2019年08月20日

「ヘンダーソン夫人の贈り物」を褒めておく

物凄い感動するわけでもないし、
大ヒットしたわけでもない。

しかし昨今のクソ映画に比べれば、
遥かに良心的で、各部に細密な細工がある。

僕はこういうのを良品と思うし、
こういう作品が常に作られ続けて欲しいと思う。
「ふつうにいい」とはこういうこと。


なぜこれを取り上げるかというと、
「ババアが頑張る話」ってなかなかないよね、
なんて後輩と話していたとき、
マッドマックスのアレとか、
ペンタゴンペーパーズが挙げられたのだが、
いやいやもっといいのがあるだろ、
と記憶の棚を洗い出し、
思い出したのがこれだった。

当時はウェルメイドとはこういうものだ、
と感心したくらいだったけど、
今考えると、
「全てにおいて匠の距離感で作られている」
と考えられる。


無理のあるストーリー展開や、
どぎつさだけで引っ張る展開や、
登場人物を使い捨てることや、
出落ちや、
自信のなさの裏返しとしての、俺が考えたんだぜ凄いでしょイキリや、
配慮の足りない人間観など、
いまの邦画にあるクソ要素が一切ない。

きちんと楽譜が計算され尽くして、
各演奏家に任せた上で、
オーケストラをコントロールされているような、
見事な集団の仕事を見ることができる。


イギリス人は知性が高いのか、
それとも階級差が激しくて、
知性の高い人しかこうした職場につけないのか、
そこのところは分からない。
下ネタなんだけど品があり、そして下品である、
そのバランス感覚がすばらしい。
人間の本質は下品であるが、
それゆえ上品であろうとすることだ、
という仮面舞踏会の伝統を感じる。
(そういえば仮面舞踏会のアイズワイドシャットも、
キューブリックはイギリス人だ)

これはコメディだろうか。
抱腹絶倒とか吉本新喜劇のような「笑い」ではない。

しかし、
「世の中には二つのジャンルがある。
tragedyとcomedyだ。
前者は人生は儚く酷いものであると描き、
後者は人生は素晴らしく生きる価値があると描くものだ」
という、
大昔からの伝統に基づけば、
この映画はcomedyである。


日本でもこういう良心的な作品が作れないのだろうか?
マーケティングとかクソデータはどうでもいいのに。
NHKなら作れるのかな。

文化とは余裕である、というヨーロッパの伝統を、
上手に映画に落とし込んだ良作。


もし未見であれば、おススメです。

ひょんなことからストリップ劇場の支配人を継ぐことになった、
上流階級のヘンダーソン夫人(独り身のばあさん)。
戦争時の検閲に負けないように、ヌードを芸術と言い張るための、
あれやこれやを工夫して行き…

「笑いの大学」と目的は同じ。舞台とストーリーラインも動機も全然違う。


アマプラもネトフリもないらしく、
ツタヤにあると思ったらなくて、
取り寄せレベルにないらしい。
日本の余裕がなくなる前に見ておくべし。
posted by おおおかとしひこ at 10:30| Comment(2) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ヘンダーソン夫人の贈り物、ですね。
未見です。最寄りのツタヤやゲオに行ってみます。
ただ、住んでるところが田舎なので品揃えが良くないのが
不安なのですが。最悪、取り寄せになるかもしれませんが、監督の目を信じさせて頂きます。

ちなみにお返しといってはなんですが去年の夏に公開された「ペンギン・ハイウェイ」というアニメ映画もなかなか佳作でした。お薦めです。でも、この主人公も彼女と世界についてさんざん悩んでいるので、もしかしてこれもセカイ系? 監督の目から見て判断してもらいたいところです。それでは。
Posted by りん at 2019年08月24日 21:05
りんさんコメントありがとうございます。

ペンギンハイウェイか…
森見登美彦原作には因縁があり、少し構えてしまう。
(過去記事「恋は短かし歩けよ乙女」関連参照)
暇があれば見るかも。
Posted by おおおかとしひこ at 2019年08月24日 23:24
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