2019年07月31日

物語とは整理である2

神話や伝承を例に取ろう。
これらは、整理されていない。


神話や伝承は、文字のない時代に出来た。
したがって口承だ。
一人が一人に伝え続けたのかというとそうではなく、
(語り部のような職業はいただろうが)
複数の人が伝えたと考えられる。
その人が移動すれば、別の場所へ伝播しただろう。

人の伝承は変形する。
伝言ゲームをやればわかる。
仕事の連絡はなぜうまくいかないのか。
それは、「それぞれの理解が違う」からである。
それぞれが理解しているところとそうでないところがあり、
人によって解釈が異なるということだ。
ただでさえ人は都合のいい部分は拡大して、
都合の悪い部分はないことにしたがる。
伝言ゲームは、どこを拡大してどこを隠蔽したか、
ということのシミュレーションが可能だ。

変形を嫌い、韻文形式で伝承する場合もあっただろう。
歌にしておけばそうそうは変化しないからだ。
とはいえ、何年前もの歌を歌詞カードなしで歌えないように、
歌すら変形の可能性はある。
あるいは、昔のヒット曲を歌う往年の歌手が、
その歌を歌いすぎたのか、
オリジナルと違う節回しになっていることもよくある。

さて。
口承の特徴はこうだ。
複数の人(ルート)による、伝言ゲームだ。

容易に想像できる通り、
これらは複数の形でオリジナルから変形していく。

たとえば武術を見ればわかるが、
型があったとしても分派に分裂する。
長年分派に分かれていると、
同じ型でも全く動作や解釈が異なってくる。

そもそも言葉がそうだ。
複数の人の複数の伝承は、
方言や仲間うちだけの隠語、ローカルルールを生んでいく。

で、神話や伝承文学に戻ろう。

結果、複数のバージョンがあるということになる。

文字が発明されたとしても、
印刷技術を待つまで、手写しであったことを想像しよう。
つまり活字が出来るつい最近まで、
「オリジナル」という考え方すらなかったかもしれないのだ。

ギリシャ神話ですら、
伝承により複数のバージョンがある。
記紀神話は比較的初期にオリジナルが保存されていて、
ノータッチが貫かれたので保存状態がよい。
(しかし複数の改竄箇所が指摘されている)
桃太郎や浦島太郎においては、
何十ものバージョン違いを集めることができる。


神話や伝承は、こうした複数のバージョンから、
もっとも妥当だと思われるものを、
誰かがひとつにまとめたものが、
大体は正編となっている。
しかしその誰かすら複数いて、
誰々版といった違いがあったりする。


今原始キリスト教を調べているのだが、
キリストの言行を記録したものが、
複数人バージョンあり、
(「ルカ伝」とか「マタイ伝」とか)
しかも分裂した各派キリスト教によって、
重んじるものや解釈が異なるという。
なるほど、
仏教の宗派も色々あると思ったが、
キリスト教も一枚岩ではないのか。


複数のバージョンがある神話などを見ていると、
整理されていないエピソードがちょいちょい出てくる。
現代の物語の常識では、
ここ意味わからんから切るべき、とか、
なんの伏線にもなってないからいらない、
みたいな部分が散見される。
しかしそれらは、「伝承されてきた形」としての価値があるから、
改変はされないのだろうが。

さて。

つまり、
「昔の物語」は、
複数の人による複数バージョンの伝言ゲームの果てのものしかない。
だから、混乱している。

主人公の解釈すら異なり、
宗教戦争になっている。
(キリスト教の異端審問は、
キリスト教の内部で起こったことだった)
そもそもイスラム教とキリスト教は、
ユダヤ教の分派だ。

つまり、
放っておけば、物語は拡散し、発散してしまうのである。
現実と同じようにである。

印刷技術は、これを原典ひとつにしようとした、
人類の偉業なのかもしれない。
(まあ版によってバージョンが異なることもよくあるが)


さて。

つまり、私たちが書く物語とは、
発散しない形での収束なのだ。

発散して、色んな人に色んな解釈をされて、
次代に歪んで複数の形に伝わるものではなく、
それが存在する限りその形を保存するのだ。

だから、
それは整理されていなくてはならないのだ。

発散して、各自の解釈によって歪まないように、
クリアで誤解を生まないような、
はっきりしたものである必要があるのだ。

それは勿論、
全部を説明しなさいということではない。
野暮なものはやめて、
洗練されたものであるべきだ、ということだ。

その洗練の仕方を競っている、
ということかも知れない。


つまり、あなたの書く物語は、
明治だろうが暗示だろうが、
整理された洗練である必要がある。

そこまで高めた独自性を、オリジナルな表現という。
posted by おおおかとしひこ at 11:00| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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