最悪のラスト10分を削除するとして。
ふつうに、リュカがゲマを倒す物語として完成させる条件としよう。
何が必要だろう?
動機だ。
悪の帝王、ゲマの動機が描かれていない。
ゲマのデザインは素晴らしく良かった。
手だけ飛んでくのも良かった。
門を開かんとした時、
顔と手だけになり、
消失していく様もよかった。
シナリオ的な問題は、
「そこまでして、何故ミルドラースを蘇らせたいか?」
だ。
世界を破滅させたいのだろう。
では何故か?だ。
ゲマはずっとマーサの結界を、
メラゾーマ的な何かで打ち破ろうとしていた。
そこまで彼を駆り立てる、
世界を破滅させたい理由について、
この物語は決定的に足りない。
彼は悪役だ。
つまり、我々の側であるリュカと、
反対の理由である必要がある。
それがアンタゴニスト(敵対者)の物語的役割である。
仮に、いじめられっ子だったとする。
誰も助けてくれない、
彼にとっては世界が暗黒だったとしよう。
だから彼は世界の破滅を望みとしたとしよう。
そこに悪魔がつけこんだ。
我を復活させればそれを叶えよう。
我と契約するか?と。
悪魔は代償を要求する。
ゲマの下半身でもいいし、
子供ゲマの飼っていたモンスターの命でもいいし、
両親でもいい。
それと引き換えに魔法を授けるから、
その力で天空城をつくり門を開けよと、
悪魔が囁いたとする。
彼にとって、この世界に生まれたことが不幸で、
それは無くなってしまえというのが彼の目的。
こうすれば、
リュカの「この世界は続いて欲しい」
という欲望と対比できるので、
アンタゴニストとして成立することになる。
たとえばそれは、
「生家を焼き払う」エピソードで対比できる。
故郷の街まるごとでも構わない。
そうすればラスト、焼き払われた街が、
人々の力によって再建されている姿を描けて、
「人はこの世界を続けようとする」
が浮き彫りになるはずだ。
リュカとゲマの対比の最も強い所が、
生家を焼き払われ、石化される場面になるため、
シナリオのボトムポイントとして機能しただろう。
物語はこうやって構築するものだ。
足りない部分はなにか、
余計な部分はなにかを、
理論と照合して盛ったり削ったりしていく。
理論はテンプレでなく柔軟な形をしているから、
型にはめればおしまいではない。
物語は形を持たないが形を持っている、
という感覚はそこから来ると思う。
もちろんこの解はひとつの可能性であり、
別解があってもよい。
ゲマをアンタゴニストにせず、
魔王ミルドラースをアンタゴニストにしてもよい。
その場合ゲマは傀儡キャラになるだけで、
しかしミルドラースが姿を見せるのは、
セオリー通りミッドポイント直後になるだろう。
ミッドポイントは記憶によれば結婚だったから、
その直後に門から手でも出てくればそうなるはず。
こうした場合、ミルドラースに、
世界を破滅させたい動機を作らなければならない。
天空の勇者との因縁が必要とは思われる。
そうした場合、天空の一族の長いストーリーが必要になり、
再び同じ一族に倒される、
宿命のような円環がテーマになって来るかもしれない。
しかしそうなると、
リュカやビアンカ、パパスや息子などの、
人間の家族の物語が薄れそうなので、
前の版がオススメかもしれない。
また、ヘンリー王子の伏線があまり効いていない。
樽に乗って脱出するところまでは最高だったが、
王国に帰った後ラストに軍団を引き連れるだけでは、
友情の物語としては不十分。
ビアンカとの結婚式に来て、
一度ゲマと交戦するなどの小エピソードが欲しかったところ。
あるいは、息子に剣を教えたのはヘンリー王子で、
石になったリュカをサンチョとともに、
苔が付かないように磨いていた、
なんて黄金パターンもありだろう。
フローラについても物足りない。
魔女に化けていたのは良かったが、
その後がないのが勿体ない。
案外強い女になっていて、
ヘンリー王子とともに、金持ち軍隊を引き連れて、
クライマックスに戦う女として再登場すれば良かったのに。
(ヘンリー王子とフラグを立たせても良い)
いずれにせよ人間サイドは、
「この世界をもっと良くしようとしている」
ということが伝わるといいと思う。
アンタゴニストと対比的であればあるほど、
動機は強くなる。
ヘンリー王子の部下たちだってロボットじゃなくて人間だ。
彼らにもそれぞれに動機があるんだからね。
これらのエピソードを採用する尺は十分ある。
ラスト10分削るんだから。
全尺103分だから、さらに10分伸ばしても問題ない。
物語はテーマである。
テーマを中心にコントラストをつくり、
主人公とアンタゴニストを対立させる。
この構造できちんとつくれば、
王道の勧善懲悪型になり、
カタルシスもあっただろう。
ここから逃げた山崎版は許すべきではない。
ラスト10分のゴミをとり、
きちんと再構築するべきだ。
2019年08月06日
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