らは命を賭けて闘うのか?
宇宙が消えるから、というお題目と、
個人的動機のバランスが良かった。
(描かれてないキャラもいたけど)



一体、何人がかりでこのシナリオを書いたのだろう。
コミックスだって数人でシナリオを書くだろうし、
この映画版だってそうだろう。

何年ぶんもの結晶を、
たかが二時間で使い果たす贅沢さが、
ハードルを上げまくらせる。

週末にエンドゲームを見る予定。
マトリックスみたいにならねえだろうな。


しかし「次回でない人は消えるよ」
というのは、なんだかプロデューサーの意向っぽくて、
ちょっとやだな。
残された者に物語的理由があるといいんだけど。

今回ほど、ラストの「Avengers will return」
の出るタイミングを待っているときはなかった。
と思ったら、主語をサノスに変えるという面白さ。
わかってんなあこの人たち。

こんなわかってる人たちのチームで作れたら、
どんなにか人生は幸せだろうかね。
posted by おおおかとしひこ at 08:25| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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