2019年08月24日

執筆の工程と進捗表

日産ページ数を何日分か計測して、
「全体を書くには○日かかる」と見積もるのは、
本当には書いたことのない人の素人計算だ。

何故なら、「どこを書いているか」で、
ペースは全然変わるからだ。

僕は大体いつもこんな感じ。
グラフに視覚化してみた。


執筆の進捗.jpg


一幕:二幕前半:二幕後半:三幕は、
経験上、4:9:7:3くらいで時間がかかる。


二幕前半が一番時間がかかる。
新しい世界へ突入して、
ディテールを作りながらストーリーも進行させることが、
大変難しい。

ここの方向性でこれからのこと、
作品全体のムードが決まると言っても良い。

もっとも挫折しやすいのはここではないだろうか。

ミッドポイントまでたどり着けば、
あとは勢いで書けるかというとそうでもなく、
やっぱりストーリーの牽引力が足りない場合がある。
それはここのパートの出来いかんである。

今書いてる話は、
ミッドポイント直前まで書いたが、
牽引力に納得がいかず、
最初から全面的に書き直した。
結果、納得がいかないまま続けるよりも心が楽になった。

物理的にしんどいのは、心が楽な方が耐えられる。
心が折れたら創作はおしまいだ。


これに比べて、
三幕は一瞬で書ける。
最も筆が乗るからだ。
殆ど迷いがなく書けると思う。

書き終えたらこいつらと会えなくなるなあ、
などの寂しさから、執筆時間を伸ばしたりもするけれど、
ガッと終わらせた方が幕のキレがいいよ。
惜しまれながら終わるのが最高の幕切れ。
もっといたいけど、ここが終わる時です、となるのが理想。
そしてその方が最終的に何度もリピートされる。



各幕を細かく見ていこう。



一幕の冒頭は、誰でもすぐ書ける。
閃きがあり、書き始めたのだろうから勢いでいける。
主人公の第一のセットアップも大体書けるだろう。

既にこの時点で速度が落ちる。

次どうしたらいいか分からなくなり、さらに速度が落ちて、
ここが第一の挫折ポイントだろうね。
事件に巻き込まれたあとの、主人公の反応と行動について書くこと。

ここから逃げて、「他の人の他の話」を書き出してはいけない。
主人公がその人になってしまい、
前の主人公はほったらかされるだろう。

その第二の人が真の主人公になるかと思いきや、
また行き詰まると同じことをしがちなので、
第三の主人公に移行して…を繰り返して、
浦沢直樹みたいなよく分からない話になってしまうぞ。
(これらの複数主人公の話を計画的にやっているのなら構わないが、
現実の執筆の辛さから、楽な方に流れてこうなるのはいただけない。
何故ならストーリー執筆の、
ごく最初の楽な所だけを延々繰り返しているだけだからだ)

主人公に寄り添い、この先を書ければ、
他の人は対主人公では脇役なのだと分かってくるだろう。

主人公の行動こそがストーリーの主軸だ。
社会的善だけが行動じゃなくて、
逃避や悪いことも行動である。
ただし「引きこもる」「何もしない」は行動ではない。

楽な行動をしないこと。

行動には常になんらかの抵抗がかかる。
その抵抗を乗り越えるだけの動機が、
ストーリーのエネルギーである。
その動機に納得させることが、一幕でやるべきことだろう。
(感情移入は必須ではない。まず理解するまでが必須。
「そんなことでそんなことをするはずがない」
などの理不尽でなければ、この先はうまくいく)

そうこうしているうちに、
ストーリーは流れ出し、
第一ターニングポイントのヤマへなだれこめるだろう。
ここで主人公が平和な日常世界と決別し、
危険な冒険の旅に出ることになるはずだ。


二幕前半が最も大変なことは既に書いた。

ここでどういうことが起こっておくべきかは、
プロットに書いてない限り書けない。
「あとで思いつけばいいや」ではダメ。
何故なら、ここで思いつかないことこそが、
挫折の原因だからだ。

ここで挫折しないために、
プロットを練っておかなければならないのだ。
プロットとは計画のこと。
計画なき開拓は迷走する。


大変なのは、危険な冒険の世界、
非日常世界のディテールを描くことだ。
どこまで書けば面白いか、
それを書きながら話を進めることの両立が難しい。

ただの設定の羅列で、
それが話を進めることに寄与していなければ、
いつまでたっても話がストップすることになる。
(たとえば「We are little zombies」の4人の自己紹介パートのように)

コツは、小さなトラブルを起こすことかも知れない。

大きなトラブルは当面の目標だが、
それはすぐには解決しない。
しかし小さなトラブルなら手で掴める大きさだ。
それを解決する過程で、
新しい設定を出しやすいだろう。

ミッドポイントまで辿り着ければなんとかなるものだが、
ここは大抵大仕掛けがあるので、
それなりに構築の時間がかかるだろう。


二幕後半になると、
執筆の平均速度自体は上がる。

これまで広げてきた風呂敷の、各要素が噛み合い始め、
余裕も出てくるだろう。

問題はボトムポイントで、
最も感情が負に振れる部分、
いわゆる洞窟をどう抜けるかだ。

ここがうまく書ければ、
第二ターニングポイントや三幕へ向けて、
強力な推進力になる。

第二ターニングポイントは、
第一ターニングポイントより書くのが難しい。
この付近のどのシーンも第二ターニングポイントになり得る。
分散しないように、
ひとつの絵(イコン)で纏めた方がいい。

一般的に、
第一ターニングポイントの方が動的な絵で、
第二ターニングポイントの方が静的な絵になる。
嵐の前の静けさ度は、後者の方がより深い。


三幕は淡々と、熱を持って進行できる。

これまでの思いをぶつければ、勝手に書けると思う。
ここまで来れば各キャラクターは勝手に動くレベルになっているから、
各人物に目端が効くと思う。
丁寧に大胆に描いてあげよう。

そしてその感覚は、今後リライトで発揮される。
最初の方は、各キャラクターはこんなに生き生きしてなかったはずで、
この感覚を持って最初の方を書き直すことになる。

とはいえ、各キャラクターはこれまでの冒険で成長してきたはずで、
最終状態ではなく、
初期状態、成長途中、いま、
みたいな段階を踏んできたことを踏まえるべきだ。

今なら各キャラクターのアーク(成長曲線)が書けるはずだ。
今のうちに軌跡を全登場人物ぶんまとめておいてもいいかも。
リライト時に参考になる。

さあ、解決の瞬間を書こう。
これでどんなカタルシスが生まれるのか。
主人公は抽象的に、ここで生まれ変わるはずだ。
その意味が、おそらくテーマだろう。


ラストシーンは、
そこから一拍おいた後日談的なことになりやすい。
大変なことの後片付け(精神的、物理的)が終わり、
あれはこうだったのだと意味を付け加えるか、
日常へ回帰したときに、
土産は何か(それは物理ではなく精神的なものだろう)を、
明らかにするはずだ。

もしラストシーンを変えたくなったらどうだろう。
変えてもいい。
なんなら複数書いてもよい。
一番しっくり来るのが答えだ。
あるいは、ラストシーンだけ凄いのを思いついたら、
それに相応しいように、
また冒頭から書き直せばいいだけのことだ。

完璧に完結できたら、そこで執筆はおしまい。
おつかれさまでした。
リライトでやるべきことが既に課題として出ていたら、
箇条書きにまとめておこう。
そうして、
最低二週間は(理想は三ヶ月)、原稿やメモを見ないこと。


頭をリセットしてからでないと、
リライトに手をつけてはいけない。
「初めてこれを見る人」になるまで、
別のことに集中しなさい。



一幕を書くのに、二週間かかったとする。

4:9:7:3だとすると、
全部を書くのに11.5週かかる計算。
ざっくり三ヶ月だ。
ページ数で言えば二ヶ月で書けるはずだけど、
そうはいかない。
工数が違うのだよ。

一幕を書くのに一週間なら、
6週かかるわけだ。
逆に一ヶ月で仕上げたかったら、
一幕を5日で書き終えること。
これは相当なハードスケジュールだ。

一幕を書くのに二ヶ月かかったなら、
11.5ヶ月、一年かかるだろう。

だいたい、経験とあってると思う。



焦らず計画を立てて見積もりましょう。
遅れたらこの辺には上がります、と交渉しましょう。

急いでもどこかで破綻します。
コツコツ書くことでしか進めません。



ついでに、もっと引いた目線で。

進捗大枠.jpg

プロットを煮詰める方が、執筆より断然かかる。
文字数にすれば100倍は違うというのに。

そして執筆より、リライトの方が時間がかかる。
リライトとはすなわち再プロットの時間に他ならない。

ストーリーの再組み立て、
設定の再組み立てをすればするほど、
せっかく作った秩序はカオスに飲み込まれ、
新しい秩序を再構築しなければならなくなる。

その再組み立てにかかる時間は、
執筆のあの苦しい時間よりも何倍もかかる。

この比率は人によって異なると思うが、
僕の経験を描いてみた。参考にされたい。
posted by おおおかとしひこ at 20:00| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。