伏線について考える。
伏線とは、
数手先のことを考えて、準備することである。
数手先を読んでいるからそうなるのだ。
次に何が来るのか何もわからないで行動する人はいない。
無謀とか無知でない限り、
人は未来を予想し、それに対して準備する。
あるいは、なるべく先回りして未来が楽になるように努める。
僕の好きなCMの例から。
交差点の信号のポールに、
ウレタン製のクッションを巻いている工事のおじさん。
完了して離れる。
交差点には車の看板があり、
メッセージが書いてある(たしか安売りだったか)。
通行人はそれに気を取られ、
ポールにぶつかるが、
クッションでセーフ、
みたいな小話。
最初の工事の段階では、
その目的は我々観客には知らされていない。
だが工事している人は分かっている。
(登場人物と観客で、知っていることに差があるパターン。
劇的アイロニーを参照)
だから我々の中には「?」が広がる。
通行人がぶつかった瞬間、
「なるほど、そういうことだったのか」
と判明する。
この、前振りとなるほどの関係を、
伏線とその解消と専門用語でいう。
注意したいのは、
工事している人は目的をはっきり知っていることだ。
「登場人物と観客の情報が一致している」場合だと、
こうなるだろう。
看板がある。
通行人が見て、ポールにぶつかって怪我をする。
工事の人登場、クッションを巻き終える。
別の通行人がぶつかるが、セーフ。
急に詰まらなくなるね。
段取りくさい。
時系列を追うことに、感情移入が発生していないからだ。
もし我々が通行人や工事の人に感情移入していれば、
この工事に夢中になれるかもしれない。
なにせ「バックドラフト」は、
火事を消すのに感情移入する映画なのだから。
この小話が優れているのは、
このように、登場人物と観客の情報を一致させていない、
というテクニックを使っているところだ。
「?」を前振り、「なるほど!そういうことだったのか!」
と種明かしをするのである。
これが伏線のコツなのだ。
人間は、数手先の未来を考えて行動する。
しかしその未来を、
観客と共有しない手がある、
ということ。
もっと簡単な例を。
「○○になったらどうするんだよ?!」
「大丈夫、準備済みさ。本番で見ておきな」
本番時、それを披露。
「なるほど、そういうことだったのか!」
みたいなやつ。
これなら簡単にストーリーを進められ、
かつ伏線をつくれる。
「大丈夫、準備済み」という代わりに、
その準備に関係するものを見せる、
という伏線に書き換えることができる。
たとえば本番で火を使うなら、
ライターを見せるとか。
あとは、それがネタバレでなく「?」と思わせられるか、
というネタを作ればいいだけになるわけだ。
つまり、この場合では、
伏線と解消という構造が中身であり、
ライターがガワになる。
ライターやマッチなのか、花火なのか、ガスコンロなのかは、
ネタバレを避けずしかも洒落てるやつを選ぶといいだろう。
ガワは取り替えられる。中身は取り替えられない。
数手先の未来を想定している登場人物と、
一手先しか考えていない観客。
その差を使えば、
キレのいい伏線と解消を作れるだろう。
車のCMの例を思い出せば良い。
段取りくさいものを一度書き、
何かを隠したまま進行させて「?」を上手に作ればいいわけだ。
2019年05月17日
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