2019年05月17日

数手先の未来

伏線について考える。


伏線とは、
数手先のことを考えて、準備することである。
数手先を読んでいるからそうなるのだ。

次に何が来るのか何もわからないで行動する人はいない。
無謀とか無知でない限り、
人は未来を予想し、それに対して準備する。
あるいは、なるべく先回りして未来が楽になるように努める。


僕の好きなCMの例から。

交差点の信号のポールに、
ウレタン製のクッションを巻いている工事のおじさん。
完了して離れる。
交差点には車の看板があり、
メッセージが書いてある(たしか安売りだったか)。
通行人はそれに気を取られ、
ポールにぶつかるが、
クッションでセーフ、
みたいな小話。


最初の工事の段階では、
その目的は我々観客には知らされていない。
だが工事している人は分かっている。
(登場人物と観客で、知っていることに差があるパターン。
劇的アイロニーを参照)
だから我々の中には「?」が広がる。

通行人がぶつかった瞬間、
「なるほど、そういうことだったのか」
と判明する。

この、前振りとなるほどの関係を、
伏線とその解消と専門用語でいう。


注意したいのは、
工事している人は目的をはっきり知っていることだ。
「登場人物と観客の情報が一致している」場合だと、
こうなるだろう。

看板がある。
通行人が見て、ポールにぶつかって怪我をする。
工事の人登場、クッションを巻き終える。
別の通行人がぶつかるが、セーフ。

急に詰まらなくなるね。
段取りくさい。


時系列を追うことに、感情移入が発生していないからだ。
もし我々が通行人や工事の人に感情移入していれば、
この工事に夢中になれるかもしれない。
なにせ「バックドラフト」は、
火事を消すのに感情移入する映画なのだから。

この小話が優れているのは、
このように、登場人物と観客の情報を一致させていない、
というテクニックを使っているところだ。


「?」を前振り、「なるほど!そういうことだったのか!」
と種明かしをするのである。


これが伏線のコツなのだ。


人間は、数手先の未来を考えて行動する。
しかしその未来を、
観客と共有しない手がある、
ということ。

もっと簡単な例を。

「○○になったらどうするんだよ?!」
「大丈夫、準備済みさ。本番で見ておきな」
本番時、それを披露。
「なるほど、そういうことだったのか!」

みたいなやつ。

これなら簡単にストーリーを進められ、
かつ伏線をつくれる。

「大丈夫、準備済み」という代わりに、
その準備に関係するものを見せる、
という伏線に書き換えることができる。

たとえば本番で火を使うなら、
ライターを見せるとか。


あとは、それがネタバレでなく「?」と思わせられるか、
というネタを作ればいいだけになるわけだ。

つまり、この場合では、
伏線と解消という構造が中身であり、
ライターがガワになる。
ライターやマッチなのか、花火なのか、ガスコンロなのかは、
ネタバレを避けずしかも洒落てるやつを選ぶといいだろう。
ガワは取り替えられる。中身は取り替えられない。



数手先の未来を想定している登場人物と、
一手先しか考えていない観客。
その差を使えば、
キレのいい伏線と解消を作れるだろう。

車のCMの例を思い出せば良い。
段取りくさいものを一度書き、
何かを隠したまま進行させて「?」を上手に作ればいいわけだ。
posted by おおおかとしひこ at 10:16| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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