2019年06月05日

必死であること

脚本添削スペシャルで書きそびれたこと。
なぜ主人公(やその他の人物は)そんなに必死なのか?
について、設定しているだろうか。


主人公が必死じゃない物語は、たいして面白く無い。
なんとなくゆるくやっていく、
いわゆるオフビートが流行った時代があるけど、
それは周りが全員必死だったから、
オフビートの俺カッコイイ、ってことだっただけだ。

なんとなくの動機があるだけ、
いつかかなえられたらいいなあという夢があるだけ、
まあ適当に行動すればいいや、
などという主人公は、
緩すぎて面白く無い。

それよりも、
これをしないと死ぬ、
人生と引き換えにしてもいいからなんとかしたい、
この夢が壊れると、俺の生きている意味がわからない、
片足と引き換えにしてでもこの行動を成功しなければならない、
重い心臓病を抱えているが、3分だけはサッカーしたい、
などのほうが面白い。
必死さが違うからだ。

必死な人は、見ていて面白いのだ。

「追い付かれたら殺される」という典型的なチェイスが、
どんな映画でも面白いのは、
必死だからだ。
まあ適当に走ればいいんでしょ?
には、この面白さがない。

ということで、主人公には、必死になってもらおう。

それは、主人公がアツイ性格だから、
とかは一切関係がない。
クールなやつでも必死にすることが出来る。

以前にも書いたが、
前にあるものと後ろにあるものによってだ。

Do A, and B.
Do A, or B.

の形の英語で示すことが出来る。
大昔これは、
「Aせよ、そうすればBになるだろう」
「Aせよ、さもないとBになってしまう」
のように習ったかと思う。
前者が前にあるもの、
後者が後ろにあるものだ。

Aという行動をどれだけ必死にしなければならないか、
ということは、
Aをしたらこうなるという未来の期待と、
Aをしなかったらこうなるという悲劇と、
ふたつを設定することが出来る。

添削スペシャルの例では、
漫画家をやめてさっさと結婚しないと、綾が30になってしまう、
という後ろ向きの理由があり、
さらには、「同じことをやり続ける人生を受け入れないといけない」
という精神的抵抗がある。
前方の理由には、漫画家になるとこんないい未来が待っているとか、
読者の目をキラキラさせることが出来る、
とかがあるのだろうが、
それはそこまで主人公が必死になる理由にはならないと思ったんだよね。
だとしたら、饅頭屋を継ぐことが必死で嫌だと設定したほうが、
後ろから必死さをつくることが出来ると思ったのだ。

ということで、
Do A, and B.が弱ければ、
Do A, or B.の強いものを持ってくることで、
必死さを作っていくことが出来る。

あとはこれらが、知らない人にも理解できる形になっていると、
「分る」ということになり、感情移入になっていく。
漫画家も饅頭屋も分からない人でも、
「同じ毎日を続ける人生は嫌だ」ということは分る。
それが嫌だと考える健に、
感情移入が始まるわけだ。

漫画家がどれだけ人々を幸せにしているかとか、
前向きな理由ではない部分で、
感情の原始的な部分で、
健と繋がる感じがする。
これが感情移入である。

感情移入を描くのがうまいということはどういうことか。
みんなの共通の人物や出来事というガワを出すのがうまいことではない。
これは、「あるある」や共感のうまさである。
そうではなく、
全然別世界のこと(この方が異様で、他にないものだから魅力がある)
なのに、多くの人が分かる、共通事項を持ってくることが、
うまさなのだ。
この「違うことと同じこと」の落差をどれだけ作れるか、
が、ストーリーテリングのうまさだと、
まずは認識するとよい。

添削スペシャルの例で言えば、
「漫画家を目指す人」がなるべく普通の人から遠くなければならないし
(ここの読者には近すぎる世界かもね)、
「毎日同じことをし続ける生活」がなるべく普通の人に近くなければならない。
その落差が、おもしろさを生む。

で、さらに主人公が必死だと、
話の勢いがあり、面白くなってくる。


必死にしなければいけないほど、
ストーリーは緊張をまし、面白くなる。
締め切りを設定してギリギリにしていくのも、よくある手だ。
(今回だと30になる前に、とゆるい締め切りがある)


状況はどんどん辛くなっていく。
必死さは益々ましていく。
感情移入は、どんどん必死になっていく。
それが理想だ。

そうなるように状況を作ってあげるのが、
作者の仕事だ。
posted by おおおかとしひこ at 14:16| Comment(2) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
キャプテン翼の最近のやつで三杉くんが心臓病治ってしまったことにファンが反感を示したって話をどこかで見たんですが、何となくわかった気がします。

彼の必死さを奪うことになってしまったのですね。
Posted by kyky at 2019年06月06日 13:01
kykyさんコメントありがとうございます。
心臓治ってたのか。
だとしたら、心臓病以上のハンデや動機を彼に与えれば、三杉くんはさらに面白いキャラクターになったはず。
逆に言うと心臓病以外彼のアイデンティティがなかったのが、
キャラクター設計上の問題だといえますね。

三杉くんが心臓病が治って、
女の為に頑張るのか、
ある技を習得しようとして頑張るのか、
死んだ友達の為に頑張るのか、
色々考えなかったのでしょう。

同様にスラムダンクの三井も、
登場時の不良時代のほうが必死で、
3Pシューターになってからキャラが弱くなりましたね。
Posted by おおおかとしひこ at 2019年06月06日 14:44
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