2019年05月31日

【脚本添削スペシャル2019】10: 反対の概念

感情移入について再び考えます。


漫画家やその他、夢を目指す人の話に、
そうでない人でも感情移入することが出来るかどうかを、
さらに深めて考えます。

単純に、夢を目指す人が挫折しようとしていて、
一端は敗北宣言を出すが、再び立ち上がる。
そうした構造において、
何が感情移入の柱になるか。

自分には居場所があるということか。
自分の原点を知るということか。
他人に必要とされているということか。
よく見たパターンで、そんなに興味が惹かれません。
まだ感情移入というには遠い気がします。
「自分が認められる」というメアリースーの匂いもします。

で、こういうときのテクニックを考えます。
敵をつくるのです。


敵は、具体的な人物を伴うべきですが、
このストーリーの場合、
「漫画家デビューを妨害する人」はいないので、
具体的人物の形をとるわけにはいかないですね。
有望な新人漫画家と競争させるのも話が違いすぎます。
無能な編集者に理解されていないだけ、
という漫画家対編集者にするのも話が変わってしまいます。

こういうときのコツです。
「もし、目的を達成させられないとすると、
どういう考え方を受け入れないといけないのか」
と考えるのです。
敵は自分の中の「考え方」です。


悪に負けると、死ぬから嫌なのではなく、
「到底同意できない考え方の、勝利を認めることになる」
ことが、闘う動機だったりします。
たとえばゲイフォビアの人たちは、
ゲイという生き方が嫌なのではなく、
「それを認めたら負け」という心理に陥っている様な気がします。
一回生理的に嫌悪感を覚えたから、
それを認めたら、その生理的嫌悪感を認めることになる。
それは嫌だ、という心理です。
それを凌駕する考え方、多様性を説いても、生理的嫌悪感のほうが強いため、
考え方を変えないのですね。

「それを認めたら負け」というのは、
理性ではなく、感覚に根差した、原始的な深い感情です。

悪役が、たいてい正々堂々と戦わず汚い手を使うのも、
「フェアプレー前提の戦いで、
それを認めるわけにはいかない。
悪役の勝利は、フェアプレー精神を汚すことになる」
という怒りを覚えさせるためです。

こうした場合、主人公サイドにたいした魅力がなくても、
「こいつらを許すな」という心理に観客がなってくれるので、
感情移入がしやすく、
また主人公サイドの勝利によろこびがあるものです。
「あいつをやっつけた」と留飲が下がることも、感情移入の結果です。

具体的悪役を出さなくてもよいのです。
「敗北した場合、その考え方を認めたことになる」
という状況を作ればよいのです。

このストーリーの場合、
「漫画家になれなかったら、どういう考え方を受け入れないといけないか」
を考えればいいわけです。


そもそも漫画家になりたかったのはどうしてか。
たとえば自由や変化や冒険を求めたからとしましょう。
その場合、
「同じことを毎日して、同じ場所に座り続ける詰まらない人生」
が反対の概念になるでしょうか。

もっとよくない感じにしましょう。
「自分でつくらない人生」としましょうか。
実家のまんじゅうは、誰かから仕入れて、それを並べて売っているだけ、
という設定にします。

あるいは、「誰もファンがいない人生」と考える手もあります。
まんじゅうが売れるわけでもないし、
実家が稼いでいるのは、引き出物が主な収入とします。
量が出るからOKだけど、
進物のまんじゅうなんて誰も美味しいと思ってないだろ、
という否定することになる。
誰の為にもなっていない人生に意味なんてあるのか、
と主人公は考えているとしましょうか。
漫画家の夢に破れて実家を継ぐことは、
「誰からも好きと言われない人生」を生きることになる。

これが誤解だと分かることも足しておきましょうか。
まんじゅうはまんじゅうで、ファンがこつこつ買いにきていて、
しかも父はただの売り子ではなくて、職人に弟子入りして、
新作をつくろうとしている、というネタバレにしますか。
(漫画を書き始めた、ということの翻案)

となると、大体が一本に繋がってきます。


「何も作らない、ファンのいない詰まらない人生」を嫌がる男が、
それを諦めて受け入れることにして、
彼女との同棲を解消する。
しかしその旅路の途中、迷子の子供に作り話をたくさんすることで、
面白いものをつくることの原点を感じる。
実家に帰ると、父は新作を作ろうとしていたことを知る。
意外とファンがいるんだ、ってことを知って、
饅頭屋も悪くない、ということを初めて理解する。
原点の原点、自分のファン第一号と言った彼女と、
よりを戻してプロポーズをすることに。


こういう話にすると、すべてがうまく繋がりそうです。
大きく4ブロックに分かれることになりますか。
別れる、迷子の子供、実家、よりを戻す、
出会いの公園(回想)を足すと5ブロック。

15分に収めるには1ブロック3枚で書けばいい計算。
やってみますか。


こういう風に、悪役を作ることなく、
「敗北したらこの考え方を受け入れないといけない」
というのは使える手です。
こうすると具体的悪役は必要なく、
主人公(や周りの人全部)に、「恐怖」を作ることができます。
恐怖を作れば、それに闘うことが出来る。
乗り越える話を作ることが出来る。
それに感情移入させればよいと思います。

今回のリライトは、わりと色んな角度から見てみたつもりです。
つまり、「執筆するまえに何を考えておかないといけないのか」
をシミュレートしようとしているわけです。

ここまで書く前に考えられていないと、
「考えられていた」とはならないと思います。
動機、目的、達成とテーマ性、テーマと構造、
それらの有機的なつながりが、
あたまの中で「つながってひとつのものになり、
それらが全て機能する」と思えるまで、
ストーリーを色んな面に転がし、
構想することが大事です。

「こういうことが起こると面白い」だけでなく、
「それがこういうことにつながり、
こういうことになるから、
ストーリー全体から見ると、こういう役割がある」
ということを考えたり、
足りないパーツはないか、考えたりするとよいでしょう。

何が足りていて何が足りないか、
あるいは何が過剰か、
などの判断は、やはり書き慣れているかどうかが関係すると思います。
僕は「海外旅行にもっていくもの」でたとえます。
慣れた人は準備も速く、たいしたものを持って行きません。
慣れていない人はトランク一杯になってしまうか、
足りな過ぎて現地で困ることになるでしょう。
必要十分を見極めるには、
「俺にはこれくらい必要だ」という、慣れだということです。

つづく。
posted by おおおかとしひこ at 14:17| Comment(3) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なるほど。そんな手が
敵は自分の中=シャドウとして擬人化して外部に出す、と翻訳していましたがそうとは限らないんですね。


準備の話としては
中央の動詞 → ラストシーン(テーマ) → 事件 → 動機と敵
が実際の思考の主な時系列になるんでしょうか?(もちろんフェーズ中にも色々混ざり合ってるでしょうが、大体の指針として)
Posted by ビリー・ケン at 2019年06月01日 15:19
>ビリー・ケンさん
>思考の主な時系列

これは人によるし話にもよると思います。
慣れた方法をつくって、慣れた方法でやるといいと思います。
(時にはパターン崩しでつくってみて、
いつもと違うやり方の利点や欠点を分析するのも良いこと)

僕の場合ざっと作ってみて、
何かが足りないぞ?なんだ?
と分析をはじめて、「○○が足りないな」と言葉に出来たら、
それを作っていく感じです。
料理の味見に近いのかしら。

で、あとはこのバランスで煮込んで行こう、
と蓋を閉め、
鍋の中の世界でひたすらディテールを詰めていく感じですかね。

で、煮込めたぞ、と蓋をあけて、
最初から最後まで読んでみて…のループかなあ。
Posted by おおおかとしひこ at 2019年06月01日 16:32
>ビリー・ケンさん
>敵は自分の中=シャドウとして擬人化して外部に出す

そうできればそれに越したことはないです。
今回の場合「漫画家なんて辞めちまえ」
と発言する悪役を作ることが困難
(それを倒したからといってゴールにならない)ので、
変則手を使ったかんじです。
「お前には才能がないぞ」と囁く、幽霊や宇宙人が出てくる話でもないし。

自分の心の中の葛藤が主な対立になる場合、
どう外に出すか、という一つの手であります。
「敵は世間」「敵は空気」なんていう場合も、
特に日本人の場合はありがちかと思います。
Posted by おおおかとしひこ at 2019年06月01日 16:37
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