2019年06月25日

落ちを予感させるのか、伏せて不安にさせるのか

これは常に決めた方がいい。
最初に方針を決めておくと、
途中で迷った時も役に立つ。
(方針を変更するのも決断のひとつで、
だったら最初に戻って書き直せばいいだけだ)


人生は結末が分からない。
だから不安であり、
一喜一憂がはげしい。
今の一喜一憂が、将来の一喜一憂と連なるかどうかも不明で、
だから人は永遠に幸せにはなれないのかもだ。
(不安になるからこそ、発展してきたとも言えるが)

いつ終了するかも分からないし。


この人生の不透明性は、
物語の不透明性と同じだ。

つまり、
(二周目以降ではないとして)
「先がわからない」ということだ。


一方、観客にとってみれば、
「物語なんだから、ちゃんと終わる」ことを知っている。
つまり、どんなに不安で不透明であろうとも、
主人公は死なないし、
なんだかんだいってハッピーエンドになり、
きっちりオチがつくだろう、
という淡い期待のことだ。

不安が強い場面であろうと、
その期待がある限り、
「これをうまく解決するだろう」
という期待と興味が、焦点維持の原動力になる。

その「上手いことやってくれるだろう」
という期待はどこから出る?
好きな作家だったらわかるけど、
知らない作家だったら?

つまり、初見の人に対して、
「この物語は不透明で不安だが、
安心とオチに見事に終着します」
と、どうやって期待させるかだ。


途中途中を面白くして、
信用されるという手がもっとも強い。
「今までもなんとかしてきたんだ。
(自分には無理だが)
こいつらなら見事な解決をするはず」
という期待である。

アメリカ映画は、このような典型を取ることが多く、
だからアメリカ映画のヒーローは強く、
期待を持たせてくれるわけだ。


で、本題。

落ちを(バレバレで)予感させるべきか?
それとも不透明にして、人生の不安を強く打ち出すか?

その比率を決めておこうということである。


勿論、ストーリー展開によっては、
展望が開けたり閉じたりするので、
作品内で一定している必要はない。

しかし物語全体の平均で、何対何になるかを決めとこうぜ、
ということだ。

これは、「作者の人生へのスタンス」だと考えることができる。

勿論、感情移入のあたりでよく議論する通り、
これが作者そのものの考え方である必要はなく、
「その作品内での人生へのスタンス」が首尾一貫していればそれでよく、
あなたの人生観と一致する必要はない。
むしろ、「一致しないもの」をコントロールして書けるか、
という話でもある。

で、落ちバレ多目、不安少なめなのを、コメディ、
落ちが見えず不安が多めなのを、シリアスという。


コメディとシリアスの境目は、
ギャグが多いとか真面目が多いとかではなく、
登場人物が楽観的か悲観的かとかではなく
(悲観的な男が主人公のコメディもあれば、
楽観的な男の悲劇もある)、
ハッピーエンドが強く見えている(ゆえに面白い)か、
全く見えずに不安である(ゆえに面白い)かの、
違いでしかないと、
僕は考えている。

ギリシャ演劇以来、
物語には喜劇と悲劇があるとされてきた。
その差は、ここではないかなあと考えている。

悲劇というとバッドエンドを想像してしまうが、
それは必要ないと思う。
それは訳が悪いだけで、tragedyにはもっと広い意味があると考える。

たとえば、
「こんな人生はクソだが、ここから脱出すれば幸福が待つかも知れない」
とラストで結論に至る、
「トレインスポッティング」は、
概ね悲劇、つまり「結末が見えない不安」のまま進む。
そうしてラストに鮮やかに希望に転じるから、
印象的で前向きなラストシーンになるのだ。

トレインスポッティングがコメディかシリアスかでいえば、
シリアスだと思う。
登場人物たちは明るく楽しそうに振舞ってはいるが、
それは人生に横たわる怪物「不安」を前にした逃避行動だと、
読解力のある人なら読めるはずだ。


だから、ギャグ多めとか真面目多めとかの、
表面的なことで、
ジャンルを判断するのは誤りだ。
本質を見なければならない。


ということで本題に戻ると、
作品としての、結末への確信と、不安のバランスを、
決めておきなさい、ということである。
簡単に言えば、
1:9なのか、3:7なのか、5:5なのか、7:3なのか、9:1なのか、
決めときなさいということ。
10:0もあるかも知れないが、
どちらかの成分は含んでおくと味は深くなるだろうね。

このようなことは、
おそらく誰も教えてくれないかもしれない。
途中で配分が変わっても、
それを指摘することも難しいかもしれない。

このことを知っておくと、
自分で判断できるようになる。
posted by おおおかとしひこ at 10:41| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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